イカサマトランプ
与野高校文芸部
イカサマトランプ
記録――4024.6.19――曇り――28°
『E.B/0001、記録を開始しろ』
記録を開始します。「素晴らしい街」の警備に当たり、2727日経過。
反逆の意思がある人間がいるか、街にスキャンを行う。結果、1。距離、測定不可。
………………天音………………
――――――記録を終了する。
記録――4024.6.20――曇りのち雨――27°
『E.B/0001、記録を開始しろ』
記録を開始します。「素晴らしい街」の警備に当たり、2728日が経過。
反逆の意思がある人間がいるか、街にスキャンを行う。結果、1。距離、50m。
『ゆき……ね……? 雪音だよね……! ねえ!!』
『ユキネ――検索結果は0件です。あなたは誰ですか?』
『ロボットに、されてたの……。そういえば、あの説明書に手書きで……』
この人間から反逆の意思を感知。排除します。
『あった……! ロボット化した人間の説明。字が汚くて読みにくい……。えっと、背中にあるボタンを押す……』
背中のどこかから何かを押された感覚がして、天音の声が聞こえた。
「雪音! 私が分かる?!」
「
私の姉の天音がそこにはいた。忘れていた思い出がよみがえるように、頭の中に流れてくる。
エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー、エラー。
うるさい、うるさい! 私は人間だ!
天音と話したいのに、頭に鳴る警報のせいで声が聞こえない! 天音と、また……。
『緊急事態と判断、
私の意に反して体にあるスピーカーから音が聞こえる。もう時間がない。
「また、天音と遊びたいなあ。天音、トランプにイカサマしてたでしょ。私、気づいてたよ」
天音の返事も待たず、一息で話しきる。
「天音……この世界はおかしくなっちゃったみたい。ううん、おかしくしちゃった、みたい……。ごめんね。」
「ダメ……もうどこにも行かないで……!」
天音の口から聞こえた最後の言葉に微笑みを浮かべながら、天音を遠くへと突き飛ばした。
爆発音の中、少女が消えた。
* * *
この世界はまさに完璧だ。戦争なんてものはなく、過度に働く必要もない。それらすべてはロボットがどうにかしてくれたから。人々も争わず、まさしく平和な世界だった。
私も、大好きな妹の雪音と一緒に家族で暮らしていた。7月が始まった日は気温が高くて、雪音と一緒に室内でトランプをしていた。
「はい、私の勝ちー!」
「もう! ちょっとは手加減してよー!」
雪音が勝つことは絶対にない。だって、このトランプには、小細工がしてあるから。
「もう一回! 次は勝てるから!」
それでも懲りずに、何度も勝負を仕掛けてくる雪音が、かわいくて仕方がない。そんな姉妹の様子を微笑ましく見つめる両親も、何もかもが完璧だった。
そんな平和はすぐに壊された。家に突然
それから、私はずっと両親と雪音を探した。探し始めて3年経った頃、家の引き出しから厳重にロックされた箱を見つけた。そのロックが解除できたのはさらに2年たった時だった。中にはロボットの設計図など、ロボットに関係する書類が箱いっぱいに詰まっていた。だが、両親はロボットに関する職業ではなかったはずだ。興味本位で書類の中を見てみると、手書きで書いてあるページが目に留まった。読む人のことなど考えていないかのように、ぐちゃぐちゃに書かれたページを読む。『ロボット化した人間の説明』と書かれていた。だけど、そんなことを気にしてはいられないと、私はまた雪音たちを探し始めた。
それから半年くらい過ぎたとき、両親がもうこの世にはいないことを知った。近くで警備しているロボットを捕まえて、説明書を見ながら分解したら、記録を発見した。そこには、私の祖先が最初にロボット――いいや、人工知能を作った一人であることが載っていた。両親がいないことに吐き気を覚えたのは記憶に深い傷を与えた。
そして、またさらに3年たった時、やっと雪音を見つけることができた。
「ゆき……ね……? 雪音だよね……! ねえ!!」
いや、目の前の雪音は、雪音の顔をした何かだ。
「ユキネ――検索結果は0件です。あなたは誰ですか?」
「ロボットに、されてたの……」
人間をロボットに……!? そんな話は聞いたことがない。そういえば、あの説明書に手書きで書いてあったはず。あった……! ロボット化した人間の説明。字が汚くて読みにくい……。えっと、背中にあるボタンを押す……。
ボタンを押す触感が指に伝わり指を離す。
「雪音! 私が分かる?!」
「あ、まね……。天音……!」
よかった……! うまくいったみたい……! 帰ろ――――
『緊急事態と判断、強制シャットダウンを行います』
言おうとした言葉を遮られて、雪音から音がする。口が動いていないのに聞こえたその音は、雪音の腹から聞こえているようで、無機質な声を聞いていると、雪音の心臓が動いていないことを実感する。そんなことを思っているうちに雪音が話し始める。
「また、天音と遊びたいなあ。天音、トランプにイカサマしてたでしょ。私気づいてたよ」
私に話す隙を与えないかの如く、早口で捲し立てられた言葉を、理解するのに時間が掛かる。あのトランプ、気づいてたんだ……。
「天音……この世界はおかしくなっちゃったみたい。ううん、おかしくしちゃった、みたい……。ごめんね。」
「ダメ……もうどこにも行かないで……!」
嫌だ。また会えたのに、なんで。親も雪音も居ないのなら、私は、どう生きればいい? 雪音、雪音……
「次は、勝たせてあげる」
だからまた、二人でいよう。
その言葉を聞いた雪音は少し微笑んで私を突き飛ばした。
巨大な爆発に二人の少女が消えていった。
イカサマトランプ 与野高校文芸部 @yonokoubungeibu
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