あの二人に嫌がらせしてやるぞ……!(仁秀視点)
「さっむっ! ったく、田沼の奴、部活を休みにするならもっと早く連絡しろよな~……!」
段々と強くなる雨と、それに比例して寒くなっていく気温を感じながら、俺は愚痴をこぼす。
今日の部活は外で行う予定だったのだが、悪天候でそれも難しそうなのでなしという話になった。
予想外のオフが貰えたのは嬉しいが、問題はその連絡を受けるのが微妙に遅かったということだ。
練習着に着替えて待機していた俺たちが連絡を受け、再び着替え直して外に出た時には雨が強くなり始め、面倒なことになっていた。
おまけに俺は今日、外で晩飯を食べて帰る予定で、この雨の中を歩いていかなければならない。
よく行くラーメン屋で食事を済ませようと思ったが、今日は定休日だったことを思い出した俺は、口がラーメンを食べるつもり満々になってしまっていたため、他のラーメン屋に向かうことにした。
というわけで俺は最近学校で上手いと評判の店を選び、降りしきる雨の中を歩いて向かっていた。
部活の連中や二奈は「この雨の中、わざわざ飯を食べに行きたくない」とか言って、俺の誘いを断りやがった。付き合い甲斐のない奴らだ。
女子の二奈はまだしも、バスケ部の連中は将来のエースの誘いは受けておくべきなのに、本当に気の利かない奴らだと思いながら歩いていた俺は、お目当てのラーメン屋を見つけると小走りで駆けていく。
寒い体に温かいラーメンの味がさぞ染みるだろうと、ウキウキ気分で店へと近付いた俺であったが……その中にいる人間の姿を見て、思わず動きを止めてしまった。
(ひよりと、尾上!? なんであいつら、二人でこんな場所に……!?)
店の奥にあるテーブル席、そこで尾上とひよりが向かい合って座りながらラーメンを食べているではないか。
楽しそうに食事をしている二人は、俺に気付く気配すら見せずに会話をしている。
(どうして二人きりで飯を食ってるんだよ!? っていうか、俺の誘いは断ったくせに、なんで尾上なんかと……!?)
この間、俺が同じようにラーメン屋に誘った時は嫌がったくせに、尾上とは一緒に行くのかよ?
っていうか、二人で飯に行くとかふざけてるだろ? こんな色気のない店でデートとかあり得ないからそういうんじゃあないだろうが、やっぱりムカつくことに変わりはない。
一人で雨に打たれながら寒さを感じている俺と、温かい店の中で二人で楽しそうにしているひよりと尾上を比べると、なんだか惨めな気持ちになってきて……それが俺の怒りを加速させた。
だけど、ここで店の中に乗り込んで文句を言うような度胸は俺にはなくて、イライラしながら踵を返そうとした時、店先に置いてある傘立てに気付く。
その傘立ての中には、ビニール傘が二本刺してあった。
店の中にはひよりと尾上以外の客の姿はないし、これはあいつらの物だろう。
(へへへ……! そうだ、これなら……!!)
周囲に人の姿がないことを確認した俺は、素早くその傘たちを引き抜くと急いでその場から離れる。
自分の傘と盗んだ二人分の傘、合計三本の傘を手に走る俺は、してやったりの表情を浮かべながら満足感を味わっていた。
(ざまあみろ! 尾上もひよりも、ずぶ濡れになっちまえ!!)
この近くにはコンビニみたいな傘を買える店はないし、バス停や駅なんかも少し歩かなければ辿り着けない。
傘があっても大変なくらいに激しい雨が降りしきる中じゃ、一生懸命に走ったところでずぶ濡れになることは間違いなしだ。
もしかしたらそのせいで風邪を引いちまうかもしれないが……俺の知ったことじゃない。
頑固なひよりと、人の女に手を出した尾上が悪いんだ。天罰ってやつだろう。
あいつらにやられたことを少しだけやり返せて、俺も溜飲が下がった。
ラーメン屋に関してはまた別の日に行けばいいし、今日のところはコンビニ弁当で我慢すればいいや。
(あ~、いい気分! どっちも体調を崩しちまえ! そしたらひよりの看病をしてやって、恩を売って、それで仲直りできるしな! 俺って最高!!)
まさしく神の一手、次につながる最高の一手だ。
少し運任せの部分もあるが、まあ気にしないでおこう。俺は運がいいから、きっとその確率を引き当てられるはずだから。
「ふんふ~ん、ふふふふ~ん!」
ザーザーと降りしきる雨の中、俺は鼻歌を歌いながらスキップで歩いていく。
この後、二人がどんな反応をするのかを想像しては気分を良くしながら、軽い足取りで家へと向かうのであった。
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