適当にポチったゲームが、世界創生できるゲームだったことをおまいらに伝えようと思う

-1-(ひくいち はじめ)

プロローグ

現在の時刻、夜の11時。

俺は電気のついた部屋の中でぼーっとしている。

カーテンから覗く夜の暗闇は、それほど暗いわけでもない。

夜、と言えば暗闇のはずなのだが、現代日本では電灯があるせいで純粋な暗闇が少ない、ように感じる。


少しだけ暗闇を感じたくなって、ベッドの上から降りて電気を消しに行く。

床に散らばったコード類が足裏を刺激し、少しだけあった眠気をすべてかき消していくようだ。


パチン。


午後11時の暗さが部屋を包むが、暗闇にはならなかった。なぜなら俺のパソコンのモニターが付いているから。



「こういうのがあるせいで、完全な暗闇が無いんだよな」

(モニター消せば?)

「消したとて住んでるアパートの傍の電柱の光が部屋に入るさ」



突然だが、俺こと舞野 和まいの かずの頭の中にはイマジナリーフレンドがいる。

現在大学2年だが、中学時代からの付き合いとなる程の腐れ縁だ。

見えてはいないが、頭の中の曖昧なイメージで言うと、長いクリーム色の髪の毛、キリっとした目つき、グラマラスな体型で、服は俺が昨日来ていた服を適当に着ているイメージだ。

あとついでにケモみみがついており、一部か欠損している。ちなみにケモみみのイメージは最初には無かったのだが、高校生のころにケモ系にドはまりした結果、彼女にもケモみみが生えた。なぜ欠損しているかは不明。

まぁいろいろ言いはしたが、俺と彼女はただのイマジナリーフレンドであり、特になんの関係にもなっていない。

しいて言うなら、相棒という言葉が適切だろうか。



「ちょっと買い物に行こうか、ヌイ」

(何か買うものでも? どうせ家から出る用事なんてないのに?)

「まぁそうだけど… ちょっと、夜の街を歩きたいだけさ」

(あはは、めちゃキザなセリフだねぇ。私も行くよ)

「俺が行くんだからヌイも行くんだよ」



暗いままだった部屋に少しだけお別れを告げる。では、また数10分後。

大学生が住める程度のボロアパートをゆっくりと抜け出し、外の空気を吸う。



(やっぱり夜は涼しいねぇ)

「だなー、最近は結構暑くなってきたから、涼しいのはありがたい」



はたから見れば俺は一人で喋っている不審者だろう。だが、気にしない。

そもそもこんな時間に俺のことを見る人なんて誰もいないだろうから。


電灯に照らされた夜道は、昼に見せていた顔とは全く別の表情を見せる。

光り輝いていた花々は、おどろおどろしい化け物の顔に見えるし、犬のフンが落ちていた電柱には、誰かが潜んでいるような気配が…



「…」

「…ぅあれ?」



本当に電柱に隠れてました。え、これ大丈夫か?



さてどうするか。

とりあえず自然に対応するのはまず基本だ。ここで不自然な行動を取った場合、悪い結果につながる可能性がある。

悪い結果につながった場合、今後どうなるかなど想像がつく。できれば穏便にハッピーに行きたい。

みんながハッピーで埋め尽くされるために取れる行動は一つしかない。

できるだけ関わらず、お互い無関心であること。それのみ。


恐る恐る道の反対側を通り抜ける間もその謎の人物をじっくりと観察する。

性別はどちらかはわからないが、背は少し低い…ような気がする。全身を隠すようにロングコートを着ており、顔も見えない。

一体だれなのかは全然想像もつかない。いやほんとに誰なんだろう…



一度進行方向を確認し、もう一度視線を戻す。


すると、既にその人はいなくなっていた。長いロングコートのように見える粗大ゴミを残して。



「ッ……、なんだよ、ゴミかよぉ…」

(あは、すごいビビってたねぇ)

「そりゃビビるわい、一人で喋ってるとこ見られたかと思ったわ」

(あ、そっちなのね)



ヌイにはそう言ったが、正直言うと俺は不審者の事が気になっていた。

実際に目の前にあるのは”人っぽい粗大ゴミ”ではある。あるが…何か府に落ちないのだ。

幽霊の 正体見たり 枯れ尾花なんていう俳句もあるが、今回ばかりはガチ幽霊の可能性もあると、そう考えている。



「…コンビニ行くのやだなぁ…」

(なら帰る? 別に必須ってわけでもないんでしょ?)

「もう既に近くまで来てるんだ、ここまで行って何もしなかったら損だ」

(じゃあさっさと済ませちゃおうねぇ)



コンビニは今いる道路を抜けてすぐだったため、本当に目の前だ。

素早く買い物を済ませるため、目についたものを片っ端からかごに放り込む。お、俺が好きな菓子だ、ついでに補充してしまおう。


買い物を済ませ、速足で帰宅する。

帰り道はルートの関係上行きと同じ道を通ることに嫌さを感じるが、通ることにした。


結論を言うと、特に何もなかったし、粗大ゴミも置いてあるままだった。ただの思わせぶりな道路っていうだけだったのかもしない。


---


「はい」


「はい、そうです。終始一人で喋ってました。やっぱり傍から見るとおかしい人物に見えますね」


「最終的にバレることはありませんでした」


「了解しました。監視を続けます」


---


「はぁ~~~、まじでやーすぎ」

(急にギャルみたいな口調になるじゃん)

「誰しも心にギャルを飼ってるんだよ」

(マ?んじゃあーしってギャルってこと?)

「なわけ」



玄関にへたりこみながらヌイと軽口を言い合う。

少しの時間だったが、ちょっと緊張したせいで体力を消耗したようだ。

ガサガサとコンビニの袋を漁って飲み物を取り出して飲んだ。少しの渋みがあるこのお茶は俺の喉に潤いを与えていく。うまい。


500mlペットボトルの半分を一気に飲んだあたりで一息つく。さすがにこれ以上は過剰摂取だ。海に飲み水を捨てるほど馬鹿ではない。

俺は立ち上がって、冷蔵庫に買ったものを入れに行く。廊下の電気はつけっぱなしなので躓いて転ぶ心配もない。



(にしても結構買ったねぇ、レシートの長さが尋常じゃなかったよ)

「調子に乗っちった」



冷蔵庫を開け、詰め込んでいく。冷蔵庫に溜まっていた冷気が俺の体に吹きかけられ、温まった体温を急速に冷却する。ちょっと寒い。

一人暮らしをし始めてから使っているこの冷蔵庫は、正直そんなに容量が大きいわけではない。なのでぎゅうぎゅうに押し込んで入れていく。

下の方で買い込んだパンや明日用のご飯が入ったタッパーが悲鳴を上げているが、そんなこと気にしない。

ぎゅっと詰め込んで、明日何とかする。うん、何とかする…多分。


少々の不安はあるものの、とりあえずいいやと思い自分の部屋に戻った。





現在の時刻、午後11時30分。

特に確認する必要もないが、時間が気になってしまうのは人として当たり前の事だと思う。

ベッド脇に置いてあるデジタル時計は秒針の音を出さないものの、規則的な点滅を繰り返し、刻一刻と時間を消費していることを告げる。


もうこんな時間か、と思いながら、部屋の配置で言うとベッドと対角線のところに置いてあるパソコンの前に座った。



「…さて、そろそろだと思うんだが…」



画面に映るパーセント表示を睨む。そんなことしたって何かが変わるわけでもないが、結局手持ち無沙汰なのだ。今パソコンの前に座ろうとも何もできやしない。椅子に座ったまま適当にリズムを取ったり決めポーズをして時間を消費する。

だが、とある文字が映ることにより、退屈な待ちの時間は終わる。


俺のパソコンのモニターに映る文字。それは、俺が先ほどからずっとダウンロードしてきたアプリが、やっと終わったことを示す言葉だった。



【GenesisCraft ダウンロード完了】



「ダウンロード終わったな、よしよし」

(いやほんと長かったねぇ…。3日ぐらいかからなかった?)

「それも丸3日だ。電気代が火の車だな」

(電気代どころじゃないけどね)



実は数週間前から気になっていたゲーム…ゲーム?をプレイするためにダウンロードをしていたのだが、この容量がまた本当に大きい。


なんと5TB使うのだ。


正気か?と思って公式ページを見ても、やはり5TBと書いてある。しかも別のDLCとかを含めるともっと行くらしい。

様々なサイトでこのクソデカ容量を調べても、内容からして妥当としか書いてないのだ。いや内容を書け内容を。

しかもダウンロード形式なのだ。せめてCDとかにして売ってくれ。

というわけで頭がおかしくなりそうなものなのだが、さらにおかしいことがもう一つ。



このゲーム…値段が数十万するのだ。



病気になりそうだ。というかなった。最初は数万だと思って、高いけどまぁ別にいいか~みたいな気分で買ったのだが、口座から数十万引かれているのを見て風邪をひいた。ついでにヌイからもお小言をもらった。そりゃあそう。

なお容量が5TBなのを知ったのは購入した後だった。その事実を知った時、風邪が熱病に変わった気がした。多分このままいけば地獄を通って天国に上ることだろう。


そんなわけで熱病に侵されつつ、業務用HDDを購入して外付けし、貧弱なネットワークのため時間がかかるダウンロードをこなし、できるだけ速度を落とさないようにネットもせずに丸3日ダウンロードし続けたのだ。

さすがに途中でエラーが出たときは焦ったし、2時間前ぐらいから99%でずっと止まっていたりしたが、既に体調は万全であり、気持ちは平常心のままだ。



「やっとスタートラインに立ったんだ…」

(もう二度と適当にものを買っちゃダメだからね?)

「そこに関してはほんと反省してるよ…」



今回の出費は、感覚で言うと割とちゃんとしたパソコンを買ったぐらいだろうか。本当に手痛い。

お金が無いなりにも、新しいパソコン買うためにお金貯めてたんだけどなぁ…



てなわけで、このGenesisCraftをプレイするためにいろいろ苦労はしたが、そもそもじゃあこのゲームはなんだ?という話をしよう。


『GenesisCraft』は、通称『Gクラ』、もしくは『ネクラ』と呼ばれている、と非公式wikiに書いてあった。ネクラって名付けた人はこのゲームに相当の恨みがあるのだろう。

俺もネクラと呼ぶか迷ったが、Gクラにしよう。確かに貯金は吹っ飛ばされたし、風邪引いたうえで悪化もしたが、まだ評価を決めるべき時ではない。

んで、このゲームの内容だが。名前の通り、「世界を1から創造できるゲーム」らしい。

なるほどね、一からね、と後方で彼氏面しながら腕組をしている諸兄姉もいるかもしれない。

落ち着いて聞いてほしい。Gクラは、文字通り「1から創造ができる」わけなのだ。そこらのオープンワールドとは格が違う。

むしろそのそこらのオープンワールドを再現することも可能。なるほどね、そりゃ5TBも必要になるわけですわと俺も納得した。

簡単に言うと、規模のデカいシムアースみたいなもの…だと思う。


なので、wikiにも情報は何を載せればいいか困っているみたいだった。

一応初心者向けに普通の異世界の作り方みたいなのは載ってたけど、パラメーターの量が尋常じゃなかったのを覚えている。

設定は感覚で行えるらしいが、数値から変更すると量が多すぎる。

大まかに分けると、


・地形の変更

・気候の調整

・生態系の調整

・自然災害の設定

・人口文化の配置

・資源の分布

・社会構造の設定

・技術の進歩レベル


の8つのタブに分けられ、そこからまた細かくパラメーターが存在する。

その細かいパラメータをすべて乗っけているため、wikiの動作が非常に重い。


まぁ、いろいろ言ってきたが、結局重要なのはGenesisCraftでは『異世界の創造』ができるって部分だ。

しかも自分が作った世界に降り立って活動することもできるのだから、夢は広がるばかり。



「とりまプレイしよう。もう待ちきれなくてうずうずしてんだ」

(この3日間、どんな世界を作ろうかみたいな話題しか出ないほどだったもんねぇ)

「その点に関してはすまんかった」



ではランチャーを起動してからのプレイを選択。

一応タスクマネージャーを開いてパソコンの動作確認をしていたが、プレイを選択した途端にCPU使用率が急激に上昇する。

パソコンのファンも急速に回りだしたかと思うと、ガタガタと揺れ始めた。



「うぉ!?これ大丈夫な奴!?」

(た…多分?一応押さえつけておいたら?)



こんなところでパソコンが壊れたら後悔と未練にまみれて一生引きずる気がする。なのでヌイの言う通り震えるパソコンを優しく介抱することにした。

頼むぞ…!こちとらGクラを適当にポチった日から、絶対にちゃんとプレイしてやるって覚悟決めてんだ…!今更パソコンの異常くらい……



「オラァァァァァ!!!!!沈まれェェェェェ!!」

(うるさすぎて笑った)



目を閉じながらパソコンをひしっと体全体で包んで数分後。

だんだんと揺れが収まってきたようで、もとの正常な動作音が帰ってきた。

一時はどうなることかと思ったが、ともかくパソコンが壊れなくてよかった…。


ふうとため息を一つついて、体を離す。

モニターに目を向けると、『プレイ環境構築終了 プレイしますか?Y/N』と映し出されている。

ここでYを入力すれば、俺のGクラ人生が始まるってわけだ。

椅子に座り直し、気合を入れなおす。


では、いこう。



「んじゃ、神話でも創生しますか」

(めちゃ気軽)



Yの入力後、俺の視界が急速に暗転していく。

画面が暗くなっているわけではなく、俺の視界がどんどんと見えなくなっていく。

理由を探ろうとして画面をどうにかして凝視する。

コンソールのようなものがあわただしく動いている。たくさんの文字が交差し、起動準備をしている。

その間もどんどんと視界が見えなくなる。



「あれ…なんかこういう展開…見たことあるような…」



そして。

俺は気を失った。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る