第10話 俺の方が尾上より幸せだよな!ハーレム待ったなし!(仁秀視点)

「よ~しひでっ! お・は・よっ!」


「おお……! 二奈、おはよう」


 自分のクラスに向かっている最中、腕をぐいっと引っ張られて物陰に連れ込まれた俺は、美少女の甘い声を聞いて頬を緩ませる。

 俺の目の前にいる美少女、ロングの黒髪を靡かせながら笑顔を見せるその女子こそが、つい先日俺の正式な彼女になった柴村二奈だ。


 今まではひよりに隠れて付き合う二番目の彼女だったが、あいつが俺から離れている今は、二奈が繰り上がりで一番目の彼女ってことになる。

 俺がひよりと別れたこと……つまりは、あいつに浮気がバレたことは二奈も知っているが特に焦っている様子もなく、むしろ邪魔者が消えてすっきりしたとばかりにそのことを喜んでくれていた。


「今日は朝からスポーツテストだね。仁秀は運動神経抜群だし、クラスの女子たちから注目されちゃうだろうな~……! として、ちょっと嫉妬しちゃうかも」


「ははっ! スポーツテストなんて、ちょっと走ったり反復横跳びしたりするだけだろ? キャーキャー言われるようなもんじゃねえよ」


「それでもやっぱり不安だな~! 私のは、すごく格好いいからさぁ……!!」


 囁くような声でそう言いながら、媚びるような笑顔を向けてくる二奈の言動に、俺は痺れるような喜びを感じる。

 そう、これだ。かわいい女の子から熱烈に愛を向けられている実感。彼氏彼女という言葉が飛び交う、自分たちは付き合っているんだと思えるような会話。ゾクゾクとしたこの感覚が、俺が求めていたものなんだ。


 ひよりと付き合っていても味わえなかったこの喜びを、二奈は何度も感じさせてくれた。

 恋人してるっていうか、これまでも浮気相手として甘えた態度を見せてくれていたが、正式な彼女として昇格した今はそれに輪をかけて俺へのアプローチがすごいことになっている。


 この調子なら、すぐにでもヤらせてもらえるかも……!? と、二奈に甘えられながら以前胸を揉ませてもらった時に言われた「高校生になったらもっとすごいことをさせてあげる」という言葉を思い返すと、ついつい頬が緩んでしまう。

 まあ、胸のサイズ的には少し物足りないが、決して二奈もないわけではない。規格外のひよりの爆乳に慣れてしまったせいで相対的に小さく感じてしまうというやつだ。


 それに、二奈にはひよりほどの胸はないが、それ以上に素晴らしい部分がある。

 そんな俺の思いを見抜いているかのように、二奈は近くの廊下を歩く同級生たちに聞こえないようなひそひそ声でこう言ってきた。


「仁秀はモテるよね~……! バスケ部でも期待のエースって言われてるしさ~。今年のマネージャーが多いのも、仁秀目当ての子がいっぱいいるからだもんね。まあ、私もその一人なんだけどさ!」


 自慢じゃないが、俺はモテる。中学時代からバスケ部ではエースだったし、顔も悪くないという自負があった。

 中学時代は幼馴染のひよりがいたからこそ、周囲の女子たちはあいつに遠慮して俺に声をかけてこなかったが……あいつとの関係を知らない者が多数の高校に入学してからは、そういった縛りからも抜け出すことができている。


 いい感じに身長が高いスポーツマンで、運動神経は抜群! 顔もイケメンだし、性格もいいし、コミュ力だってある俺に、人気部活のバスケ部でエースとして期待を寄せられているという肩書まで付けば、女子たちが意識するのも当たり前だ。


 既に十人ほど、女子たちから連絡先を聞かれていた。

 その中でもかわいいと思った子とだけ連絡先を交換した俺は、そのことを包み隠さずに二奈に報告している。


「俺の一番は二奈だよ。、な。ただ、これから先、好みの女の子にアピールされたら、目移りしちゃうかもな~!」


「ふふふ……っ! 大丈夫、わかってるから。私は仁秀に捨てられた情けない元カノとは違う。幼馴染って関係に胡坐をかいて、仁秀を全然楽しませてあげられなかったあのチビとはね。誰が何をしようとも……私が仁秀を夢中にして、離れられないようにしてあげる♥」


(うっひょ~~~っ! これこれぇ! これだよなぁ!!)


 ちょっと危険な雰囲気を漂わせながらの、甘~い二奈の囁き。

 執着というか、プライドの高さというか、俺が浮気を臭わせてもそれを拒むどころか受け入れて、その上で一番になってみせるという二奈の言葉に、俺はどうしようもなく興奮してしまっていた。


 最低と吐き捨てて去っていったひよりとは違う。堂々としているというか、俺への想いを貫いているというか……愛する男の全てを受け入れる度量の深さと嫉妬心の強さの両立こそが、俺が二奈に夢中になる大きな理由だった。


「ほら、おっぱいの大きさしか取り柄のないチビでブスな女のことなんてさっさと忘れちゃいなよ~……! かっこいいところを見せてくれたら、好きなだけ揉ませてあげるからさ……!!」


「おぉぉぉぉぉ……っ!?」


 俺の右腕を抱き締め、胸の谷間に腕を……挟むことはできなかったが、まあ押し当てることはできた二奈が耳元で囁いてくる。

 この刺激! 腕に伝わる柔らかさ! 特別な関係の男女にしか許されない体験! 全てが最高だ!!


(どうだ、尾上? お前も背中にひよりのデカパイを当ててもらえて喜んでるんだろうが、そんなの大したことねえんだよ!)


 心の中で尾上に勝ち誇りながら、空いている左腕を見つめてニヤリと笑う俺。

 いずれはこっちの腕にひよりを抱き着かせて、あの爆乳の間に左腕を挟んでもらおうと……いや、もっと多くの女の子に囲まれるハーレム王となった俺の姿を尾上に見せつけてやろうと決めた俺は、愉快な気持ちのままに浮かべている笑みを強めた。


「……そろそろ、教室に行こっか? HR始まっちゃうし、朝一からスポーツテストなんだから準備しないとね」


「あっ……!!」


 俺の右腕を解放した二奈が、そっと俺の背中を押しながら言う。

 もう少しあの柔らかさを味わっていたかったが仕方がない。スポーツテストでいい成績を出して、ご褒美に揉ませてもらうことにしよう。


(ひよりが戻ってきたら、二奈と俺の奪い合いをするんだろ? そしたら……へへへっ!)


 涎が垂れそうになる幸せな展開を想像した俺は、二奈と時間を空けて教室に向かうことにした。

 二奈と付き合っていることがバレたら、俺にアプローチを仕掛ける女子たちが減ってしまう。そんなもったいない事態を避けるためにも、注意を払わなければ。


 高校入学と同時に訪れたモテ期を、二奈との甘い生活を、俺は存分に楽しむと決めている。

 女子の胸一つも揉めない尾上と違う、最高の学園生活を送るのだと……数日前に嫌な思い出をすっかり忘れた俺は、有頂天になりながらスキップで教室へと向かうのであった。

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