第15話 魔法学園の学園長
「魔法が使えるガキというだけで他の国では高く売れるからな。魔法学園から大金をせしめる計画は台無しだが、とりあえずはお前を売っぱらって良しとするか」
「…………」
コオリはキイバの言葉に怒りの頂点に達し、首を絞めつけられながらも空を見上げる。そして油断しきっているキイバに目掛けて引きつった笑みを浮かべた。
(何だこのガキ……何を笑ってやがる?)
追い詰められているはずなのに薄ら笑いを浮かべたコオリにキイバは不気味に感じ、彼が何を見たのかと空を見上げると、そこには異様な光景が映し出された。
(な、何だあれは!?)
キイバの視界に映し出されたのは先ほど上空に放たれたはずの氷塊が空中に停止し、方向転換を行いながら高速回転が加えられる光景を目にする。それを見てキイバはコオリの狙いに気が付く。
実は最初にコオリが撃ち込んだ氷塊の魔法は消えておらず、空中に留まって反撃の機会を伺っていた。先日にコオリは生み出した氷塊をどの程度まで操作できるのか調べた結果、彼の身体からある程度の距離ならば氷塊を対空できる事が判明した。魔法が消えたと油断していたキイバに目掛けて氷塊は降り注ぐ。
「落ちろ!!」
「ぎゃあああああっ!?」
杖が手元になくともコオリが念じれば氷塊を操作できるため、キイバの頭に目掛けて高速回転が加えられた氷柱は加速しながら突っ込む。ベーゴマを参考に回転を加える事で威力と速度が上昇した「氷弾」はキイバの頭を抉る。
「うぎゃあああっ!?」
「げほげほっ……はあっ、安心しろ。殺しはしないよ」
頭を撃ち抜く事もできたがコオリはキイバを生かして捕えるために狙いをずらし、頭の上の部分だけを抉り取る。それでも大量の血が頭から噴き出してキイバは悲鳴を上げるが、即座に目元を血走らせてコオリに襲い掛かろうとした。
「このガキがぁあああっ!!」
「ガキ舐めんなっ!!」
飛び掛かろうとしてきたキイバに対し、落とした杖を拾い上げたコオリは足元に目掛けて叩き込む。冷静さを失っていたせいでキイバは体勢を崩し、顔面から地面に倒れ込む。
「ぐえっ!?」
「これで終わりだ!!」
キイバが倒れた瞬間、コオリは彼の頭に目掛けて杖を振り下ろす。薪割りを行う時のように全力で杖を叩きつけられたキイバは白目を剥いて気絶した。
「あがぁっ……!?」
「はあっ、はあっ……おっしゃあああっ!!」
気絶したキイバを見下ろしてコオリは雄叫びを上げ、その声を聞きつけてやってきたのか巡回中の兵士がようやく駆けつけた。
「何だ今の声は!?」
「君、そこで何をしてるんだ!!」
「誰か倒れているぞ!?」
「あ、えっと……た、助けてください。襲われてたんです!!」
「いや、君が襲ってるようにしか見えないが!?」
コオリの前には気絶したキイバとセマカが倒れており、どう見ても二人を襲ったのは彼にしか見えず、誤解を解くのに時間が掛かった――
――王都を騒がせていた通り魔が捕まった話は瞬く間に噂となり、しかも犯人を捕まえた人物が子供である事から話題となった。王都の人々は少年の話題で盛り上がり、その話は魔法学園の管理を任されている学園長の耳にも届いた。
「マリア様、例の噂の件ですが警備兵に話を伺ったところ確認が取れました。現場の兵士からも直接話を聞いた結果、噂の内容は真実のようです」
「そう、相変わらず仕事が早いわね」
魔法学園の校舎の一階にある学園長室、そこには二人の美女が存在した。どちらも金色に光り輝く美しい髪、人間ではあり得ない程に細長い耳、宝石を想像させる碧眼に人形のように整った顔立ちをしていた。
この二人は人間ではなく「エルフ」と呼ばれる種族で人間であり、二人とも人間離れした美貌を兼ね備えていた。但し、マリアと呼ばれた人物は発育が良い体型だが、リンダの方は全体的に細身でスレンダーな体型だった。
「調べたところ、少年は魔術師の適性があるようです。通り魔を捕まえた際に魔法を使用して捕まえたそうです」
「魔法?という事はうちの生徒が捕まえたのかしら」
「いえ、調べて見ましたが該当する生徒はいませんでした。兵士の事情聴取によると最近に王都に訪れたばかりのそうです」
「あら……てっきり、うちの生徒だとばかり思っていたわ」
「私も同感です」
二人が噂を聞いた時は魔法学園の生徒が通り魔を捕まえたと思い込んでいたが、他の街から訪れた子供の魔術師だと知って驚く。しかし、マリアが気になったのはそれほどの実力を持つ子供がどうして魔法学園に入学手続きを行っていないのか不思議に思う。
「その子は魔法学園の入学手続きを済ませていないとなると、本人が学園に入るつもりはないのかしら?」
「いえ、話を聞いた限りではうちに入学手続きを行おうとした時に通り魔に襲われたそうです。しかも二日連続で兵士から事情聴取を受ける羽目になり、未だに入学手続きは終わっていません」
「それは災難ね……ちょっと待ちなさい、二日連続と今言ったかしら?」
「ええ、私も驚きましたがどうやら少年は二回も同じ通り魔に襲われた様です。一度目の時は通り魔の左眼を負傷させて撃退させ、二度目の時は通り魔を動けないようにして捕まえたそうです」
「……その話が事実だとしたらその少年は余程不運な人間ね。いえ、この場合は強運なのかしら?」
二回も同じ通り魔に襲われるなど普通の人間からすれば不運だろうが、少年の場合は生き延びる所か犯人を捕まえる事に成功している。そう考えれば逆に強運とも捕らえられるが、マリアが気になったのは少年の魔法の腕前だった。
「その少年の名前は?」
「コオリという名の少年です」
「コオリ……どんな魔法を使うのか聞いたのかしら?」
「現場に居合わせた兵士が少年が魔法を使う場面を見たそうです。なんでも氷を作り出したとか……」
「氷……それは中々珍しいわね」
人間の中で氷の魔法を生み出せる者は珍しく、大抵の人間の魔術師は火属性を得意とする者が多い。ちなみにエルフの場合は風属性の適性が高い者が多く、人魚族の場合は水属性、ドワーフならば地属性と種族によって属性の傾きがある。
氷を扱える者は水属性と風属性の適性がある事を示し、人間の中で氷を扱う者は滅多にいない。恐らくは先祖の中に人魚族かエルフの血が混じっている可能性が高く、学園長は少年に強い興味を抱く。
「その子に会ってみたいわ。リンダ、明日迎えに行ってくれる?」
「迎えにですか?少年が入学手続きに来た時にお会いになればいいのでは?」
「それだといつ来るのか分からないでしょう。それにまた通り魔に襲われてこれないなんて事もあるかもしれないわ」
「そんなまさか……」
「二度あることは三度ある、というでしょう?私の勘だけど、その子は中々に厄介な運を持ってそうなのよ」
「……分かりました」
リンダはマリアの言葉に頷き、明日になったら少年を迎えに行く事を約束する。マリアはリンダに微笑むと、まだ顔も合わせていない少年の事を考えて笑みを浮かべる。
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