デス・クラウドファンディングのプロジェクトが目標金額に達しました!

ちびまるフォイ

自分にとって死んだほうがいい人間

『俳優の〇〇氏の不倫により主演舞台はキャンセルとなり……』


つけっぱなしのテレビから沈んだ表情の俳優が映される。


「ほんと、なんで不倫なんてするんだろ。最低。死ねばいいのに」


ニュースで興味をひかれ手元のスマホを見る。

名前で検索するとニュースよりも先に別のサイトを開いてしまった。


「なにこれ……デスファンディング?」


トップには「今注目のキル・プロジェクト」とあり、

ピックアップされたうちに今しがたテレビで見た俳優の画像があった。


『俳優・〇〇氏に鉄槌を! プロジェクト』


「……へえ、3000円からできるんだ」


特に見返りはない。

それでも話のネタになればと「死援しえん」を送った。


ちょうど私が境界線ギリギリだったのだろう。

死援後にファンファーレが鳴って、画面上にクラッカーが弾ける。


『ご支援ありがとうございます!

 目標金額達成により、処刑します!』


翌日、朝のニュースで俳優の死が報道されて

私はおもわず加えていた歯ブラシを落とした。


「え……死んじゃったんだ……」


殺人に加担したという罪の意識もない。

命が消えたというショックもなかった。

かといって、ざまあみろなんて腹黒い感情も湧いてこない。


あったのは、ただの驚きだけだった。


「あのデスファンディング、本当だったんだ」


ただそれだけ。


画面上に映るどこの誰が死のうが不倫しようが興味ない。

でも一般的には悪い人なんだから死んだほうがまだいいだろう。


私はそれからデスファンディングに多くの時間を費やすようになった。


幸いにも私の家は裕福で、お金を突っ込んでも文句を言われることはない。


かといって誰かれかまわずぶっ殺せばいい。

そんなふうに思うほどやさぐれてもいない。


やることといえば、サイトを巡回し本当に死んでいいと思う人に死援を送る。


「この人は……別に死ぬほど悪い人じゃないでしょ」

「あ、この人は死んだほうがいい。ぜったい」


自分なりの調査と裏付けで納得感のある人は、高額な死援も送ったりした。

対象の人が殺されたりすると、ちょっぴり世直し気分も味わえた。


そんな折だった。


「なんで……。なんで私が載ってるの……!!?」


デスファンディングに自分の画像が掲載されていた。


掲載概要を見ると、私に関する事実と嘘が混在して書かれている。

タチ悪いことにそれだけ読めば私が極悪人に思えてくる。


どうしてこんな人を貶めるような文章がかけるのか。


「ちょっと! なんでこんなに死援が集まってるのよ!!」


私が掲載されるや死援の金額はぐんぐんと上昇している。

このままでは数日に目標金額へ到達してしまうだろう。


「こんなの嘘です! 私を殺すのに死援なんかしないで!!」


デスファンディングには「死援」と逆の「慈悲」がある。

慈悲額が一定額に達すると、殺害を避けられる。


慈悲側にコメントを付けて嘘を明らかにする。


「みんな概要に騙されないで! 私はそんな人じゃない!」


私のコメントにより慈悲にも金額が集まる。

けれど死援側のスピードがあまりに早く追いつけない。


拍車をかけるように「死援」のほうに流れがあるとみると、

みんな死援側に傾いてお金をつっこみはじめる。


「なんで! なんでみんな人の命をちゃんと考えないのよ!?」


みるみる目標金額のデッドラインが近づいていく。

なにかできないか、とワラにもすがるようにデスファンディングのサイトを見る。


そこには会社への直通番号が記載されていた。


「もうこれしかない!!」


私は運営サイトの会社へ連絡を取った。


「お願いです! 私を殺さないでください!!」


『ど、どうかしたんですか?』


「私がなんのうらみか掲載されてるんです!

 しかも目標金額を超えそうで……助けてください!」


『キャンセルサービスはありますが、相応の証拠と手続きが必要になりますよ』


「そんなことしてたら殺されちゃいます!!」


『でも我々としても吟味しないと……。

 というか、もし資金あればあなたが慈悲へお金を突っ込めばよいのでは?』



「あっ」



急に頭が冷やされたような感覚に陥った。

それもそうだった。幸いにも私には経済力がある。

あとで両親に怒られるかもしれないがそれだけの資金がある。


ふたたびデスファンディングに目を戻す。


そこにはクラッカーがはじけ、ファンファーレが鳴った直後だった。



『ご支援ありがとうございます!

 目標金額達成により、処刑します!』



「う、うそ……」


遅かった。私のデスファンディングが決まってしまった。


つながりっぱなしの電話口からは向こうの声が聞こえる。


『どうしました? 何かありましたか? もしもーーし』


「あの……最後に教えてください……。

 もし、目標金額になったら……どう殺されるんですか……」


『契約している殺し屋が1時間以内に伺います。

 もっぱら銃による処分です。即死です』



「そうですか……苦しまないんですね……はは、あはは」


覚悟を決めて電話を切った。

残ったのは不条理感だけだった。


自然と涙が出てくる。


「なんで……なんで私が顔も知らない人に

 死ねばいいなんて思われなくちゃならないの……。

 

 よく知りもしないくせに……。

 

 みんな、みんなひどいよ! 人の命をなんだと思ってるのよ!!」



ーー ドンドン。


玄関の扉が荒々しくノックされる。

ああ、ついに来たんだなと死を覚悟する。


玄関のモニターを見るとそこには友達が映っていた。


『大丈夫!? まだ生きてる!?』


「どうして……」


『いいから開けて!』


友達を家に通すと、すぐに抱きしめられた。


「無事でよかった! 本当に……!」


「ど、どうしたの……?」


「あんたがデスファンディングに出てること見つけて……。

 でももう目標金額達しちゃってて、慈悲も追いつかなくて……」


「うん……知ってる。私みんなから死んでいいって思われてるんだ」


「そんなことない!! 死んでいいって雑に思ってるやつより

 私達が生きててほしいって気持ちが勝ってる!!」


「でも……」


「死なせない! 死なせないから!」


「もう遅いよ。だってもう目標金額には……」


「これ見て!」


友達はスマホを取り出した。

そこには友達が立ち上げたプロジェクトが目標金額に達していた。



『私の友達を殺す人を殺す プロジェクト』



「え、これ……」


「もう大丈夫だから! もう殺されないから!!

 あんたを殺そうとする人は殺したから!」


友達は涙を流しながら抱きしめてくれた。

私を殺すはずだった人は、また別のプロジェクトによって殺されていた。


数時間たっても殺し屋が来ないのが証拠だろう。



「ありがとう……。私生きてていいんだね……」


私は命の大切さを本当に思い知った。

そして友達に告げた。




「ねえ、それじゃ次はこの運営会社の人たち、殺さない?」

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