ひよりさんと突然のお泊まり会

第25話 最悪な気分まま、何日か過ぎた……(仁秀視点)

「なんか最近調子悪いじゃん、お前。どうかしたのか?」


「ああ、いや……その、ちょっと色々ありまして……」


 俺がひよりと尾上を家の前で見てから、何日かが過ぎた。

 見間違いだと思いたかったが、どうしてもそうとは思えずにいた俺は詳しい事情を聞き出すためにひよりに電話をかけたり、ラインを送ったりしたのだが、あいつに全部無視されてしまっているおかげで、何もわからないままでいる。


 そんなモヤモヤとした気分のままじゃ、バスケに集中できるはずもない。

 いや、バスケどころか他の何にも集中できなかった俺は何もかもがガタガタになってしまい、そのせいでメンタルもボロボロになるという悪循環に陥っていた。


 練習試合が近付いてきているっていうのに、このままじゃ本当にベンチ外確定だ。

 クラスの連中にも二奈にも滅茶苦茶イキってたってのに試合に出れないどころかレギュラーにも入れないなんてことになったら、俺の評価はガタ落ちになってしまう。


 どうにかしなくてはと焦る俺だが、焦ってもいいことなんてあるはずがなくて、むしろそのせいでまた調子を落としてしまっていて……抜けられない負のループに突入していた。


「頼むぞ、江間。お前、期待の新人なんだからさぁ」


「お前がピリッとしてくんねえと田沼も機嫌悪くなるんだよ。そのせいで練習キツくなんのは御免だぜ?」


「す、すいません……」


 そんな俺を心配して……いるというよりかは、顧問の田沼の機嫌が悪くなって自分たちに不利益が出るのが嫌であろう先輩たちが、俺へと言う。

 練習前、部室でそんな話をしていた俺は、どんどん悪くなる状況に焦りを募らせていたのだが……この日、神は俺に味方してくれた。


「失礼しま~す。皆さん、揃ってますか~?」


「おっ! 二奈ちゃんじゃ~ん! どうしたの、急に?」


「田沼先生からの伝言で~、なんか今日、部活お休みにするみたいで~す」


「ええっ!? マジっ!?」


 突然のオフ宣告に驚く先輩たち。

 面倒な練習をしなくていいと喜ぶ俺たちへと、二奈が言う。


「ほら、今日これから雨がめっちゃ降るかもとかニュースで言ってたじゃないですか。確率は低いけど、万が一にも大雨で電車とか止まったら大変だし、今日は安全第一で早めに帰らせようって話になったらしいですよ。明日もオフだし、ちょうどいい休みになるだろうって先生が言ってました」


「おっしゃ、ラッキー! なら、さっさと帰っちまおうぜ!」


 運動着に着替えていた先輩たちが、歓喜の叫びを上げながら次々と部室を出ていく。

 俺も喜びながら外に出れば、そこで待っていた先輩の一人が肩を組み、ニヤニヤと笑いながらこんなことを言ってきた。


「なあ、江間。お前、明日暇か?」


「えっ? 暇っちゃ暇ですけど……?」


「よ~し! じゃあ、明日ちょっと付き合えよ。実は、西高の女の子と一緒に遊ぶことになっててさ、こっちの人数が一人足りなくて困ってたんだ」


「そ、それって……合コン、っすか?」


 思いもしなかった誘いに驚く俺に対して、先輩がニヤニヤと笑いながら頷く。

 パンパンと背中を叩いてきた先輩は、俺に向けてこう言ってきた。


「お前も色々思い悩んでるんだろ? だったら、パーッと遊んでストレス発散しちまえよ。お前は顔もいいんだし、上手くいけば、他校のかわいい子といい仲になれるかもしれないぜ?」


「い、いい仲……!!」


 先輩にそんなふうに言われた俺の頭の中には、というワードがネオンのように点滅していた。

 まさか高校に入って早々、こんな楽しいイベントに参加する機会がやって来るだなんて……と胸を躍らせながら一応二奈の様子を窺ってみれば、あいつは自信たっぷりな笑みを浮かべながら、目で「どうぞ楽しんできて」と語っているではないか。


 俺が他の女の子と仲良くなろうと、一番が自分ならばどうでもいいということなのだろう。

 器の大きい彼女からのお許しを得た俺は、満面の笑みを浮かべながら先輩へと頷く。


「はい! 俺で良ければ、ご一緒させていただきます! 明日は最高の一日にしましょう!」


「いいじゃん! いいじゃん! そのノリだ! そんじゃ、今日はうちに泊まりに来いよ。明日の作戦会議兼前夜祭で盛り上がろうぜ!」


「はいっ!」


 やっぱり俺はツイてる。というより、能力があるからこうやってかわいがってもらえるんだ。


 ひよりのことは気掛かりだが、あいつに拘ってウジウジしていてもいいことがないのはこの数日で身を以て理解している。

 まずはメンタルをリセットして、そこからまた動けばいい。そのためにも明日の合コンは楽しまなければ。


 そこでかわいい女の子とお知り合いになって、いい雰囲気になれば、三人目の彼女ができるかもしれない。

 もしかしたらお持ち帰りできて、一気に大人の階段を登れるかも……! という期待に胸を躍らせながら、俺は先輩の家に向かうのであった。

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