第8話 魔法の練習
「森で魔法を使った時、お前は初めて魔力を操る術を身に着けたんだ」
「魔力?」
「魔法を構成するために必要不可欠な力……分かりやすく言えば生命力その物だ」
魔力とは全ての生物の体内に宿る力であり、生命力と同一視されている。魔術師はその魔力を消費して魔法を発現させるのだが、コオリの場合は森で初めて魔法を使用した時に魔力を使い切ってしまったという。
「お前が魔法を撃った時に身体に貯め込んでいた魔力を一気に使い果たした。だが、魔力を使い切った事でお前の肉体は魔力を使いすぎると死にかける事を理解した」
「肉体が理解したって……どういう意味だよ?」
「お前自身は森で魔法を使った時と同じ感覚で魔法を使用したんだろう?しかし、肉体はそれを拒否した。何故ならば同じ要領で魔法を撃てばお前は今頃意識を失っているはずだ」
「あっ……」
リオンの言葉にコオリは今回は自分が気絶しなかった事を思い出し、前回の時は魔法を一度使っただけで疲れ果てて意識を失ったが、今回は少し頭痛がする程度で済んだ。
「どんな存在であろうと魔力を使い切れば必ず死ぬ。森で魔法を使った時、お前の肉体は死にかけたんだ」
「し、死にかけた!?」
「安心しろ、しっかりと休養を取った今のお前なら大丈夫だ。だが、もしも次に魔力を枯渇するほど使い込めば助からないと考えろ」
「わ、分かった……」
コオリはリオンの言葉に頷き、彼の言う通りに魔法を使用する時は気を付けるように心掛ける。だが、問題なのは先ほどの魔法の威力であり、素手で簡単に受け止められる魔法など何の役に立つのかと不安を抱く。
森で魔法を使用した時は魔物に当てる事はできなかったが、数十センチの大きさの氷塊を生み出す事はできた。つまり限界まで魔力を引き出せば同じぐらいの大きさの氷塊を生み出せるはずだが、リオンによれば肉体が魔力を一気に引き出す事を拒んで同じ真似はできないという。
(リオンはあんなに凄い魔法が使えるのに俺はこんな小さな氷の塊しか生み出せないなんて……でも、魔法学園で訓練すれば強力な魔法が撃てるようになるんじゃないか?)
魔法学園に入学して技術を学べば今よりも強力な魔法を使えるようになるのではないかとコオリは考えたが、そんな彼の考えを読み取ったようにリオンはため息を吐き出す。
「忠告しておくが魔法学園に入った所でお前の魔力では新しい魔法も覚えるのも難しいぞ」
「ど、どうして言い切れるんだよ!?」
「簡単な話だ。いくら強力な魔法を覚えようとしても魔法を構成する魔力その物が足りなければ扱う事もできない。下手に強力な魔法を覚えようとして魔力を使い切れば死を迎えるだけだからな」
「な、なら魔力を増やす修行とかすれば……」
「残念ながら魔力を伸ばす方法は見つかっていない。過去に数多くの魔術師が研究を行ったが、魔力の容量は生まれた瞬間から変わる事はない」
「えっ!?」
リオンの言葉にコオリは愕然し、彼の話が真実だとすればコオリは魔法学園に入学した所で新しい魔法も覚える事も難しい。
「僕の言葉が信じられないというのであれば勝手にしろ。だが、故郷に引き返すというのであれば馬車を手配しよう。魔法学園の方には僕の方から辞退を伝えておく」
「……どうしてそこまでしてくれるんだよ」
「一応は森の中でお前に助けられたからな。貸しを返さないと気が済まないだけだ」
コオリはリオンの言葉を聞いて納得し、彼が嘘を吐いているとは思わない。仮に今の段階で故郷に引き返した場合、コオリは商人から受け取った大金を持ち帰る事ができる。そうすれば孤児院の経営も少しは楽になるだろうが、王都までようやく辿り着いたというのに引き返す事に悔しく思う。
(せっかくここまで来たのに……)
項垂れるコオリを見てリオンはため息を吐き出し、彼は部屋の外に出ようとする。扉を開く前にリオンは伝えた。
「明日の朝までに考えをまとめておけ。故郷に帰るか、それとも王都に残るか……決めるのはお前だ」
「……ありがとう」
「ふんっ」
コオリが礼を告げるとリオンは部屋から立ち去り、一人残されたコオリはベッドの上に横たわる。時刻は夕方を迎えており、明日の朝までに自分が帰るべきかあるいは魔法学園に入学するのか決めなければならない。
魔導士になるためにコオリは魔法学園に入学するつもりできたが、リオンの言葉が嘘ではなかったとしたらコオリは他の魔術師と違って魔法を覚えるのも難しい。しかし、簡単に諦められるはずがなかった。
「アイス!!」
部屋の中でコオリは杖を構えて魔法を唱えると、杖先が青く光り輝いて氷の塊を生み出す。最初に生み出した時と比べて随分と小さい氷しか生み出せないが、この時にコオリは杖の先端に浮かんだ氷を見てある事に気付く。
「あれ?」
今まで魔法を発動した時は杖の差した方向に向けて氷塊が飛んで行ったが、今回は杖の先端部から離れようとしない。但し、杖に氷がくっついているというわけでもなく、杖の先端部から数センチほど離れた位置に浮かんでいる。
試しにコオリが杖を動かすと氷の欠片も同じように動き、少し面白く思ったコオリは思いっきり杖を振ると、氷の欠片は一定の距離を保ったまま動く。
「へえ、ぴったりと付いてくる。でも、なんでだろう?」
氷の欠片が杖の先端から離れない事にコオリは疑問を抱き、これまで魔法を使用した時の事を思い出す。その結果、コオリはこれまで魔法を発動した時と条件が異なる事を思い出す。
――最初にコオリが魔法を発動した時、リオンから上空へ目掛けて魔法を放つように指示された。先ほどもリオンに魔法を撃った時は彼は自分に向けて撃つように指示を出し、そして通り魔の時はコオリが狙って魔法を撃ち込んだ。
これらの経緯からコオリは魔法を発動させる際、事前に「標的」を定めた状態で魔法を発動させなければ氷塊は動かない事が発覚した。そして今回は標的を定めていなかったので魔法を発動させても氷の欠片は杖から離れない事に気づく。
「……これ、もしかして動かせるかな?」
コオリは氷の欠片に視線を向け、この状態で標的を定めれば狙い撃ちできるのかを試す。部屋の中を見渡したコオリは机の上に置かれている自分の荷物を発見する。どうやらリオンが馬車から回収していたらしく、荷物の中から的になりそうな物を探す。
「あ、これ……皆に送ろうと思っていたお土産か」
荷物の中から木彫りの人形を見つけ出し、こちらはコオリが旅の途中で立ち寄った街で販売していた土産物であり、孤児院の子供達が喜ぶかと思って買った代物だった。子供達には悪いが別のお土産を用意する事にしてコオリは人形を机の上に置く。
「これぐらいの距離でいいかな……よし、行くぞ」
部屋の隅に移動したコオリは机の上に置いた人形に狙いを定め、杖を構えると氷の欠片を人形に目掛けて飛ぶように念じる。
「行け!!」
コオリの掛け声に反応したかのように氷の欠片が放たれ、真っ直ぐに木彫りの人形へ的中した。但し、欠片は当たった瞬間に砕けてしまい、人形を壊す事はできなかった。
「……あ、当たった」
人形を壊す事はできなかったが、氷の欠片を操作する事に成功したコオリは驚きを隠せない。この時にコオリは机の上を確認すると、砕けた氷は自然に解けて消えてしまう。氷が消えた場所には水滴すら残らず、どうやら魔法で生み出した氷は水分すら残さずに消えてしまうらしい。
机の上の人形を手にしたコオリは改めて小杖を確認し、先ほどの事を思い出す。氷の欠片はコオリの意思に従うように人形に目掛けて移動した。しかし、いくら当てる事に成功しても木彫りの人形を壊せないような威力では魔物との戦闘では当てにはできない。
(もうちょっと威力を上げる事はできないかな……そうだ、形を変えたりはできないかな?)
ちょっとした息抜きのつもりで魔法の練習を始めたコオリだが、自分がどこまでできるのか試してみたくなった。
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