反省会

騎士隊とのバトルが終了した後、反省会ということで、大隊長主催で貴族街の個室のあるレストランに行くことになった。メンバーはマーギンと特務隊と今日戦った隊長達だ。



「マーギン、皆見違えるほど強くなったな」


食事を終えた後に大隊長が切り出す。


「まぁ、特務隊は元々強さ自体は持ってましたからね。訓練では足りない部分を補った程度ですよ」


「こんな短期間であれほど変わるものなのか?」


「本当に強くなるのはこれからです。今日の結果は意識改善と、戦闘慣れが進んで来た成果です」


「サリドンとホープもか?」


と、聞いて来たのは第二隊長。


「純粋な剣の強さだけで言えば、サリドンとホープより、各隊長の方が上でしょうね」


「では我々はなぜ負けた?」


「各隊長は試合を、こちらは勝負をしていた違いですね。それと、騎士の役目は守る事。特務隊は戦って敵を倒すのが役目。求める結果が違うのですよ。どちらかと言うと特務隊は軍隊に近い役割です。敵が人か魔物かという違いだけです」


「我々も戦わねばならん部隊だぞ」


「それは分かってます。でも護衛対象を守るのが最優先でしょ?守る為に戦うのと、倒す為に戦うのとは違います。特務隊や星の導き達には自分だけでも生き残れる心構えを持ってもらってます。騎士は自分を犠牲にしてでも護衛対象を守らなばなりませんが、特務隊は仲間を見捨ててでも生き残らなければなりません」


「仲間を見捨てるだと?」


「はい。自分達が勝てない魔物と遭遇したらその情報を持ち帰らねばなりません。そうしないと国というか、人類がヤバい状況に陥ります。ですから、勝てないと判断した場合は速やかに撤退しないとダメなのですよ。騎士の心構えだと敵前逃亡はみっともないとか卑怯とか思われるでしょうけどね」


「敵から逃げる…」


「はい。逃げても対策を立てて、次に勝てば良いのです。それを恥と思って無理に戦って死ぬ方が恥です。ですから、隊長が撤退の指示を出したら速やかに撤収する。それを聞かずに戦いを挑んだ場合は見捨てて撤収です。命令を聞かない馬鹿者を助けに入って巻き添えになるのは愚の骨頂です」


「前に北の領地でローズが指揮を取った時に命令を聞かなかった奴らの事を言っているのか?」


「あー、そういう事もありましたね。はい、あの手の人です。あの時自分が指揮官ならその場で斬っていたかもしれません。その代わり、指揮を取る人は仲間の本当の実力、性格はもちろん、敵の能力とか状況を的確に掴んでおく必要があります。ちなみに各隊長は部下の実力をきちんと把握されてますか?」


「把握しているつもりだ」


「つもりではダメですよ。訓練所で訓練している騎士をチラっと見てましたが、だいたい同僚とかと訓練しているでしょ?月イチぐらいで隊長自ら敵役になって部下の実力を把握しておいた方がいいですね。でないと前にやった護衛訓練みたいな結果を生みますよ」


そうマーギンが言うと第二隊長は苦い顔をしたのだった。


「マーギン、カザフがスピードがあるのは知っていたが、あそこまで戦えるようになっていたのか?」


大隊長はカザフが第四隊長に勝ったのが青天の霹靂だったようだ。


「まぁ、カザフ達は特務隊と星の導き達と一緒に訓練していますからね。トップクラスの人達があいつらのベースになっているんです。ですから当たり前の水準が高いんですよ。それにあの年齢で自分達の生きる道を選んで、魔物討伐をする日々の人生を選択したのです。普通の子供と覚悟も違いますから、訓練もやらされているのではありません。孤児だったやつらは教えて貰うことに貪欲ですから吸収スピードも半端ないですね」


「やらされているのではないか…」


第二隊長が呟く。


「はい。騎士も訓練をやらされていると思ってる人は伸びないでしょうね。各隊長は家柄や今の実力だけでなく、そういう所を見てあげた方が良いかもしれません」


マーギンは余計な事を最後に言って締めくくった。



特務隊と各隊長達はまだ話したいようなのでマーギンだけ先に失礼することに。


「お前ら、あまり飲み過ぎるなよ」


と、大隊長も言って席を立った。そしてマーギンを前に行ったワインバーに連れて行く。



「マーギン、騎士隊の隊長達をどう見た?」


「訓練は真剣の寸止めではなく、木剣でいいのでちゃんと打った方がいいでしょうね。実戦の時に寸止めの癖が出てます」


「やはりそうか」


「はい。今日の試合というか勝負でも相手を殺す気でやってればカザフとサリドンは勝てなかったでしょうね」


「ホープはそれでも勝てたか?」


「あいつはだいぶ変わりましたよ。初めの自惚れ感が無くなりました。きっと自分が弱いと認めたのでしょう。そこで腐らずに、強くなる道を選んだようですから、まだまだ伸びますよ。それに部下が出来た時に同じようなやつがいればそいつの気持ちも分かってやれるでしょう」


「なるほどな。サリドンはどうだ?」


「んー、今日みたいな勝負を魔物相手にやるようなら、特務隊から外した方がいいかもしれません。本部で仲間たちの話を聞く役目とか向いてるでしょうね」


「戦闘向きではないということか」


「努力家で実力もあるんですけどね、根が優し過ぎるのですよ。人としては魅力的ですけど、戦闘時においては足手まといになります。タイベで魔物と戦っている所をオルターネン様に見てもらって判断してもらえばいいかなと思います。本当は特務隊より騎士向きなんでしょうね」


「そうか。特務隊の隊員は増えると思うか?」


「どうでしょうねぇ。第四隊長とか向いてそうな感じはしましたよ。彼はまだ若いですよね」


「そうだな。隊長になる前は第四隊の小隊長をやっていたものだ」


「第四隊が一番人数が多いんでしたっけ?」


「そうだ。一番人材が豊富なのが第四隊だな。見習いと変わらんようなやつから、あんなやつまでいる」


「まぁ、人選はオルターネン様に任せますよ。騎士隊の中から増やして行くのが難しいようなら、軍や一般人から見付けて行くしかないでしょうね」


「一般人とはハンターからか?」


「ハンターをしているかどうかわかりませんけど、獣人とかいいかもしれませんね」


「獣人だと?」


「えぇ。肉体能力は人族より上ですし、魔法も教えたら使える奴がいるかもしれません。不器用な奴が多いですけど、愚直なタイプが多いので、面白い奴がいるかもしれませんね」


「獣人は魔法を使えるのか?」


「それは調べないとわかりません。例えばハンナリーは獣人ではないのですが、獣人の特性を持っています。あいつの使う魔法は面白いですし強力です。他の獣人がもし似たような特性を持っていれば戦闘員として面白い存在でしょうね」


「獣人か…」


「王都では忌避されるかもしれませんが、獣人の見方が変わるチャンスでもありますしね。ライオネルやタイベで募集してもいいかもしれません」


「それはオルターネンに伝えたか?」


「いえ。オルターネン様が何かを感じ取って、ご自身で判断されれば良いと思います。今度のタイベ行きに同行されるので、獣人と接触する機会もあるでしょう」


「わかった。あと、軍との訓練は来月可能か?」


「そうですね。騎士隊もまだやりたいなら追加してもらってもいいですよ。1対1ではなく、星の導きとガキ共を含めた全員と騎士隊多数とか。軍との訓練は本当の実戦形式が良いと思いますので、騎士隊の訓練所より、軍の訓練所の方がいいかもしれません。その際には実戦と同じく治癒師を連れて来てください」


「わかった。マルクにそう伝えておこう」


この後、マーギンは一番高いワインをしれっと頼んだのであった。



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