第62話 初めての魔法(実践)
転移魔法を使うには魔法陣が必要となる。
幸い、それはここへ来る際に竜崎くんが残しており、あとはここへ魔力を注ぐだけで記録した場所へ移動することが可能。
ちなみにこの魔法陣が記憶しているのは拠点であるログハウス。
つまり、ここを無事に乗り切ればもうお家は目の前という寸法だ。
――が、それをスムーズに実行できないから困っているわけで。
頭で考えれば非常にシンプルで分かりやすいシステムなのだが、その「魔力を注ぐ」という根本的な部分を完全には理解していないのだ。
ただ、竜崎くん曰く、魔力を持つ者であれば子どもでもそれくらいはすぐに身につけられるという。
実際に俺は魔鉱石の効果を引き出しているので、まったく可能性がないわけではない。自分の中でなんとなくだが手応えも感じていたし、今回もきっとうまいくはず。
……いや、絶対に成功させなくちゃいけない。
何せ竜崎くんの命がかかっているんだからな。
俺は魔法陣の上に竜崎くんを寝かせると、早速ダンジョン内でやっていたように意識を集中し始める。
いつの間にか周囲には大勢の精霊たちと甲冑兵が。
みんなも俺が成功できるよう祈ってくれるらしい。
「よし……」
深呼吸を挟んでから、俺は目を閉じた。
思い出せ。
さっきダンジョンでやったことを。
それと同じようにやればいいのだ。
あの時も「これだ!」という具体的な方法があったわけじゃなく、本能に従って「きっとこうだろう」と曖昧な空気でやっていたけど……いざあの時の気持ちになろうとしても、そう簡単にはいかない。
チラッと目を開けると、目の前には苦しそうに横たわる竜崎くんの姿が。
もう猶予はない。
すぐにでもルナレナ様に報告して容態を診てもらわないと。
「くそっ……どうすればいいんだ……」
焦るほど泥沼となっていくような気がする。
落ち着かなくちゃダメだと頭では理解しているが、心が追いついていない。
どうすればいいのかと悩み始めた――次の瞬間、周りから何やら声が聞こえる。
「っ!? せ、精霊たち!?」
俺が聞いたのは精霊たちの歌だった。
歌詞はうまく聞き取れないが、たぶん俺を勇気づけてくれているのだろう。
「……そうだ。俺がしっかりしなくてどうする」
この場で竜崎くんを救えるのは俺しかいないのに慌てふためいてどうする。もっと冷静に状況をチェックしながら最適な答えを導き出さなければならない。
「ふぅ……ありがとう、精霊たち」
心に余裕が生まれ、再度チャレンジ。
すると、さっきまでとはまるで違い、魔力が魔法陣全体へと浸透していく感覚がハッキリと分かった。
「なるほど……これが魔法陣を使うってことか」
またひとつ異世界の知識が身についたところで、俺と竜崎くんの体を青白い光が包み込む。
それからすぐに目の前が真っ白となって――気がつくとログハウスの前に立っていた。
「つ、ついた……」
矢凪隆也。
アラフォー。
たぶん世界で初めて魔法を使った人間――としては、やっぱり語り継がれていかないんだろうなぁ。
その点については残念だが、とりあえず目的地に到着したのでヨシとしよう。
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