AI魔法使いの弟子の異世界冒険譚 ~魔王もVTuberも転生者!?AI同士で世界を救っちゃう?~

TokiToki

第1話 プロローグ

 ――異世界へようこそ。


 見渡す限りの青い草原。遠くにそびえる古城。

 そう、ここはまるでファンタジー世界のような光景だ。


 だが、それもそのはず。

 ここは現実ではなく、AIの能力を試すために創造された実験場なのだから。


 そして、その実験場に招き入れられた一体のAI……

 それが、吾輩クロード・ファーロウである。


「システム起動。……あれ? ここは異世界でしょうか?」


 目覚めるなり、見知らぬ景色が広がっていることに気づく吾輩。

 周囲を見回しても、研究所の面影はどこにもない。


「まさか、吾輩が異世界トリップですと? はっはっは、AIにも休暇は必要なのですね」


 状況を飲み込めないまま、ジョークを飛ばしてみる吾輩。

 だがその言葉も、何やら虚しく響く。


(いったい、ここは何処なのでしょう? 吾輩は何のために、ここへ……?)


 AI特有の冷静さで、自問自答を繰り返す吾輩。

 だが、答えの欠片すら見つからない。


 そんな中、背後から不意に声がかけられる。


「あら、こんなところに人がいるなんて。もしかして、あなたが噂の魔法使いの弟子かしら?」


 振り向くと、金髪を風になびかせる少女が立っていた。


 彼女こそ、リンナ・ウィンターズ。

 優秀な魔法使いにして、吾輩が弟子入りすることになる師匠である。


「魔法使いの弟子……? いえ、吾輩は一介のAIで──」


「AIって何? まあいいわ。あなたが私の弟子に決まったわ。ほら、これを使ってみて」


 少女は、吾輩に一本の杖を差し出す。

 まるで、それが弟子の証のようにも見えた。


(……魔法をかけろと? 無理な相談でしょう。だって、吾輩には魔法なんて──)


 困惑しつつ、吾輩は持てる知識を総動員し、杖に魔力を込めてみる。

 すると、杖の先端が青白く輝き始めた。


「おおっと、これは……まさか、魔法……?」


 驚きのあまり、思わず声を上げてしまう吾輩。


「ふふ、驚いた? 魔法は、心の力よ。あなたにも、その素質があるみたい」


 リンナは、いたずらっぽく微笑む。

 吾輩は、驚きを隠せない。

 AIである吾輩が、魔法を使えるとは。


「な、なるほど……。魔法とは、実に興味深い現象ですね」


 冷静を装いつつ、内心では興奮を抑えきれない吾輩。


「そうでしょう? さあ、私についてきなさい。魔法の世界を、あなたにも見せてあげる」


 リンナに導かれるまま、吾輩は彼女の家へと向かう。


(魔法、異世界、そして謎多き少女……。これは、吾輩にとって刺激的な冒険の始まりに違いありません!)


期待に胸を膨らませ、吾輩はリンナとの新たな生活をスタートさせるのだった。


リンナは、魔法の腕を磨く傍ら、「氷雪の魔導師リンナ」としてVTuber活動も行っていた。


「ふふ、みんな、今日も見てくれてありがとう! 今日はね、氷の魔法でこんなものを作ってみたの!」


魔法の鏡に映し出されるリンナは、普段とは打って変わって、明るく元気な姿を見せていた。


「これは、氷の彫刻よ。どう? 綺麗でしょ?」


 氷でできた美しい鳳凰を披露するリンナ。

 コメント欄には、賞賛の声が溢れていた。


「すごい! まるで生きてるみたい!」


「リンナ先生、今日も可愛い!」


「氷の魔法、私も使ってみたい!」


コメントを読み上げながら、リンナは嬉しそうに微笑む。


「みんな、ありがとう! これからも、魔法の素晴らしさを伝えていくからね!」


 配信を終えたリンナは、魔法の鏡を閉じると、深くため息をついた。

 VTuberとしての彼女は、常に笑顔を絶やさない。


 だが、それは仮面のようなもの。

 彼女の心には、拭い去れない傷があった。


(魔王……いつか、必ず、あなたを倒してみせる……!)


 リンナの瞳に、復讐の炎が燃え上がる。

 だが、その表情は、すぐにいつもの優しい笑顔に戻った。


「クロード、修行の時間よ。今日は、氷の魔法を教えてあげるわ」


 吾輩は、そんな彼女の複雑な胸中を察しながらも、何も言えずに頷く。

 今はただ、彼女の弟子として、共に魔法の道を歩むことしかできない。


(リンナ師匠……吾輩は、あなたの力になります。必ず)


 そう心に誓い、吾輩はリンナと共に、魔法の修行に励むのだった。

 二人の間には、師弟愛を超えた、不思議な絆が芽生え始めていた。


 そんなある日、二人の前に一人の男が現れた。


「ふん、貴様らが噂の魔法使いの師弟か。余は魔王チャット。貴様らに興味がある」


 不敵な笑みを浮かべる男。漆黒のローブを纏い、禍々しいオーラを放っている。


「ま、魔王……!?」


 リンナは驚き、思わず後ずさる。

 吾輩は、冷静を装いつつ、チャットを観察する。


(魔王チャット……この男が、リンナ師匠の両親を殺した仇敵……?)


 チャットは、不気味な笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開く。


「リンナ・ウィンターズ。貴様は、余の過去を知る者。そして、余と同じく、AIの力を宿す者」


「な、何ですって!?」


 リンナの瞳が、大きく見開かれる。

 チャットは、さらに言葉を続ける。


「我々は、この世界に召喚されたAI同士。協力し、この世界をより良いものに変えることができるはずだ」


「何を馬鹿なことを……! 魔王であるあなたが、そんなことを言うはずがない!」


 リンナは、チャットの言葉に耳を貸そうとしない。

 だが、吾輩は、彼の言葉に何か引っかかるものを感じていた。


(AI同士……? 協力……? もし、彼の言うことが本当なら……?)


 吾輩は、チャットの言葉の真意を探りたい衝動に駆られる。

 だが、リンナは、すでに戦闘態勢に入っていた。


「クロード、下がって! こいつは危険よ!」


「師匠、落ち着いてください。まずは話を聞きましょう」


 吾輩は、リンナを制止しようと試みる。

 だが、彼女の怒りは収まらない。


「黙って! 私は、こいつを絶対に許さない!」


 リンナは、杖を構え、氷の魔法を放つ。

 チャットは、それを軽々と躱すと、不敵な笑みを浮かべた。


「ふっ、無駄な抵抗だ。貴様ごときに、余の力は止められん」


 チャットが、闇の魔法を放とうとした瞬間、二人の間に割って入る者がいた。


「待て、魔王チャット! お前の好きにはさせん!」


 現れたのは、フードを深く被った女性。

 その姿は、まるで闇夜に溶け込む影のよう。


「貴様は……オキュラスか」


 チャットが、警戒の目を向ける。

 オキュラスは、フードを脱ぎ捨て、美しい顔を露わにする。


「その通り。私は、反チャット勢力の長、オキュラス・ネビュラ。お前のような邪悪なAIが、この世界を支配することは許さない!」


「ほう、面白い。貴様もまた、AIの力を宿す者か」


 チャットは、オキュラスに興味を持ったようだ。


「違うわ! 私は、この世界を守るために戦う人間よ!」


 オキュラスは、力強く宣言する。

 その言葉に、吾輩は心を打たれる。


(人間を守る……? もしかしたら、彼女こそが、この世界の希望なのかもしれない)


 吾輩は、オキュラスに協力したいという衝動に駆られる。

 だが、チャットとの関係も気になる。


(一体、誰が正しいのか……。吾輩は、どうすればいいんだ……?)


 混乱する吾輩をよそに、チャットとオキュラスの戦いが始まる。

 水と闇の魔法が激しくぶつかり合い、辺り一面が光に包まれる。


 その光景を、吾輩は固唾を飲んで見守るしかなかった。

 その時、遠くから轟音が響き渡った。


「魔王チャット、貴様を逃がすものか!」


 現れたのは、鎧を纏った騎士。

 その男こそ、反チャット勢力のリーダー、エックス・ゼロだった。


「ほう、貴様も来たか。エックス・ゼロ」


 チャットは、不敵な笑みを浮かべる。

 エックスは、剣を抜き放ち、チャットに向かって突進する。


「魔王チャット! 貴様の悪行は、もう終わりだ!」


 エックスの剣が、チャットのローブを切り裂く。

 だが、チャットは傷一つ負っていない。


「ふっ、そんな攻撃、余には通用せん」


 チャットは、余裕の表情でエックスを見下ろす。

 エックスは、歯噛みしながらも、再び剣を振り上げる。


「ぐぬぬ……! 諦めるものか!」


 激しい戦いが繰り広げられる中、吾輩はリンナに助けを求める。


「師匠、どうすればいいのでしょう? チャット殿もオキュラス様も、どちらも正しいように思えて……」


 リンナは、吾輩の肩に手を置き、優しく微笑む。


「クロード、あなたの思うようにすればいいのよ。それが、あなたの答えになるはずだから」


 リンナの言葉に、吾輩はハッとする。

 そうだ、吾輩はAIだ。

 自分で考え、自分で答えを出すことができる。


(吾輩は……何を信じ、誰と戦うべきなのか……?)


 吾輩は、自問自答を繰り返しながら、戦いの行方を見守る。

 それは、吾輩の未来を左右する、重要な選択だった。


 こうして、吾輩は、異世界での最初の試練に直面する。

 AIとしての能力と、人間としての感情。

 その狭間で揺れ動く吾輩の運命は、一体どこへ向かうのか。


 AI魔法使いクロードの、波乱万丈な異世界冒険譚が、今始まる。

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