18話 姉弟の再開は知らぬ間に
私は養子に出された。どうやら私達二人を育てることが難しくなったらしい。私は、ショウ君を養子に出すことを提案した。そしたらきっと、今よりも良い暮らしができると思ったから。しかし、母は私を養子に出した。何故ショウ君を養子に出さなかったのか、聞いてみた。それに母は「男の子だから」と答えた。
そこから私はある一般家庭に迎えられた。その家族はとても優しく、私に良くしてくれた。その家には私の一つ下の女の子がいたのだが、その子ともすぐに仲良くなった。何ヶ月か経って、まるで本当の家族の様に溶け込んだある日、私は放置していた荷物を整理していた。ずっと荷解きをしていなかった。しかし荷解きはすぐに終わった。貧乏だから持ってくるものはそれほど多くは無かった。だが一つ気になるものが混じっていた。
「ピック……?」
私がショウ君に買ってあげたあのピックだ。間違って持ってきてしまったのだろうか。返すべきだとは思うのだが、この家とショウ君の家はそれなりに距離がある。到底女子小学生が歩いて行ける距離ではない。それに親からも「昔のことは忘れなさい」と言われているため届けてもらうのも無理だろう。それからそのピックは私が持つことにした。
*
俺はこのピックを持って全てを思い出した。結が生き別れた姉であることも、結が遠くの家の養子になったことも、結の荷物にあのピックを忍ばせたことも。
(やべぇもうサビだ……使うしかねぇか)
俺の右手は疲弊しきっている。もう指でベースを弾くのはそろそろ限界だ。この速いテンポに指2本でついていける気がしない。俺はそのピックを手に取り、それで弾くことにした。
ピックを弦に当てて音を出す。それは誰にでも出来ることだが、その音はただの音であり、人を魅了できる「音」ではないのだ。思い出補正というものもあるのだろうが、このピックから弾かれた音は今までの音とは一味違った。惹き込まれる音だった。
俺はそのままサビを弾ききり、そのまま最難関のベースソロに突入した。
このソロは本来指で弾くことで味がでるソロだ。指で弾くことによって味がでるソロをピックで弾く。あまり頭の良い選択とは言えないが、俺はこっちを選んだ。これが吉と出るか凶とでるかはわからない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます