閑話・母の日のプレゼントと雄介くんとあたし

母の日のプレゼントを買いに行こう!

【今、時間大丈夫?】


 雄介くんからそんなメッセージが届いたのは、ある日の夜のことだった。

 部屋でくつろいでいたあたしは、スマホの通知を目にして胸を躍らせると共に、即座に返信する。


【大丈夫だよ】

【どうかしたの?】


 その返信を送ってから十数秒後、今度はメッセージではなく電話の着信があった。

 ドキドキしながらそれに出たあたしは、軽く咳払いをしてから口を開く。


「もしもし、雄介くん?」


『あ、もしもし。声、聞こえてる?』


「大丈夫だよ~! どうしたの、急に?」


 「少し君の声が聞きたくなった」……みたいなロマンティックなことを雄介くんが言うわけがないと思っていたあたしは、そんなことを言う彼を想像してクスクスと笑いながら電話の理由を聞く。

 そうすれば、雄介くんは少しだけ申し訳なさそうにしながらこう答えてくれた。


『こんな時間にごめんね。実は、ひよりさんにお願いしたいことがあってさ』


「お願い? 何を?」


『買い物に付き合ってほしいのと、ちょっと意見を聞かせてほしくてさ』


「別にいいけど、何を買うつもりなの?」


 買い物に付き合ってほしいという彼のお願いを承諾しつつ、肝心な何を買うのか? という部分に関しても質問するあたし。

 少し慌てていた雄介くんも電話の向こうで落ち着き始めたのか、詳しい事情を説明し始める。


『もう少しで母の日でしょ? だから、母さんに何かをプレゼントしようと思ったんだけど、いいのが思いつかなくってさ。同じ女性のひよりさんに意見を聞かせてもらえると助かるなって思って……』


「ああ、なるほどね! そういうことかぁ!」


 雄介くんのお母さんの真理恵さん。出会って一か月くらいしか経っていないが、あたしもかなりお世話になった。

 本当にいい人だし、雄介くんたちからもとても愛されていると思う。


 そして、そんな母親へと日頃の感謝を伝える日である『母の日』が……五月の第二日曜日が、あと少しで訪れようとしている。

 明るくて楽しくて自分たち三兄弟をまとめあげる肝っ玉母さん的な真理恵さんに感謝を伝えようと、雄介くんも色々考えているようだ。


『普段は料理とかで感謝を伝えてるんだけど、もうそれも日常になっちゃってるからさ。それでプレゼントを贈ろうとしたんだけど、いざそういうことを考えてみると、なかなか難しいんだね……』 


「あははっ! 別に真理恵さんなら何を贈っても喜んでくれると思うけどね! でもやっぱり、折角の機会ならいいものを贈りたいっていう雄介くんの気持ちもわかるかな!」


 前に雄介くんにも言ったが、大事なのは何を贈るか? という部分より、その人を一生懸命に想う気持ちだ。

 一生懸命に考えてあたしに似合うヘアゴムをプレゼントしてくれた雄介くんの気持ちに、一番の価値があるように……彼が母親を想って選んだプレゼントなら、それが何であっても真理恵さんは喜んでくれるだろう。


 そう、ヘアゴムを入れてあるアクセサリー入れを見つめ、微笑みながら言ったあたしであったが、一年に一回の機会なんだからより母親が喜んでくれるものを贈りたいという雄介くんの気持ちもわかる。

 そういう優しい部分が好きなんだよなと改めて思うあたしに対して、雄介くんは言った。


『それでなんだけど、明日の放課後とか時間空いてるかな? ひよりさんさえ良ければ、少しショッピングモールに足を伸ばして色々と見て回りたいんだけど……』


「おっけ~! 明日の放課後ね? あたしは大丈夫だよ!」


『ありがとう。お礼ってわけじゃないけど、色々と見て回った後で軽食でも奢るよ』


「そんなことしなくていいって! あたしも真理恵さんにはお世話になってるし、日頃の感謝を伝えたいと思ってたしさ! その分、プレゼント代に回しなよ!」


 真面目な感じでそう提案した雄介くんへと気持ちだけで十分と伝えたあたしは、少しだけ意地悪な雰囲気を醸し出しながら彼へとこう返した。


「それにしても、雄介くんもデートのお誘いが上手になりましたな~! もうすっかり、手慣れた感じじゃない?」


『手慣れたって、そんなこと言わないでよ。これでも結構緊張してるんだからさ……』


「あはは! ごめん、ごめん!! まあでも、誘ってもらえて嬉しいよ! 真理恵さんのためにも、力になれるように頑張るから!」


 真理恵さんに贈るプレゼントを考えるという名目こそあるものの、これも立派なデートだ。

 また雄介くんと二人で過ごせることを心の底から喜ぶあたしは、足をバタバタと動かしながら明日の放課後が早くやって来てほしいと思い、期待に胸を疼かせるのであった。


―――――――――――――――


こっちのお話は本編終了後~二章に入る前にあったこと、みたいな感じです。

どうにか二章の中に入れたかったんですが、流れを考えると無理っぽいなと判断したのでここで供養させてください。


基本的にこのお話はひよりさん視点のお話になります。

あと、やってみたかったこととして脳破壊(?)的な要素もありますので、(雄介くんの脳は破壊されない)そちらも楽しんでもらえたらいいなと。

軽~くこういうことがあったよ、くらいの感覚で見ていただけると嬉しいです。

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