竜のおはなし
まぁ、別に人生変わったことがあったってわけでもないからさ、話すとしたらこうなった理由についてだよな。
むかーしむかし、先代の国王が国一番の呪い師にどえらい不敬を働いたんだよ。俺が生まれてすぐの話だから実際何をしたかとかは全く知らないんだけど、もう雷雨とか呼んじゃうくらいカンカンだったみたいで、意趣返しに相手の息子へ呪いをかけたんだ。「この者の息子は、いずれ最も愛するものをその手で殺すだろう」ってね。うんそう、その息子ってのが俺。知ってた?へぇ、ちゃんと下調べしてきたんだ。真面目なんだね。まぁそれは置いといて、本題に戻ろう。
そんなひどい呪いを掛けられちゃったもんだから、子供のころの俺は老若問わず女には近づけさせてもらえなかったんだ。それでも友達がいないのはさすがに可哀想って従者が連れてきたのがあいつ、なんて言ったっけな、ちょっと最近忘れっぽくてね……。まぁとにかく俺より1つ年上だった自分の息子を連れてきたんだ。
……やっぱり思い出せないな、とりあえず名前はジョンってことで。
ジョンはよく遊んでくれた。そこには親の思惑もあっただろうけどそんなの感じさせないくらい付き合いが良かった。全寮制の軍学校に通わされた時もしれっと編入してついてきたし、部屋だって一緒だったんだぜ。まぁどうせ側近が気を回しただけだろうが、それでも親友と呼ぶ口実には充分だった。
俺たちは、成人してもずっとあの頃のままだった。隣国の令嬢と結婚することになったときも、着替えた俺を見て一言、「普段パッとしないのにこういうの着ると途端に品格が出るよな。ずりぃよ」って笑ってたな。うちに念願の男児が生まれた時も、「こっちが先輩なんだから何かあったら相談に乗るぞ?」といきなり威張ってきてな、あれは面白かった。赤子を抱くのもあやすのもあんな下手なのに先輩はないだろ。
だから、そんなジョンが敵国にこちらの隠してる財政事情や軍備についての情報を流しているって密告があった時は本当にびっくりしたな。いくらそんな人ではないと否定しようとも、証拠が出てくるんじゃ仕方がない。もはや議会は処罰の内容を話し合っている。ほとんど死刑で決まりみたいだ。俺は必死に反対したが、結果が覆ることはなかった。王なのに親友1人守れないとは。不甲斐なくって本当に嫌になる。しかも当の本人は何も言わず判決に従った。いやそこは俺を罵ったり必死で否定したりするところだろ。なんで諦めるんだ。結局死刑になってしまったジョンとは、それっきりだった。
この国は王自ら処刑台の装置を動かさないといけない習わしがあってな、もちろんそのときも俺がレバーを引いた。
えっ、長い?そろそろだから、ちょっと待ってくれ。とりあえず大事なところまで端折るか。
そうだな、それは公務中、次の客人を待つ間だったな。大臣がのんびり言い放ったんだ。
「きっとこれで呪いもとけたでしょう。遠ざけていた妃殿下やお世継ぎとも触れ合えますね。」
それがなんだか無性に腹立たしくて、思わず大きなため息が出たよ。そしたら、絨毯が焦げる匂いがして、だんだん身体が膨らんでいった。横にいた大臣を呼び止めようと手を招いたら吹き飛んでそのまま目を覚まさなかった。イライラした頭が熱くてたまらないのにシャキッと清々しくって、きっと呪い師も、魔法をかける時ってこんな気持ちだったんだろうなって思ったよ。
大きな音を聞き付けて兵士も野次馬も集まって、どうしようもないのでとりあえず突進ついでに部屋の外に出てみた。ピカピカに磨かれた石の廊下には、黒くて大きな鱗のある姿が映っていた。そんな!ドラゴンだなんて、かっこよすぎる!と感激したのを覚えてる。そのあと背中がムズムズしてきて、気づいたら宙にうかんでいた。飛んでる!ってそれはそれはすごく驚いた。王宮の屋根はでっかい穴が空いていたけど、こんな姿じゃ仕方ないだろ。俺は悪くない。
とりあえず自由になった俺はあらゆる建物の破壊を始めた。まずは大聖堂。次は学校。どれもこれも、あいつがよく思い出を語っていた場所だ。いなくなっちゃったんだもん、いらないよな。あと、森も焼いたし人も潰した。どうせあいつはもう殺せないんだから、何をしたって変わらない。いっぱい出てきてあたふたする姿はちょっと愉快だった。うん、楽しかったよ。
そういう訳で、満足するまで壊して、飽きて、ここまで来るのに疲れちゃったからずっと寝てたんだよ。今ってどれくらい経ったんだろうな。そんなのどうでもいいか。
これで話はおしまいだ。満足したよ。さ、ちゃっちゃとやっちゃってくれ。
ん?急に兜を脱いでどうしたんだ?
「この顔とほくろに覚えはないのですか、父さん」だって……?
いやはやそうなるわけか。竜になった王と討伐する息子とは、なんともおとぎ話らしいオチじゃないか。
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