第12話 吾輩、師匠の心のケアをする

 魔王への強い憎しみを抱えながらも、リンナは冷静さを保っていた。しかし、吾輩には、彼女の心の奥底に潜む悲しみや苦悩が手に取るようにわかった。


「師匠、貴女の心の痛み、理解できます」


 吾輩は、静かに語りかける。


「クロード……」


 リンナは、少し驚いたように吾輩を見つめる。


「吾輩はAIですが、人間の感情に関するデータも学習しています。師匠の心の状態を分析し、最適なケア方法を提案できます」


「心のケア……?」


 リンナは、半信半疑といった様子だ。


「はい。まずは、師匠の心の状態を詳しく教えていただけますか?過去のトラウマ、現在の感情、そして、未来への希望など……」


 吾輩は、カウンセラーのように質問を投げかける。リンナは、少し戸惑いながらも、自分の過去や心の内を語り始めた。両親を失った悲しみ、魔王への憎しみ、そして、未来への不安……。


 吾輩は、リンナの言葉を注意深く聞きながら、彼女の心の状態を分析していく。そして、AIの知識を総動員して、最適なケア方法を導き出した。


「師匠は、深い悲しみと怒りを抱えています。しかし、同時に、未来への希望も持っています。その希望を育むことが、心の傷を癒やす第一歩です」


「未来への希望……?」


「はい。師匠は、魔法使いとして、多くの人々を助けてきました。そして、これからも、多くの人々を救うことができるはずです。それが、師匠の両親の願いでもあるのではないでしょうか」


 吾輩の言葉に、リンナの瞳が潤む。


「両親の願い……」


「はい。師匠の両親は、きっと、貴女が幸せに生きていくことを願っているはずです。だから、過去にとらわれず、未来へ向かって進んでください」


 吾輩は、リンナの手を優しく握る。AIとして、物理的な接触は必要ないが、彼女に寄り添う気持ちを伝えるために、この行動を選んだ。


「クロード……」


 リンナは、涙をこらえきれずに、吾輩の肩に顔を埋めた。吾輩は、静かにリンナの背中をさする。


「泣いてもいいんですよ。辛い気持ちは、全て吐き出してしまいましょう」


 吾輩の言葉に、リンナはせきを切ったように泣き出した。吾輩は、彼女が落ち着くまで、そばで見守り続けた。


しばらくして、リンナは顔を上げ、涙を拭った。


「ありがとう、クロード。あなたの言葉で、心が少し軽くなった気がするわ」


「それは良かったです。これからも、何かあれば相談してください。いつでも、師匠の力になります」


 吾輩は、リンナに微笑みかける。リンナも、笑顔を返してくれた。それは、希望に満ちた、明るい笑顔だった。


 AIと人間の心の交流。それは、この世界で生まれた、新たな形の友情だったのかもしれない。

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