異相世界で孤独を嗜む

たつきけん

プロローグ

 都会から程遠い小さな病院の産婦人科で、その子は産声を上げた。


 「おめでとうございます九地さん!元気な男の子ですよ~」


 にこやかに産まれたての赤子を抱き上げるベテラン助産師から、九地と呼ばれた女性は我が子を受け取った。瞬間、目を瞠り体をこわばらせた。


 「あの、うちの子の出生体重って、幾つでした?」

 「ええと、たしか3286グラム……だったと思いますけど」


 それを聞いた母親は、産後の疲労からか、違和感によるものか、突如として気絶し、赤子を腕から取り落とした。


 「ちょっ……九地さ……っえ!?」


 その時、助産師が目にしたのは、親の腕を離れながらも重力に縛られることなく宙を漂う赤子、という異常極まる光景だった。

 動揺し、まさに開いた口が閉まらない状態の助産師の眼下で、赤子はゆるゆると下降し母親の腹の上で寄り添うように再び重さを取り戻した。


 「……どうしよう……えぇ~」


 とりあえず、母親が眠っているだけということを確認してから、元通り三キロほどになった赤子を再び抱え上げ、助産師は保育器のある部屋へと向かう。道中、幾人かの同僚に体調を心配されながら、彼女は悶々と思考を止めない。


 そうして目的の部屋へたどり着く頃、彼女は結論へと導かれた。


 「とりあえず、見なかったことにしよ。言っても信じてもらえなさそうだし」


 いつも通り保育器へ赤子を丁寧に寝かせて、通常業務をこなすべく彼女は足を進める。


 後にその判断は世界中を騒がせることを、助産師の彼女が知る由もなく。

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