夜の神社に集うもの

やざき わかば

夜の神社に集うもの

「夜の神社には、あやかしが集まってくるから、行ってはいけない」と言われる。


 しかしながら、なかなかどうして夜の神社を散歩のコースにする人間は多い。それもそうだと思う。なにしろ、真夏でもひんやりと不快感のない空気、厳かだが万物を受け入れる懐の深さがある。


 色で表すと、『深く青い空気』とでも言うのだろうか。それほど夜の神社は、その神秘性も相まって居心地が良いのである。


 かくいう俺もあやかし、妖怪である。単純に夜の神社の雰囲気が好きなこともあるが、この神社は人がよく立ち寄るため、足繁く通っている。


 何故か? 俺は、人間の友人が欲しい。


 そう思いながら、事あるごとに神社に通った。その熱意が実ったのだろうか。私に数人の人間の友人が出来た。


 妖怪には、それはいろんなやつらがいる。いろんなやつらがいるが、人間にもいろんなやつがいる。人間とはいったいどういうものか、人間とあやかしは仲良くできるのか。俺はそれが知りたい。


 自分と存在が違うものと親しくなる。これはとても素晴らしいことだと思うのだ。


 最初は挨拶を交わし合うだけの仲だったが、そのうち世間話をするようになり、今は近くの自動販売機で買ったコーヒーや、コンビニで買った酒で、境外で語り合うことも多くなった。


 だが、親しくなればなるほど、彼らに自分の素性を隠し通すことに、罪悪感を覚えてきている。


「次の休みに、みんなでキャンプに行かないか」


 ある夜、友人の一人がそう言った。みんなは盛り上がり、満場一致で行くことに決定した。


 キャンプの前日の夜も、相変わらず神社に集まり、次の日のキャンプについて盛り上がっていた。


 俺は、もう我慢の限界だとばかり、勇気を出してみんなに話し始めた。


「突然だが、俺の話を聞いてくれないか」

「おお、なんだよ改まって」

「悩み事かい。金はないぞ」

「おい、黙ってきけよ」


「実は俺は、妖怪なんだ。これでも明日のキャンプ、参加して良いかな」


 俺は、正体を表した。俺は九尾の狐。妖怪の中でも、特に霊力が高く、過去には俺の同胞が人間に仇を成した、という話が広く語り継がれている。


 みんながポカンとしている。それはそうだ。自分たちより大きな、しかも九本の尻尾を持った金色の狐が、眼の前にいるのだ。恐れられ、逃げられても仕方がない。


 でも、俺はもう、この気の良い仲間たちに自分の素性を隠すのが辛くて苦しかった。これで嫌われても、彼らを憎みなどしない。寂しく、悲しくはあるけれども。


 一人が、震えながらやっと言葉を発した。


「モフモフ。モフモフだな! モフモフしていいか!」


 彼らは俺の返事を待たず、俺の尻尾に飛び込んできた。


「いやちょっとこれヤバいなモフモフ」

「お日様の匂いがしてこれはもう、なんだこれはもう」

「イイネ!」


 次の日のキャンプ。見事にみんなの家族総出であった。元々予約してあったキャンプ場は人目があって騒ぎになるだろうと、知り合いの持つ、整備された山の一角に変更してくれていた。


 子供たちは俺に懐いてくれて、尻尾で遊んでやると大喜びをした。

 大人たちは、俺を恐れることもなく普通に接してくれ、狐の姿の俺にバーベキューで焼いた食材を持ってきてくれた。


 その自然な振る舞いに、逆に俺が疑問を持ち、そのことを聞いてみた。


「今はマンガや小説といったいろいろな創作物で、『妖怪は悪いものばかりではない』と描かれているから、そういう意識が少しながらあるんじゃないかな。それに、お前が俺たちや人間に、危害を加えるわけがないだろう?」


 なるほど。大事なのは信頼なのか。


 「夜の神社には、あやかしが集まってくる」と言うが、「あやかしの元には、人間が集まってくる」ものらしい。


 悪い気はしない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜の神社に集うもの やざき わかば @wakaba_fight

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ