初見の魔物への対応

「初見の魔物と対峙する時は様子を見てから攻撃しないとダメだ。サリドンのファイアバレット、バネッサのクナイやシスコの弓とか離れた場所から攻撃をしてみて様子を見る。その時の反応でヤバかったら撤退を前提に戦うんだ」


「そんな事言ったってよぉ、あいつみたいにすげぇ速さでこっちに来たら逃げられねーじゃねーかよ」


「訓練を始める時に説明した事を忘れたか?」


「どれのことだよ?」


「襲ってくるスピードでヤバさがわかるだろ?その時は撤退だ。そうなればバネッサが囮になって他の者は逃げるんだよ。お前の身体強化したスピードならまず逃げ切れる。そのかわり、今日みたいに倒れたら死ぬからな」


「うちのスピードでも逃げ切れなかったら?」


「そん時は全員死亡だ。諦めろ」


「ケッ」


「マーギン、相手の強さってどうやってわかるんだ?」


と、カザフが聞いて来る。


「スピードは見た目でわかるだろ?で、矢が刺さるかどうかである程度硬さがわかる。ファイアバレットで熱耐性があるかどうかも分かる。後は体型だな」


「体型?」


「そう。こいつの体型はオーキャンみたいな感じだろ?足も速いがジャンプ力があるのも似ている。熊系、狼系、猫系とか動物と似た体型の奴は似たような動きをするんだよ。スピードとパワーは全く違うけどな」


「ラプトゥルとかは?」


「爬虫類系と虫系は難しいな。形が似ていても全く特性が異なったりするし、毒持ちも多い。一つずつ覚えるしかない」


「難しいねー」


「こればっかりは経験だな。だから経験を積んでいくためにも、初見の魔物は撤退を視野に入れて対峙するのがいいと思うぞ」


「マーギンはそうやってきたのー?」


「俺は魔法の師匠とずっと一緒だったのと、魔法攻撃主体だから撤退することはほとんどなかったな。魔法の師匠が魔物の研究もしていたから詳しかったというのもある。まぁ、そいつの研究と結果が違う事もあったけどな」


「僕達もマーギンがずっと一緒に居てくれたらいいのにねー」


トルクはこの実地訓練が始まってからマーギンが皆に関わらないようにしていたのを確かめるように言った。


「お前らを一気に強くする為には、自分で気付いて自分で工夫しないとダメだからな。初めからこいつはこうだからこう倒せ、とか教えると自分で考える癖が付かないんだ。その代わり終わったらこうして復習をする。その方が理解もしやすいだろ?」


「マーギンはこのキルディアってのも僕達なら倒せると思ってたんだよね?」


「そう。本来こいつはもっと簡単に倒せる魔物だ。単体の強さは魔狼より強いが群れを作らない。だから対応も楽なんだよ」


「マーギンなら魔法を使わなかったらどうやって倒すの?」


んー、初めは答えを教えてもいいか。こういう特性のある奴はこうだという見本になるだろう。


「キルディアが大きくジャンプした時は何があった?」


「アイリスのファイアバレットの時と、バネッサ姉が下に潜り込んで攻撃をした時」


「そう。左右に避け切れない攻撃をするか、下に潜られると飛ぶ。キルディアが飛べばチャンスだ」


「どうしてー?」


「飛んだら、下に落ちてくるしかないだろ? 空中で走れるわけじゃないから落下点は容易に想像が付くわけだ。落ちてくる時に下から剣で突き刺せば良い。ちい兄様なら、土魔法で尖った物を伸ばすだけで刺さる」


「なるほどー、キルディアをジャンプさせれたら簡単に倒せるんだね」


「そう。落ちてくるキルディアの下に潜り込むのは勇気がいるけどな。そのうちまた出るだろうから色々と試してみろ」


「うん」


その後、キルディアを解体させて肉を食べてみることに。


「オーキャンよりやや臭みがあるから、少し味見をして味付けを工夫してみろ」


と、調理はタジキに任せる。


「女性陣で水浴びしたい人は日が暮れる前にしとけよ。それと全員一緒に水浴びすんなよ。なんかあったら男が見に行くことになるからな」


とマーギンは言い残して森の中に消えていったのだった。


「マーギンの言う通り水浴びをしておくか。戦闘で結構汚れたからな」


とロッカが皆に言う。


そして星の導きが川で水浴びが出来る所を探してそこで交代で洗濯と水浴びをすることにしたのだった。


「ん?姫様は洗濯するものはないのか?ローズ…も?」


「マーギンが着替の袋に脱いだものそのまま入れとけって。洗浄魔法を掛けてくれてるの」


「あー、そうか。ローズと姫様の分だけいつものようにしてるのか」


ロッカは納得した。


「けっ、ズルぃよなぁ。タイベの時はうちらのも全部してくれてたのによ」


「文句を言うな。マーギンがいない時はこれが当たり前だったろ?」


「そうだけどよぉ、一度楽すると面倒臭ぇんだよなぁ」


と、バネッサが文句を言いながら脱いだ物を洗っている。


ローズはずっと落ち込んでいた。キルディアとの戦闘中にマーギンに言われた事が頭から離れない。自分は同じ事を何度マーギンに言われただろうか…


それに着替えの洗浄も姫様の分はわかるが、自分の物も当たり前のように洗浄魔法を掛けてもらっていた。自分はマーギンに甘えっぱなしなんだなと改めて気付く。


交代で水浴びをしてキャンプ地に戻るとタジキが皆の分のご飯を作ってくれていた。


「マーギンにケバブの魔道具を借りといたらよかったんだけど、今日は串肉にしたから自分で焼いて食べてくれな」


「おっ、旨そうじゃねーかよ」


バネッサは大きな肉の串肉を3本確保。それぞれが食べたいだけの串を持ち、薪にアイリスが火をつけてその周りに串を刺して焼き始めた。


その時にマーギンが帰って来た。


「マーギンも食べる?」


「そうだな。キルディアも久しぶりだから食っておくか。タジキ、これをすりおろしてから味見してみろ」


「これなんだ?」


「ホースラディッシュというものだ。辛いから一気に食うなよ」


タジキはマーギンに渡された太い草の根っこをすりおろして味見をした。


「辛ぇぇぇっ 鼻が痛ぇぇぇっ」  


タジキは鼻を押さえてジタバタする。


「だろ?でもな、これを焼いた肉に少し付けて食うと旨いんだぞ。バネッサは無理だろうけど、ロッカやちい兄様は好きなんじゃないか?」


とマーギンに言われたロッカとオルターネンは焼けた肉にホースラディッシュを付けて食べてみた。


「うっ、随分と鼻に来る辛さだな」


「唐辛子とは違った辛さだろ。生魚にも合うんだ。ハンナ、鯛の刺身を作ってやろうか?」


「食べるっ」


というので、前にライオネルでもらった鯛を刺し身にして渡しておく。ついでに鯛飯も作っておくか。


刺し身にした鯛のアラと、もう一匹鯛を出して塩焼きにしていく。アラも炙っておこう。


焼くのを待つ間にキルディアの串肉とタイの刺し身をホースラディッシュと醤油で食べる。ワサビじゃないけど十分旨いな。


「シスコ、この湖と川に凶暴なデカい魚はいるか?」


「そんなの聞いた事ないわよ」


そうか、ウルフトラウトはいないのかもしれないな。


「一応、みんなに言っておくけど、日が暮れたら川の中に入らないようにしてくれ。シスコはいないといったけど、万が一の事がある」


「何かいるのか?」


オルターネンがいるなら何がいる?と聞いて来た。


「ウルフトラウトという夜行性の大型淡水魚がいたら襲われるかもしれないんだよ。水の中で襲われたら対処するのが難しい」


「そんなにデカいのか?」


「普通サイズで2mぐらいかな。足とか腕とか食い千切るぐらい歯が鋭い。魚は気配もないから気を付けてくれ」


「そ、そんなんおるなら、水浴びする前に教えてぇなっ。襲われるかもしれへんやんかっ」


「夜行性だって言っただろ?日があるうちはどこかでじっとしているから大丈夫だ」


「そ、そやかて…」


「怖いなら明日から一緒に水浴びしてやろうか?」


「うちの裸を見たいんやったらええで」


「わかった。尻尾が生えてないか確認してやるわ」


「生えてへんわっ」


ハンナリーはマーギンに裸を見られても平気なのかもしれない。恥ずかしがってくれないとからかい甲斐がないじゃないか。


マーギンはキルディア戦闘が終わってからずっと沈んでいるローズに、


「じゃあローズも俺と一緒に水浴びをするか?」


と、セクハラをしてみる。


「そうだな…」


と、ローズは話を聞いておらず空返事をした。


「えっ?」


真っ赤になるマーギン。


ぷす


「痛っぇぇぇぇ」


「あぁ、すまん。手が滑った」


ローズにセクハラをしたマーギンのケツに串が刺さっていたのであった。

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