第27話 メンテナンス
「なぁ沙月」
「ん?」
急に真剣な顔で沙月を見る笹兎。
「俺らに今足りていないもの……わかるか?」
「………生きる希望?」
「いや足りてるわ。え、何お前死にたいの?」
「主人様たちに足りていないもの………もしかしてヒーラーですか……」
「ああ」
確かにゲームの世界であればヒーラーというのはパーティによっては必要ではなかった。というのも、その世界では料理がありそれを食べれば瞬時に体力が回復するからである。しかしこの世界は現実世界で料理を食べても瞬時に体力が回復するわけではない。必然的にヒーラーが必要になるのは当然のことであった。
「でもヒーラーって言ったって、どうするのさ。石はないみたいなもんだし、かといって私たちの世界のように石をバンバン集められるわけじゃないし……」
「そこなんだよなぁ……」
結束石などを使えば体力を回復できるものの、体力が増えればその分回復させる石の数は増え、ガチャが引けなくなってしまう。そのキャラがモチーフになっている装備品もあったりするため石はなるべく確保しておきたい。
その時、万電帳が鳴った。
「マスター。どうやらマスターのソシャゲにアップデートが入ったようです」
「は?作者である俺は何もしてないのにアプデだと?」
「このアップデートはバージョン4.2β。βテストとしてマスターのスキルソシャゲだけ有効なアップデートのようです」
「ってことは神とやらが追加したのか……?」
「アップデート内容は、パッチの適用と新ガチャの追加です」
「パッチ?……と新ガチャだって?」
「え、パッチって何?」
「要は修正みたいなもんだ。まぁこのタイミングだ。どうせ『密毒林のサーキュ』のパッチだろ」
「マスター、お見事です」
「新ガチャってのはどういうことだ……?」
「アイテムガチャというものが追加されるそうです」
「アイテムガチャだって?」
それは笹兎が作っていたものではなかった。いや、実装はしていないものだった。というのも、笹兎はアイテムガチャを検討はしていたものの、容量が多かったり、システムをそもそも書き換えなければならなかったりしたため、断念したのだ。
「はい。色々なアイテムが実装されるそうです」
「まじか……まぁでもこの世界と俺のスキルなら容量を気にする必要はないが……システムは……」
しかしそこまで言って笹兎は言うのをやめた。スキルというゲームのような非科学的なものを授けたりできる存在なのだ。もし本当に神がどこかで聞いた話のように世界を作ったのだとしたら……俺のゲームごとき、簡単に作れるのだろうと笹兎は思ったからだ。
「アップデートに伴い、メンテナンスが開始されます」
「え」
「それにより、30分の間は万電帳の機能が使用不可となります。さらに、一時的にキャラクターが万電帳に強制送還されます」
「は?」
「え、つまり私とあそこで日向ぼっこしてるシュリーナは……」
「はい。一時的に送還です」
「えちょ……」
何かを言う間もなく、沙月とシュリーナは消えた。正確に言えば送還された。
「めんどくさ……って……俺のスキルの弱点がこれか……」
予測不明のメンテナンス。それは笹兎にとって致命的な弱点だった。
メンテナンスによりスキルのソシャゲが使えなくなっても笹兎のレベルは引き継がれステータスはそのままになる。それだけは不幸中の幸いと言えるだろう。
しかし笹兎が持っているのはガチャから出た武器。それはメンテナンスになると使えなくなる。さらに仲間や使い魔も使えなくなるのだ。正確に言えば、武器や新しく追加されるアイテムは、手に持ってさえいれば使えるもののインベントリーに入っているものは使えなくなる。
なぜステータスはそのままかといえば、それはあくまでもゲーム風に直した表示だからである。と言うのも魔物を倒すと必然的に討伐者は強くなる。それは魔物を倒した際に分泌される目に見えないガスが関係している。それが討伐者の体へと入り込み、身体が強化されるというわけだ。
それを笹兎のスキルソシャゲはステータス画面として可視化したに過ぎない。だからメンテナンスになったとしても笹兎の強さは変わらない。その代わり自分の強さがどれくらいなのか、具体的な数値を見ることはできないわけだが。
しかし笹兎のステータスというのは、絶望的なほど成長性が悪く基本的にステータスは低い。だからこそ沙月やシュリーナ、使い魔たちが必要だというのに……。
笹兎のスキルはハイリスク、ハイリターンといえよう。
使っている最中はこれでもないほど強い。なぜかといえば死んでも特殊なアイテム、または宿屋で休んだりすれば復活する強力な仲間、強力な使い魔をMP消費で使用可能。さらに豊富な武器に新しく追加されるアイテム。それらをたくさん持つことのできる万電帳のインベントリー機能。さらに他の図鑑やAIといった便利な機能が万電帳一つにまとまっており、その名の通り万能といえよう。
しかし、それは使えている間であって、メンテナンスが行われている間は笹兎は基本笹兎は無防備と言ってもいい。
確かに武器やアイテムはインベントリーに入れてなければ使えるものの、武器に関してはせいぜい2つ。アイテムも小さいもので4つぐらいが限界だろう。
「気をつけないといけないか……」
敵によって武器を変えることもアイテムを大量消費してゴリ押すこともメンテナンス中はできないのだ。さらにメンテナンスでなくともスキルソシャゲの弱点でもあるのが笹兎自身である。
彼は創作のキャラではないため、リスポーンができない。よって死んでしまった時点で死が確定されてしまい、沙月たちも消滅する。
そんな弱点のステータス成長度が低すぎる時点でとんでもなくやばい。
だからこそ、沙月たちが守ったりする必要がある。だがしかし、メンテナンス中はさらに困難を極める。笹兎を守るものがいない。さらに笹兎自身もほぼ無防備に近い状態。神の気まぐれによって笹兎がピンチになるということだ。
「これが本当の神頼み……か」
笹兎は違和感に気づく。
「ん?あゆ?あゆ……もしかしてお前……」
しーーーーん
——そう。当然あゆも創作。ソシャゲの中で生み出された人工知能であるためメンテナンス最中は使用不可になる。
「30分間こうして待っているのもアレだし……どっか歩いてみるか……」
笹兎は歩き出した。暇つぶしのために。
次の更新予定
毎週 土曜日 12:15 予定は変更される可能性があります
自作のソシャゲがスキルで最初にガチャで引けたのが主人公ってどゆこと!? 桜田かける @sakuradakakeru
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