適当にポチったゲームが、世界創生できるゲームだったことをおまいらに伝えようと思う

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プロローグ

さて。

君たちは、創作物にどこまでの創造性を求めるだろうか?


小説、漫画、アニメ、ゲームなど。世の中にはいろんな人が考えたシナリオがあり、世界がある。

そして読者、視聴者、プレイヤーはその世界に思いをはせる。


俺もこの世界に行ってみたい。

俺もこの世界で生きてみたい。

このヒロインは俺の嫁な。

こいつは俺の娘だからやらん……少し話がそれた。


つまりは、もともとできている世界にそれ以上の拡張性を求めているということ。

でなければ二次創作なんてものも出ないし。



では逆に聞こう。

作者は創作物にどれほどの創造性を求めているのだろう?

人によっては世界地図から書く人がいるらしい、というのを聞いたことがある。

だが、世の中のすべての人間がそうだと言いたいわけではない。


しかし…自分の作った世界で生きてみたいと考えるのは…作者だって同じだろう。



これは、そんな創造物の世界に入りたい青年が、アマゾンの奥地(ネットでたまたま見かけたともいう)で、創造性ガン振りのゲームをしようとして…できない物語である。


---


現在の時刻、午後11時。

俺はあることから気を紛らわすため、瞑想をしている。

いや…迷走だろうか。



「まずは座禅を…いやあぐら?というか座禅とあぐらの違いって何?」



電気をつけていない俺の部屋のベッドの上で変にテンパる男。

それが俺、舞野和である。ちなみに大学生だ。



「まって!?あぐらの形って…ヨガに似てない!?つまり派生技ってこと!??コマンド入力で追加攻撃とか出る???」



あまりにもわけがわからないことを口走っている気がするが、今の目的は意味のある言葉を紡ぐことではない。

ただただ平常心。平穏の心を掴むことが重要なのだ。



(…もう寝たら?)

「何!?もう少しなんだから寝るわけにはいかない!!俺に付き合ってくれ!」

(せめて普通に待機したらいいんじゃないかな…)



今会話したのは脳内の相棒。イマジナリーフレンドともいうし、タルパともいう。

とある時期から俺の脳内で声が響き始めたのだ。消すこともできないのでなんだかんだ一緒に暮らしてたら相棒と呼べるほどになった。ちなみに女性の声で、多分だが好感度はMAXだ。


…脳内で作った女性にそんな設定つけて恥ずかしくないのか、だって?…恥ずかしいに決まってるわ!!俺だって言いたくないけどマジで聞こえるからもうしょうがないし、俺は友達が少ないから必然的にこうなるんだよ!


頭の中の曖昧なイメージで言うと、長いクリーム色の髪の毛、キリっとした目つき、グラマラスな体型で、服は俺が昨日着ていた服を適当に着ているし、ケモみみまでもがついており、一部か欠損している。

大学生ともなる人間が脳内相棒に付ける設定か?これ…



まぁそれは置いておこう。

今俺が待っているものについての話をしよう。


世の中には、オープンワールド、と銘打っているゲームがたくさんある。オープンワールドは、いわゆる「世界のどこにでも行ける」のが売りのゲームだ。

従来のゲームと違い、基本的に決まったステージをクリアしていく物と違い、「ここに行ったら何があるんだろう」という知識欲を満たしてくれる。どこかの息吹の勇者のゲームは最たる例。


そして現在、プレイヤーは更なる上の知識欲を満たしてくれるゲームを探している。

ゲームのクリエイターの人もそれを理解しているようで、様々な種類の物が出ている。もちろんクソゲーもあるので玉石混交だ。


ここで考えてほしい。ゲームを作るには、ある程度のフォーマットが必要だ。

そしてそのフォーマット自体は、新たなゲーム製作ツールとなる。



話が長くなったが、答えを出そう。


今回プレイするゲーム、いやツールといった方が正しいかもしれない。



こいつは「次世代どころか数世代すっ飛ばした先のゲーム製作ツール」なのだ。

そいつを今、パソコンでダウンロードしている。


3日間。

ぶっ続けで。


---


あの後もしばらくヌイ——これは彼女の名前である——と会話しながら待っていたのだが、精神の疲労により奇行をやめることにした。

正気に戻った俺は、部屋の配置で言うとベッドと対角線のところに置いてあるパソコンの前に座り、画面を眺める。



「99%…今君は99%のどのあたりなんだい?99.5%?99.9%だったりするかい?」

(話しかけても早くならないけど…きっとそろそろだよ!)

「そう言ってすでに3時間経っているんだ。俺は座して死を待つのみ…」

(ダウンロードの事を死というのは違う気もするけど…)



画面に映るパーセント表示を睨む。そんなことしたって何かが変わるわけでもないが、結局手持ち無沙汰なのだ。今パソコンの前に座ろうとも何もできやしない。椅子に座ったまま適当にリズムを取ったり決めポーズをして時間を消費する。

だが、とある文字が映ることにより、退屈な待ちの時間は終わる。



【GenesisCraft ダウンロード完了】


「あわ、あ、きき、きた!来た!見た!勝った!!!」

(カエサル?)



カエサルの史実とは違いこちらは3日間だ。長い。主にダウンロードの部分が。


では、このゲームがなぜこんなにもダウンロードに時間がかかったのか。

うちのネットワークが貧弱?いいや違う。そもそもサイトに速度制限がかかって遅い?調べたがそれも違う。


このゲームの容量…なんと5TBもあったのだ。


正気か?と思って公式ページを見ても、やはり5TBと書いてある。しかも別のDLCとかを含めるともっと行くらしい。

様々なサイトでこのクソデカ容量を調べても、内容からして妥当としか書いてないのだ。いや内容を書け内容を。

しかもダウンロード形式なのだ。せめてCDとかにして売ってくれ。

というわけで頭がおかしくなりそうなものなのだが、さらにおかしいことがもう一つ。


このゲーム…お値段なんと数十万。幻の奇ゲーなのか?こいつは。


病気になりそうだ。というかなった。最初は数万だと思って、高いけど数世代先のゲームできるなら…みたいな気分で買ったのだが、口座から数十万引かれているのを見て風邪をひいた。ついでにヌイからもお小言をもらった。そりゃあそう。

なお容量が5TBなのを知ったのは購入した後だった。その事実を知った時、風邪が熱病に変わった気がした。多分このままいけば地獄を通って天国に上ることだろう。


そんなわけで熱病に侵されつつ、業務用HDDを購入して外付けし、貧弱なネットワークのため時間がかかるダウンロードをこなして丸3日ダウンロードし続けたのだ。



「やっとスタートラインに立ったんだ…」

(もう二度と適当にものを買っちゃダメだからね?)

「そこに関してはほんと反省してるよ…」



今回の出費は、感覚で言うと割とちゃんとしたパソコンを買ったぐらいだろうか。本当に手痛い。

お金が無いなりにも、新しいパソコン買うためにお金貯めてたんだけどなぁ…



ではここで一度、このGenesisCraftというゲーム製作ツールについて詳細を語ろう。この3日間暇すぎてずっと調べてたから大体知ってるぞ。


『GenesisCraft』は、通称『Gクラ』、もしくは『ネクラ』と呼ばれている、と非公式wikiに書いてあった。ネクラって名付けた人はこのゲームに相当の恨みがあるのだろう。

俺もネクラと呼ぶか迷ったが、Gクラにしよう。確かに貯金は吹っ飛ばされたし、風邪引いたうえで悪化もしたが、まだ評価を決めるべき時ではない。

んで、このゲームの内容だが。名前の通り、「世界を1から創造できるゲームツール」らしい。ツクールシリーズかな?

なるほどね、一からね、と後方で彼氏面しながら腕組をしている諸兄姉もいるかもしれない。

先ほども言ったが、文字通り「1から創造ができる」わけなので、今までのオープンワールド系等とはまるで違う。

むしろそのそこらのオープンワールドを再現することも可能。なるほどね、そりゃ5TBも必要になるわけですわと俺も納得した。


なので、wikiにも情報は何を載せればいいか困っているみたいだった。なんせなんでも作れるから。

一応初心者向けに普通の異世界の作り方みたいなのは載ってたけど、パラメーターの量が尋常じゃなかったのを覚えている。

設定は感覚で行えるらしいが、数値から変更すると量が多すぎる。

大まかに分けると、


・地形の変更

・気候の調整

・生態系の調整

・自然災害の設定

・人口文化の配置

・資源の分布

・社会構造の設定

・技術の進歩レベル


の8つのタブに分けられ、そこからまた細かくパラメーターが存在する。

その細かいパラメータをすべて乗っけているため、wikiの動作が非常に重い。


まぁ、いろいろ言ってきたが、結局重要なのはGenesisCraftでは『異世界の創造』ができるって部分だ。俺らみたいな日常に飽き飽きしている人々は刺激に飢えている。それはもうゾンビのように飛びつくだろう。なお俺は全速力で飛びついた。



「とりまプレイしよう。もう待ちきれなくてうずうずしてんだ」

(この3日間、どんな世界を作ろうかみたいな話題しか出ないほどだったもんねぇ)

「その点に関してはすまんかった」


ではランチャーを起動してからのプレイを選択。

一応タスクマネージャーを開いてパソコンの動作確認をしていたが、プレイを選択した途端にCPU使用率が急激に上昇する。

パソコンのファンも急速に回りだしたかと思うと、ガタガタと揺れ始めた。


「うぉ!?これ大丈夫な奴!?」

(た…多分?一応押さえつけておいたら?)


こんなところでパソコンが壊れたら後悔と未練にまみれて一生引きずる気がする。なのでヌイの言う通り震えるパソコンを優しく介抱することにした。

頼むぞ…!こちとらGクラを適当にポチった日から、絶対にちゃんとプレイしてやるって覚悟決めてんだ…!今更パソコンの異常くらい……


「オラァァァァァ!!!!!沈まれェェェェェ!!」

(うるさすぎて笑った)


目を閉じながらパソコンをひしっと体全体で包んで数分後。

だんだんと揺れが収まってきたようで、もとの正常な動作音が帰ってきた。

一時はどうなることかと思ったが、ともかくパソコンが壊れなくてよかった…。


ふうとため息を一つついて、体を離す。

モニターに目を向けると、『プレイ環境構築終了 プレイしますか?Y/N』と映し出されている。

ここでYを入力すれば、俺のGクラ人生が始まるってわけだ。

椅子に座り直し、気合を入れなおす。




では、いこう。




「んじゃ、神話でも創生しますか」

(めちゃ気軽)




Yの入力後、俺の視界が急速に暗転していく。

画面が暗くなっているわけではなく、俺の視界がどんどんと見えなくなっていく。

理由を探ろうとして画面をどうにかして凝視する。

コンソールのようなものがあわただしく動いている。たくさんの文字が交差し、起動準備をしている。

その間もどんどんと視界が見えなくなる。


「あれ…なんかこういう展開…見たことあるような…」


そして。

俺は気を失った。





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24/6/27 :改稿。主人公がヌイとごはんを買いに行く描写を削除。

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