淡雪の降る中で
きゆ
第1話 怖がられる姫
姫はとても怖がられていた。
世界に4つある国の内の1国である
兄である水恵王の
この世界で魔術は生活や戦にとても役立つため、少しの魔術を使えるものは皆に大変重宝されている。
重いものを動かし街の中を整備する。水を湯に変え皆を癒す。風を操り高い所へ人や物を運ぶ。
姫はそのすべてが出来たし、それ以上の事が出来た。それゆえに水恵の民は姫を怖がった。
噂は尾ひれを幾重にも重ね、きらびやかな十二単のごとく、噂を纏い、着飾り、人目を引きつけながら街を瞬く間にすり抜ける。姫の話は小さな子供でも知っていた。
姫は山へ行き、目の前を横切った獣を捕まえては噛みつき血を飲み干すらしい。姫は川へ行き、川の水を干上がらせては大きな魚の目玉をくりぬき食すらしい。姫は毒の雨を降らせるらしい。姫は見るだけで人を石に変えるらしい。姫は人をも食らうらしい。
大人たちは子供たちに教える。悪い子は姫に連れ去られてしまうよ。
ある日、葵は市場へとやってきた。
葵と目が合った子供はその場で立ち止まったままお漏らしをした。
葵が店先の林檎を1つ手に取ると、店主は「それは差し上げますので、どうかどうか殺さないでください」とその場に跪き命乞いをした。
その態度に葵がため息をつくと、その場にいた皆が我先にと市場から逃げ出した。
護衛として葵と一緒に市場へ来ていた
「葵様、今後街を出歩くのは止めておきましょうか」葵はフンッと鼻を鳴らした。
「葵様が出歩くと、大事な水恵の街が消えてしまいますね」
「なら、これからは梛に使いを頼んであげるよ」
「私は葵様ほど暇ではありませんよ?」
「国を守るのが梛の仕事だろ?なら、私の使いも仕事のうちだ」
梛は不貞腐れたような葵の横顔を見ながら、クスリと笑った。
「いつも思うのですが、何がどうなって、こんなにも噂が拗れたんでしょうね」
「それは、私が母を食い殺したからだろ?」葵はニヤリと右の口角を上げた。
「その顔は、おやめなさい。更に尾ひれがついて、葵様と普通に話をしている私まで巻き込まれたらどうするんですか」
それは面白そうだなと葵は嬉しそうに笑った。その笑顔は春風の中で花が軽やかに揺れるように、とてもかわいらしい。
しかし、そんな葵を見たことのない水恵の民は、良き王楡と対をなすような悪しき姫を怖がっていた。
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