第37話 吾輩はウサギである
「それで、あぁ……」
「申し遅れた。吾輩の名はマルディーニだ」
またしてもカッコいい名前!
なんかちょっと羨ましいぞ。
「では、マルディーニさんの望みというのは……」
「吾輩もあなたの世界へ連れていってもらいたいのだ」
「えっ?」
彼の言う「あなた」というのは――紛れもなく俺だろう。
しかし、そのような重要な決断はルナレナ様にも判断を仰がなくてはいけないだろうな。一応、外見だけなら普通のウサギとして通るのだろうが、うっかりと喋ってしまわないかという不安もある。
「とりあえず、ルナレナ様にも聞いてみないことには――」
「私は別に構わないわよ?」
「うおっ!?」
いきなり背後から声をかけられて飛び上がりながら驚く。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。失礼しちゃうわね」
「いや、その、まったく予想していなかったので」
「ふーん……まあいいわ。それよりもそっちのウサギ――マルディーニだったかしら。来たければついてきなさい」
「おぉ! よろしいのか!」
マルディーニさん……いや、ウサギに「さん」付けはどうなんだ?
でもあの貫禄は思わず「さん」を付けなくてはいけないという気にさせる。クマやシカだったらその巨体を前に圧倒されて思わず敬語を口にするかもしれないが、俺よりもずっと小さなウサギだからなぁ。
ただ貫禄はバッチリなのでやっぱり敬語で話した方がいい気がしてきたぞ。
というか、そんなマルディーニさんの方が敬語で話してしまうルナレナ様のカリスマ性よ。
「あっちの世界にもあんたと同じウサギはいるから怪しまれないのでしょうけど、うっかり喋って面倒な事態にしたくないから会話能力だけは封じさせてもらうわよ?」
「問題ありません」
ジャージ着た女子高生にしか見えないが、そこは創造の女神。
相手から言葉を奪うくらいわけないのだ。
……なんかサラッと言ったけど、なかなか怖いことしているよな。
何はともあれ、こうして新たにマルディーニさんが加わったのだった。
◇◇◇
いつものワゴン車に乗り込み、トンネルを抜けて現代日本へと帰ってきた。
「おぉ……ここがもうひとつの世界……」
「暴れると危ないっすよ!」
興奮状態にウサギ――じゃなくてマルディーニさんは抱っこしてくれている竜崎くんが動揺するくらい暴れていた。
ちなみに今回の運転役は俺が務めている。
「日本と異世界がつながるトンネル……普通に通過できるもんですね」
「何を考えていたのか知らないけど、特別なドラテクなんて必要ないからね?」
冷静にツッコミを入れる創造の女神。
……いや、助手席にジャージ着た女神がいるって何気に凄い状況だな。
ともかく、いつもより賑やかなメンバーでいつもの道の駅を目指すのだった。
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