他人が小説を書く話ほどおもしろいものはない。
葉島航
1 はじめに
――書き手にとって、他人が小説を書く話ほどおもしろいものはない。
そう思っている。
だからなのか知らないが、小学生の頃から「あとがき」が好きだった。小説を読み終わった後に「あとがき」を繰ってみて、創作秘話のような内容が書かれているとやたらうれしく思ったものだ。
たとえば恩田陸の短編集では、たいてい巻末に、各短編に対する作者の短いコメントが載っている。「これは締切に追われて一晩で書いた」とか、「こういうジャンルに挑戦するつもりで書いた」とか。そのうち好きな作家のエッセイがいくつか出版されるようになり、彼らの思考をトレースするつもりで読みふけった。
一方で、「小説の書き方」みたいな本は苦手だ。人称はこうした方がいい、物語はこう作った方がいい、という一般化された方法論にはいまいちピンとこない。
やっぱり、小説を書く人たちが、どんな刺激からどんな着想を得て執筆へと至ったのか、そのプロセスが一番おもしろい。
それで、自分でもそういうのを書いてみようと思った次第である。
自分は職業作家を目指していない。
本業は別にあって、趣味程度に書き溜めた小説を細々とアップしている。収益化もしておらず、本当に公開するだけなのである。
最近は子どもも生まれ、執筆の時間なんてあってないようなものだ。一面にばらまかれたおむつを片付けていたら、リモコンが空中を飛び、放心してそれを見送っていたら娘が特大うんちをして泣き始める。世の中の「親」なる人々を心の底から尊敬する。
それでも毎日、書くことは続けようとしている。娘が眠った後、皿洗いと洗濯物干しを終え、自分が眠くなるまでの一時間(アルコールが入っていたら三十分)。それが自分の執筆時間である。
どれだけ頑張っても、八百字が限界だ。最近は、短~中編一つ仕上げるのに三か月は要するようになった。短編一つに三か月というのは、自分としては異常に長いお付き合いで、正直書いている途中に「この話もう飽きた」と行き詰まることも増えている。そんなときの息抜きも兼ねて、こういう文章も書いてみてはどうかな、と思ったわけである。
以上を踏まえて、この文章の特徴をまとめてみる。
・自分がどんなふうにして小説の着想を得たのか(そしてそれをどう作品に落とし込んでいったのか)というエピソードが中心である。
・文章の性質上、自作が話題に出てくる。しかし、別に作品を読んでおく必要はない。
・書き手は趣味で小説を書いているだけの凡人であり、PV数や星の数を重視していない。すなわち、商業的に成功するためのヒントなどは一切書けない。
・読み手として想定するのは、ずばり「他人が小説を書く話が好き」という同類たちである。
・連載は不定期。扱うテーマも順不同(書きたくなった順)。などなど、職業作家であれば許されないほどの身勝手な書き方をする。
この文章を書くにあたり、どんなことが書けそうかというメモを作ってみた。
最後に、それらを並べて記載しておく。
何か興味のあることが一つでもあれば、辛抱強く見守っていただけると幸いである。
・映画へのオマージュ(「ロボコップ」や「マトリックス」を文学でやったらどうなるか)
・音楽からの着想(オルタナティブからデスメタルまで)
・キャラクター像の発想(コテコテなキャラばかりを小説に出したらどうなったか)
・アンチヒーローが好き(ブラック・ジャックにハカイダーにデビルマン)
・引退した人が好き(「実はこの男、元CIA特殊工作員である」)
・キャラクター同士の関係性(バットマンとジョーカーに学ぶ)
・実際に目にした場面からの着想(イタリア旅行が人生を変えた)
・ジャンルからの発想(ゾンビものや巨大ロボットものを自分が書いたらどうなるか)
・胸熱展開を盛り込む(自分的胸熱展開だけで小説を構成する試み)
・イメージからの着想(ごくまれにある、「降りてくる」経験)
・雰囲気(ムード)やシチュエーションからの着想(「もし○○だったらどうなるだろう?」)
・ノスタルジーに関する着想(体験していないはずの「懐かしさ」は、どこから来るのか)
・サプライズの発想法(小説の中に驚きを仕込みたい)
・人称からの発想(2.5人称の開発とその失敗)
・プロットの有無(みなさんはプロットガチガチ派? それとも書きながら考える派?)
・タイトルからの着想(タイトルを付けるのが下手だという自覚がある)
・二部構成からの発想(村上春樹の大発明)
・シリーズ構成からの着想(「エイリアン」「ターミネーター」…。シリーズものの特徴とは?)
・文学理論からの発想(構造主義と記号論と物語論を中心に)
・社会問題をどう料理するか(端的に言って自分には無理だった)
・メタファーに関する着想(心理学を文学に活用する方法)
・メタフィクション構造をどう展開するか(「作中作」が好きすぎて困る)
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