ハンターとしての討伐

翌日、貨物船のクック船長と共に大型漁船と捕鯨船の船長と話し合いをする。


「だからマーギンがいればなんとかなるって言ってるだろうがっ」


話し合いは難航していた。大型漁船の船長も先日は難色を示していたが、一緒にカツオを食った船員からもマーギンの話を聞いたようで渋々オーケーを出した。が、肝心の捕鯨船の船長がうんと言わないのだ。


「うちの船はお前らの船より小さい。クラーケンにやられたらひとたまりもねぇ」


「だから、マーギンがそっちの船に乗るから問題ないと言ってるだろうが」


「クック船長、無理強いすることないよ。今回は俺がハンターとしてクラーケン討伐を受けるから組合に依頼を出して」


「いくらで受けるつもりだ?」


「1億Gかな」


「なんだとっ」


マーギンが高額な報酬を提示したことで船長達の顔が一気に険しくなる。


「船の持ち主の皆からかき集めたらなんとかなるだろ?それと半分ぐらいは領主にも負担させなよ。ライオネル領も船が出られないと税収も上がらないんだから」


「そんな高額な報酬を払えるかっ」


そう言ったのは捕鯨船の船長。


「そもそも海の魔物討伐って特殊なんだよ。それに今回は大型クラーケンだろ? 他にもっと安価で討伐出来るハンターがいるならそいつに依頼をすればいい」 


と、マーギンは冷たく言い放った。


「マーギンお前…」


貨物船のクック船長はマーギンがなぜこんな無茶な要求をしたのか理解ができなかった。


この3人の船長だけでは事を決められないとのことで、船を出せない船長達と船の持ち主と相談する事になった。



「なぁ、マーギン。なんであんなにふっかけたん?」


「ん? 俺に仕事で依頼すると法外な報酬を吹っかけられると知ってもらうためかな」


話し合いに一緒に来ていたのはハンナリーだけ。予め口を挟むなよと言い聞かせてあったのだ。


「クジラ漁船の船長が協力するて言うたらどうするつもりやったん?」


「別に報酬を取るつもりはなかったぞ」


「ほなら、向こうはえらい損したことになるやんか」


「そう。俺は好意でクラーケン討伐のやり方を教えようと思ってたけど、自分達でなんとかしようと思わないと無駄だからね。だから仕事として受けるならこれぐらいの報酬になるよと分かってもらえたんじゃない?」


「ほなら、やっぱりクジラ漁船も協力するて言うて来たらどうするん?」


「もう断るよ。多分これから大型クラーケンが出るのが常態化する。各船の船長や領主はそれに対抗していかないとダメなんだよ」


「クジラ漁船が協力することになったら、クジラ漁船はその度に討伐せなあかんようになるんか?」


「そうなるね。でもその度に領主や他の船長から報酬をもらえばいいと思うんだよ。ただリスクがあるのも本当だから、嫌がる人にやらせるのも良くないかな。だから毎回1億Gの報酬を払うぐらいなら、ライオネルとして対策を取る方がいいと思ってくれたらいいね」


「対策なんて取れるんか?」


「それを相談されたら倒し方のアドバイスはするけどね。今回の事がきっかけになればいいんじゃない?」


マーギンは皆がクック船長みたいな考え方をしているなら問題ないが、他の船長達みたいな感じだと誰も自分達はリスクを取ろうとしないだろう。だからリスクを取らない者は相応の金額を払わないとダメだということを理解してもらわないとダメだなと思ったのであった。



話し合いから3日後、クックが地引網を手伝っている所に現れた。


「マーギン、領主が半分払う事で話が付いた。討伐を頼む」


「残りの報酬は皆で分担したの?」


「大型船だけで按分だ。小型船の奴らは個人でやってる奴が多いから報酬を負担するのは難しいだろうということになった」


「了解。明日討伐に行くよ。船は貨物船で行くのか?」


「いや、大型漁船で行く。あっちの船長の方がクラーケンが出そうなポイントを把握しているからな」


「夜明け前に話し合いをした所に行けばいいか?組合に行く暇がないから事後受注になるけど」


「マーギンに指名依頼をしてあるから構わんだろう」


この後お料理教室をやらないとダメだからな。



翌日、大型漁船に乗ってクラーケンが出そうなポイントに向かった。クック船長も同船している。こちらはマーギン一人だ。


「かなり沖か?」


マーギンは大型漁船の船長室でポイントを聞く。


「そうだな。丸一日船を走らせてマグロの漁場に向かう」


「なら、マグロ漁をしてくれよ。マグロ食べたいんだよね」


「漁をしている時に襲われたらどうすんだ?」


「まぁ、大丈夫だよ。俺がやるなら問題はない」


「は? この前は絶対とは言い切れないと言ってただろうが」


「クジラ漁船に討伐をしてもらうなら絶対とは言えなかったけど、俺が魔法でやるなら問題ない」


「意味がわからんぞ」


「クジラを仕留める銛でクラーケンの弱点をピンポイントで狙うの難しいからね。あのクジラ漁船の腕前を知らないから絶対とは言えなかったんだよ」


「お前の魔法は外れないのか?」


「射程圏内なら外す事はないよ。クラーケンって複雑な動きをするわけじゃないから」


クラーケンはイカ系の魔物だ。素早く動く時は直線に動くから狙いやすいのだ。



ー翌朝ー


マグロ漁ははえ縄のようで、漁場に着く前から船員達がせっせと準備していたものを流していく。


マーギンは船首に立ち、クラーケンがいないかずっと見ていた。


「マーギン、どうだ?」 


隣にはクックがいる。


「今の所見当たらないね」


「クラーケンはいきなり下から襲って来るんだろ?」


「そういう時もあるし、水面にいる時もあるんだよ」


「そうなのか?」


「クラーケンはクジラを食うって言ったろ?クジラをおびき寄せるのに水面にいたりするんだよ」


「どうやって?」


「クラーケンはクジラに擬態するんだ。で、クジラが仲間だと思って寄って来た所を襲うんだよ」


「擬態?」


「擬態したクラーケンは本当にクジラそっくりに見える。ただ潮の吹き方がちょっと違う。クジラは真上に潮を吹くけど、クラーケンは斜め上に潮を吹く。それで見分けるんだよ」 


「そうだったのか…」


「今までもクジラだと思ってたのがクラーケンだったかもしれないね」  


そのままクラーケンは見付からず、昼飯を食ってしばらく休憩した後に延縄の引き上げが始まった。


船員達が地引網と同じ掛け声でどっせいどっせいと綱引きみたいに仕掛けを上げていく。しかし空振りが多く、思ってたよりマグロは少ないようだ。デカいと思ったのがカジキだったりサメだったりとかだ。


「サメは捨てるのか?」


「売れねぇからな」 


「加工したら売れるぞ」 


「嘘つけ」


「まぁ、やる人もいないだろうから、信じられないだろうけどね。捨てるならヒレだけ取れば?」


「ヒレだけ?」


「そう。乾燥させたら料理の材料になる。生きてるなら逃がしてやればいいけど、死んでるならちょっとでも食べてやらないとね」


マーギンは捨てる前にサメをもらい、魔法で解体する。皮はホースラディッシュをおろすのに使おう。身も確保した。これでかまぼことハンペンを作れば正月に食えるな。


夕方近くまでかかって仕掛けを上げ終わったが釣果は思わしくない。マグロは3匹だけだったのだ。


「少なかったね」 


「群れが散ってしまったんだな。こんなのが続いたら大赤字だな」


クラーケンもクジラだけ食うわけじゃないなからな。マグロとかも食われているのかもしれん。


そして日が沈んだあともマーギンは暗視魔法を使って海面を見続けていた。


「おっ、クジラがいやがったぜ」


獣人のクックも夜目がきくようで、クジラの潮吹を見付けたようだ。


「どこらへん?」


「あっちの方だ」


クックが指を差した方を見る。


「あっ、あいつはクラーケンだな。船長にクラーケンに向かって進めと行ってきて」


クックにそう伝えてマーギンはスタンバイ。


しばらく待つと、船はゆっくりとクラーケンの方に方向を向け進みだし、少し近付くと船に気付いたクラーケンはすっと沈んだ。


「さて、どこから襲って来るかな」


クジラならこんなにすぐに逃げない。クラーケン確定だな。と思っていると、いきなり船の真下からニュッと触手が出て来て絡み付いた。


どぉん


クラーケンが船に張り付いた衝撃で大きな漁船が揺れる。


「パラライズ」


マーギンはクラーケンに痺れ魔法を掛けた。そうすると触腕がシビビビとなるのがわかる。そして、触腕を火炎放射で程よく焼いてやった。もちろん船には影響がないようにだ。


船に絡み付いた触腕を全て火炎放射で焼いた後にパラライズを解除すると、怒り狂ったクラーケンが船の前に現れた。


クラーケンは墨のジェット噴射で攻撃してこようとしている。


「パーフォレイト」


バシューーーー


マーギンはクラーケンの目と目の間に魔力ビームを撃ち込んだ事で一瞬で真っ白になるクラーケン。弱点を魔法で貫かれたので即死だ。


真っ白になったクラーケンを魔法でこちらに引き寄せる。さすがにこのデカさだと引き上げられないので、船員達に何本も銛を撃ち込んでもらい、曳航して持ち帰る事にしたのであった。




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