なぜか呼応
「組合長、庶民街商業組合の組合長が急用との事で来てます」
「あーん、ジムケインか?」
「は、はい」
「面倒だ。そっちで対応しとけ」
「し、しかし、重要な話だと」
「どんな話だ?」
貴族街商業組合の組合長、ヤンベル・ナーゲルは面倒臭そうにガブリエルに聞く。
「詳しくは聞いておりません。私ごときが伺う事の出来ない重要な話だそうで」
このままでは責任を擦り付けられることになるガブリエルは汗をかく。
「たかが庶民街の組合長ごときが偉そうにそう言ったのか?」
「い、いえ、それはもう一人の男が…」
「は?そいつも庶民か」
「はい」
「追い返せ。私は忙しいのだ」
「く、組合長が何も聞かずに用件を断ったということでよ、よ、よろしいでしょうか」
ガブリエルは滝の様な汗を流し、全力で組合長の責任にする。
「なんだその言い方は?」
「はっ、あの、その… 私は確かに組合長にお伝え致しましたので…」
「うるさいっ、何度も言わすなっ。とっとと追い返せっ。貴様を首にするぞっ」
ガブリエルはボタボタと汗を床に落としながら退出した。
「おっ、真っ青な顔で戻って来たな」
マーギンはここの窓口の対応からして、きっと組合長も似たような奴だろうと想像していた。なので端から組合長が来るとは思ってなかったのだ。
「く、組合長はお出掛けになられ…」
「嘘つくとお前の責任にするからな」
ガブリエルが体裁を繕おうとしたのを食い気味で責任の話をして言わせない。
「お忙しいとのことで…」
「ならしょうがないな。お前に用件を伝えるわ」
「いっ、いえっ。話さないで下さいっ」
「いいから聞けっ」
ビクッ
マーギンは恫喝するようにガブリエルに命令した。
「お前は組合長に取り次ぐというミッションを失敗したわけだ。だから
「そ、そんな…」
「しかーし、その責任を回避することが出来る方法がある」
「えっ?」
「これを受理しろ」
マーギンは特許の異議申立てを書いた書類を出す。
「こ、これを受理すればいいんですね」
「そうだ。これは元々窓口の業務だからな。簡単だろ?」
「は、はい」
「じゃ、一筆書いて」
「な、何をですか…」
「異議申立ての書類を受理したこと、詳細説明を組合長にするために庶民街の組合長が足を運んだけど、ここの組合長はそれを拒否したということを書け」
「そ、それは…」
「お前の責任になるぞ?」
「わ、分かりました」
既にガブリエルはマーギンの言いなりになった。
「しょ、商業登録の確認だけさせて頂ければ…」
「それはそうだな。えーと、登録証は…」
バラバラと各登録証を出すマーギン。
「これは、魔法書店ので、これはハンター証で、お、これか」
受付テーブルに並べられた各登録証に混じっている許可証が目に入ったガブリエル。こ、これは…
「これが魔道具を扱う登録証だ」
「そ、そ、そ、そ、その許可証はっ」
「あぁ、これか。これはこことは関係ないから気にすんな。で、異議申立ての返事は迅速に頼むわ。来週にでも結果を聞きに来る」
「そ、そんな早くには返事が出来ませ…」
「出来ないなら出来ないでいいけどね。俺は必死でやったほうが君の為だと思うけど。まぁ、好きにして。自分の力だけじゃ無理なら組合長を動かした方がいいよ。じゃ、また来週!」
マーギンは受理証明書と組合長が取り合わなかった事を記した書類をひらひらとさせて組合を出たのであった。
「組合長、なんか食べて帰りますか?お付き合いしてくれたお礼に奢りますよ」
しれっとそう言うマーギンと慌てた顔のジムケイン。
「お、お、お、お前あの許可証は何だっ」
「何だと言われても。庶民の俺が貴族街全部に入る為の許可書ですよ。あれがないと入れない場所がありますのでね」
「王家の紋章が入っていたではないかっ。まさか偽造したんじゃないだろうなっ」
「そんな事をしたら死罪になってもおかしくないでしょ?騎士隊絡みで渡されたのですよ。騎士隊の中に特務隊という魔物討伐専門の部隊ができましてね、その訓練を騎士隊本部の訓練所でしてるのですよ」
「お前が騎士隊に指導をしているのか?」
「俺は魔法使いでもありますからね。剣主体の騎士に魔法の事とか教えているだけですよ。それより昼飯は貴族街で食べます?それとも庶民街に戻ってから食べますか?」
「い、いや… 家内が持たせてくれた昼飯が組合に置いてあるので…」
ジムケインはちょっと照れくさそうに弁当みたいな物があると答えた。幸せそうでなによりだ。
マーギンが貴族街の商業組合で一悶着している頃、それに呼応するかのように王妃も動いていた。
王妃謁見の間に呼ばれたトイシャング夫人とグラッシェン商会の会頭。
「わざわざ来てもらって悪かったわね」
「とんでもございません。お呼びたて下さり光栄に存じます」
「そちらがドライヤーを作られた商会の方かしら?」
「はい、グラッシェン商会と申します」
「トイシャング家とはどういうご関係かしら?」
「実はグラッシェンは私の甥でございまして、長年研究してきた物がようやく使い物になったと聞いて、商売をするように勧めたのです」
「あら、そうでしたの。長年のご苦労が実って宜しかったですわね」
「はい、王妃様にそのようなお言葉を頂けるとは誠に光栄でございます」
「あのような素晴らしい物が出来るまで、どれぐらい実験なさったのか想像が付きませんわ」
「恐れながら、あのドライヤーは何百回…、いや何千回では足らぬぐらい実験を繰り返して参りました」
「それは大変でしたわね。研究していたのはドライヤーだけかしら?」
「いえ、他にもたくさんございます。今回はそのうちの一つである最新の魔道具をお持ち致しました」
グラッシェンは箱の上に載った赤いガラス玉を出して来た。
「これは何かしら?」
「お部屋に飾って頂く物でございます」
王妃の執事がその飾りを受け取り、王妃に見せる。
「横のスイッチを押して下さい」
執事がスイッチを押すと赤いガラス玉が下から照らされ、明るく輝く。
「まぁ、綺麗ですわ」
「これは今までに無かった赤いガラスと従来のライトの魔道具とは仕組みの違う画期的なライトの魔道具を組み合わせた物になります」
「これもご自身で開発を?」
「はい。かなり複雑な魔導回路になりますので、開発に苦労を致しました」
「素晴らしいわ。このような才能が今まで埋もれていたのがもったいないですわね」
「勿体ないお言葉にございます」
グラッシェンは赤いガラス玉の飾り物も献上品させて頂くと言った。
「グラッシェン、これからも期待しておりますわ」
「はい、続々と他の物も出来てきておりますので、今後とも宜しくお願い申し上げます」
「それでは楽しみにしておりますわ。ドライヤーとこの飾り物のお礼に付いては後日連絡致します」
「はっ、ありがたき幸せ」
こうして、トイシャング夫人とグラッシェンはホクホク顔で謁見の間を退出したのだった。
ー夕方ー
マーギンはガキ共と宿舎の食堂で焼肉の仕込みをしている。タジキ達が休みの度に食堂を手伝っているので厨房を快く貸してくれたのだ。
タジキはマーギンが買ってきた大きな牛肉の塊を切り分け、花咲カルビを仕込み、カザフとトルクは焼鳥の仕込みをしている。
「お前、上手になったな」
「へへっ、慣れたらこんなもんだぜ。マーギンは何を作ってんだ?」
「これははんぺんというものだな。今回は茹でて作ってるけど、揚げても旨いんだぞ」
「魚って、練るとそんな風になるんだな」
「卵白と粘り気のある芋を混ぜるとこんな風になるな。魚だけだとここまで柔らかくならんぞ」
マーギンは魔道具のフードプロセッサーのようなものと、すりおろす魔道具を駆使して、練り物の元を作り、餅つき機で練り上げたのだ。
「魚がこんな風になるのかい?」
食堂のおばちゃんたちも興味深そうに覗きにくる。
「手でやると、めちゃくちゃ時間が掛かるから、道具がないと無理だよ」
「その魔道具はどこで売ってるんだい?」
「これは売ってなくて自作したものなんだよ」
「えっ?あんた魔道具を作れるのかい?」
「専門じゃないけどね。秋になったら庶民街の南側に魔道具職人達の店が出来るんだよ。珍しい魔道具も販売するし、業務用とか特注品もそこで受けられるから」
昼のシャングリラの事を伝えると、おばちゃん達も行ってみるとのことだった。そして、はんぺんも気になっているようなので、一口サイズに切り、フライパンでバター醤油焼きにして試食してもらった。
「めちゃくちゃ柔らかくて美味しいじゃないのっ」
「お年寄りとかにもいいかもね」
そう言うと、うちの婆ちゃんに食べさせてやりたいわね、とか言われた。作り方は教えるから頑張ってくれたまえ。
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