第27話 上級生の魔法

「次、前に出ろ!!」

「は、はい!!」



白髪の教師は男子生徒を下がらせると次々と他の生徒を呼び出し、的当て人形に魔法を撃ち続け出せる。流石に上級生なだけはあって一年生と違い、全員がしっかりと的に魔法を的中させていた。


だが、白髪の教師は生徒が標的に魔法を当てたとしても褒める事は一切なく、それどころか魔法を完全に使いこなしていない生徒には厳しく指摘する。



「何だ今の魔法は!!当てる事に集中し過ぎて肝心の威力が落ちているぞ!!」

「ご、ごめんなさい!!」

「謝る暇があるならさっさと下がれ!!よし、次!!」



教師は厳しい態度で魔術師たちに指導を行い、そんな彼の態度に生徒達は怯えたり、あるいは不満の表情を抱く生徒も多かった。しかし、コオリが見た限りでは教師の言葉は確かに厳しく聞こえるが、的を射ている指摘ばかりだった。



「お前の魔法は無駄に魔力を使いすぎている!!ちゃんと吸魔石の訓練は受けているのか!?」

「え、いや、その……」

「言い訳をするな!!ちゃんと毎日吸魔石に触れる訓練を行えっ!!」

「う、ううっ……」



三年生にも関わらずに杖から魔光を放つ生徒に対して教師は厳しく当たり、怒られた生徒は大人しく引き下がる。一見すると可哀想に思えるが、コオリは教師の言う事は間違ってはいないと感じた。


コオリの目から見ても上級生の中には魔法を扱う際に魔光を生み出す生徒が多数存在した。それはつまり彼等が魔力操作の技術に粗がある事を示しており、そのせいで魔法の効果を完璧には引きだせていない。



(あいつは本当に凄い魔術師だったんだな……)



リオンの魔法は魔法学園の三年生の風属性の魔法の使い手よりも巧みであり、正に天才という言葉が相応しい。



(リオンは僕よりもずっと先にいる……けど、負けたくない)



少しでもリオンに追いつくためにコオリは上級生の魔法の授業を観察し、彼等が扱う魔法を観察する。他人の魔法を見て何か思いつくのかはコオリにも分からないが、他の人間が魔法を扱う場面は滅多に見られる物ではない。


廊下の窓から気付かれないようにコオリはこっそりと観察を続けていると、ここで彼はリンダが魔法の訓練に参加していない事に気付く。彼女だけではなく、数名の男子生徒が魔法の訓練に参加せずに離れた場所で見学している事に気付く。



(あれ?リンダさんは参加しないのかな?そういえばさっき、魔術師組とか魔拳士組とか言ってたような……)



教師は最初に「魔術師組」の訓練を行うと告げた事をコオリは思い出し、その後に「魔拳士組」と呼んだ生徒は見学を行うように告げた事を思い出す。どうやらリンダと他数名の男子生徒は「魔拳士組」と呼ばれ、魔術師組とは別れているらしい。



(魔拳士なんて聞いた事がないけど……いや、あったかな?)



コオリは昔読んだ絵本の中に「魔拳士」なる存在の話が出てきたような気がしたが、考えている間に最後の一人が魔法の練習を行う番が訪れた。



「次!!最後は……お前だ、バルト!!」

「へいへい……だるいなぁっ」



最後に前にでてきたのはぼさぼさの髪の毛の男子生徒であり、この生徒だけは他の生徒と違って白髪の教師を前にしても全く緊張した様子はない。しかし、白髪の教師はバルトの態度に眉をしかめ、一方で他の生徒達は緊張が走る。



「おいおい、バルトさんの出番が来たぞ」

「さあ、今日はどんな魔法を見せてくれるんだ?」

「ドキドキするな……」



同級生にも関わらずにバルトと呼ばれた生徒は他の生徒からさん付けで呼ばれているらしく、そんな彼の態度と周囲の反応が気になったコオリは様子を伺う。



「バルト!!言っておくが手を抜くなよ、もしも下手な魔法を使えば貴様の星を剥奪するぞ!!」

「はいはい、ご自由に~」



白髪の教師が怒鳴りつけてもバルトは余裕の態度を崩さず、この時にコオリはある事に気付いた。それはバルトの制服には星の徽章が既に3つも付けられており、魔術師組の中では一番高い評価を受けていた。


彼の他に星の徽章を身に着けているのはリンダだけであり、この星の徽章は上の学年に上がるために必要な評価の証で三年生の場合は年内に三つの星の徽章を集めなければ上の学年に上がれない。


バルトとリンダは既に卒業に必要な星の徽章を集めきっており、しかも今回の授業に失敗すれば大切な徽章を一つ失う事になるにも関わらず、全く緊張した様子がない。



「それじゃあ、行きますかね」

「……早くしろ!!」



白髪の教師が再度怒鳴りつけるとバルトは前に出て小杖を構えた。この時にコオリはバルトの手にした小杖には他の生徒が所持する小杖ではない事に気付く。恐らくは学園からの支給品ではなく、バルト個人の所有物だと思われた



「今日は……とりあえず、中級魔法のスライサーにしときますわ」

「何だと!?まさか独学で覚えたのか!?」

「俺を誰だと思ってるんですか?他人に魔法を習ってばかりだと格好悪いでしょ?」

「す、凄い!!流石はバルトさん!!」

「格好いい!!」



バルトが宣言した魔法は教師から教わっていない中級魔法らしく、彼が使用すると聞いた他の生徒達は騒ぎ出す。バルトは小杖を天に構えると、雰囲気が一変した。先ほどまではふざけた態度を取っていたが、今度は真剣な表情を浮かべて的当て人形に視線を向ける。


彼の雰囲気が変化した事に気付いた他の者たちは誰も止める事ができず、白髪の教師でさえも彼に近付く事ができなかった。やがてバルトは円を描くように小杖を振り回しながら呪文を唱えた。



「スライサー!!」

「うわぁっ!?」

「な、なに!?」

「す、すげぇっ!!」



バルトが魔法を唱えた瞬間、彼が振り回す杖から「渦巻」が誕生した。風の魔力で構成された渦巻は徐々に規模が大きくなり、それにつれてバルトは汗を流す。



「くぅうっ……」

「おい、無理をするな!!それ以上に大きくすればお前の魔力が……」

「まだまだっ!!」



きつそうな声を上げながらもバルトは杖を振り回すのは辞めず、どんどんと風の渦巻は大きくなっていく。それを見た白髪の教師は慌てて他の生徒に声をかけた。



「お前達、巻き添えを喰らうぞ!!下がれ!!」

「ひいっ!?」

「に、逃げろ!!」

「バルトさん、止めてくれ!?」



さっきまで騒いでいた生徒達も教師の言葉を聞いて距離を置き、その一方でバルトは杖を止めると彼の頭上には「円盤」のように回転し続ける渦巻が形成されていた。



「へっ、良く見てろよ……いくぞおらぁっ!!」

「いかん、全員伏せろ!?」

『うわぁあああっ!?』



バルトが杖を振り下ろした瞬間、彼の頭上に形成されていた円盤のように変形した風の渦巻が放たれる。渦巻は派手な土煙を舞い上げながら標的の木造人形の元へ向かい、粉々に吹き飛ばす。


木造人形は渦巻に飲み込まれた瞬間に木っ端みじんに砕け散り、やがて魔法の効果が切れたのか渦巻は膨れ上がると飲み込んだ木造人形の破片が周囲に飛び散った。この時に破片の一つが女子生徒の一人に目掛けて飛んできた。



「きゃああっ!?」

「危ない!!」



女子生徒に目掛けて吹っ飛んできた木片に対して動いたのはリンダであり、彼女は女子生徒の前に立つと右拳を繰り出す。この時にコオリはリンダの右腕に風が纏う光景を確認し、まるで「竜巻」のように風を纏わせた拳でリンダは木片を殴りつける。


木片は彼女の右拳が衝突した瞬間にさらに粉々に砕け散り、腕に纏った竜巻に吹き飛ばされた。それを見たコオリは驚きを隠せず、彼女は小杖を利用しないで魔法を使った。しかもリンダの場合は魔法名さえも唱えていない事に気付く。



(何だ、今の!?魔法じゃないのか!?)



リンダが魔法を使った様子は見られず、まるで彼女の身体に風が纏ったようにしか見えなかった。この時にコオリは初めてリンダと出会った時の事を思い出し、彼女はコオリを追いかけてきた時も今の様に風を纏った事を思い出す。



(身体に風を纏う……魔拳士……そうだ、思い出した!!)



コオリは昔読んだ絵本の中に魔法の力を自分の肉体に宿して戦う「戦士」を思い出した。この戦士は魔術師のように杖などの武器で魔法を使ってたたかうわけではなく、自分の肉体に風や炎を纏わせて敵と戦っていた。


今の今までコオリは忘れていたが、魔術師の中には自分の肉体に魔力を宿して戦う存在が居る事を思い出す。そのような人間は「魔拳士」と呼ばれ、彼等は普通の魔術師のように魔法を扱う事は不得手とするが、自分の肉体に宿す魔力を利用して独自の攻撃法を生み出す事ができる存在だった。



(リンダさんは魔拳士だったんだ……それにしてもさっきのあの人、とんでもない魔法を使ったな)



木造人形を木端微塵に破壊したバルトにコオリは冷や汗を流し、確かに魔法は凄かったが下手をしたら大惨事になっていた。もしもリンダが女子生徒を庇わなかったら今頃女子生徒は酷い怪我を負っていた。白髪の教師もバルトの行為に怒りを抱き、彼に詰め寄る。



「き、貴様!!何を考えている!!」

「はあっ、はあっ……どうですか先生?俺の魔法は?凄かったでしょう?」

「ふざけるな!!危うくお前は自分の仲間を傷つける所だったんだぞ!?」

「仲間?俺に仲間なんていませんよ、それに俺は失敗なんてしていない。そうでしょう、先生?」

「ぐぬぬっ……」



バルトの言葉に白髪の教師は怒りを抱くが、彼自身は魔法を失敗したわけではない。確かに魔法は的当て人形を破壊し、その際に木片が女子生徒に吹き飛ぶというは起きたが、魔法の実践を行う授業では事故などよくある事だった。しかし、それでも危うく同じ学年の仲間を傷つけかけたというのにバルトは悪びれもしない。

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