第1話 紬希
小さな黄色のバケツに手のひらサイズのおもちゃのスコップを使って少しずつ少しずつ砂を集めていく。バケツいっぱいになったところでスコップの背でなでるように砂を平らに整えるとその場でひっくり返す。お子様ランチに出てくるチキンライスのように綺麗な稜線の小さな砂山ができあがった。
もう3個目だ、と
(砂山を並べてみるとか、上に乗っけたり、穴を開けたら砂のお城が作れるかもしれないけど)
子どもの自由な発想に任せることが大事とうずうずしている自身の両手に言い聞かせる。
「こっちがいいよ」「こうしたら」と口と手を出して型にはめるのは簡単だけど、それではせっかくの創造性を奪ってしまうことになる。これは、過去に自身の母親がそう育ててくれたことでもあるし自分が学んできたことでもあった。つまり、適度な距離で見守る、ということが大事なのだ。
靴の中に砂が入るのも構わず、手を砂まみれにしながら、それでもキラキラと輝く瞳を見つめながら柊奈乃はマスクの下で笑みを零した。
最初は砂の感触を楽しんで、それから穴を掘ることを覚えて、泥だんごを一緒に作って、山を作れるようになって。今は少し離れて見守っていられることに成長を実感していた。
(もう、3歳だもんね)
しみじみとそう思った。混乱と混沌の渦中にいるような日々を経て大人の目から見れば本当に少しずつ少しずつ自分でできることが増えて、その代わりに手が離れていく。嬉しいことでももちろんあるし、ほんの少しの寂しさもあった。
(もう、3歳か)
3歳にもなれば世界はぐんと広がる。歩いたり走ったりするのも達者になり、言葉もどんどん身に付いていく。周りのものすべてに興味津々で、毎日急速に成長しようとする。
だからこそ柊奈乃は、注意して見守ってあげなければと強く心に決めていた。子どもは集中力もすごいが、別の物事に関心が移るのも早い。
そう思っていた矢先に、急にスコップが砂場に放り投げられた。顔を上げればもうすぐバケツがいっぱいになろうというところだったのに、立ち上がって砂場を出ようとしていた。公園に来ている別の子どもたちの歓声が聞こえたために、そちらへ注意が向いたのかもしれない。
「待って、
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