同類

「マーギン、土魔法の訓練だとは理解をしているが、こんな小さな物を出すだけで役に立つのか?」


「柔らかいと役に立たないね。硬いと結構使えるんだよ」


オルターネンはポコっ ポコっと出すのに意味を見い出せないようで訓練に熱が入らないようだ。


「どう役に立つのだ?」


「敵を躓かせるとか…」


「とか?他にもあるのか?」


「これは次のステップと考えてたけど、先に見せようか。ホープ、ダッシュのやり方を変えるぞ」


「どんな風に変えるのだ?」


「三角形にダッシュだ」


マーギンは3カ所に印を付ける。


「この印まで来たら、次の印、その印に行ったらここまで戻るんだ。一度、全力ダッシュをしてくれるか?」


「よし、分かった」


ホープは印に向かってダッシュし、方向転換をする時にズザザザッと滑りながら方向転換をする。それを繰り返して戻って来た。


「ハァッ ハァッ ハァッ」


「三角形に走れてないな。丸く走ってるぞ」


「方向を変える時に滑るのだ」


「だよね。じゃあもう一回やろうか」


少し息が落ち着くのを待ってダッシュ再開。


「ちい兄様、よく見ててね」


ホープがダッシュして、方向転換する足に土の塊を出す。


ガッ ゴロンゴロンゴロン シュタッ


おお、素晴らしい受け身だ。しかし予定では土の塊で踏ん張って、素早く方向転換をさせるつもりだったのに躓かせてしまった。


「ホープ、悪い。予定と違うわ。戻って来て」


「今のは受け身を取らせる訓練ではないのか?」


「受け身は見事だった。でもやりたかったのと違うんだ」


マーギンは印に土の塊を出すので、それを蹴って方向転換をしてくれと説明する。


「分かった」


リトライでダッシュ。


ホープは印の所に足場が出来ると信じて方向転換をする。今度は上手く行って、ズザザザッとなることなく、素早く方向転換。次の印の所も成功し、かなり早くここへ戻って来た。


「足場があると方向転換が楽だな」


「そう。これはちい兄様が後方から前衛をサポートするための訓練なんだよ。実戦で上手く使えるようになるには訓練とお互いの信頼関係が必要になる。ちい兄様はホープがどう動くのか予測して足場を作り、ホープは足場が出ると信じて動く。ダッシュする時も足場があった方がいいしね」


「なるほどな、ダッシュ時に足が滑らないようにするために使うのか」


オルターネンは何に使えるのか理解した。


「そう。で、実戦だと足場が邪魔になることがあるから、素早く消す事も重要。じゃあ足場があるとどれだけ違うかやってみようか」


オルターネンとホープで立ち合いをさせる事に。ホープの支援はマーギンがやる。


「騎士の立ち合いではなくて、お互いが魔物だと思ってやってね」


ホープに耳打ちして、左右からの攻撃を主体にやらせてみる。


開始の合図も無しに、ホープをまずダッシュさせる。足場が出来ると信じて動けと言ってあるので、ホープはスターティングブロックを蹴って飛び出すような感じでダッシュした。


「うおっ」


予想を遥かに上回るダッシュで飛んで来たホープに慌てるオルターネン。ホープの重心が右に寄ったので足元に土の塊を出す。


ビュッ


オルターネンの目の前でホープが消えたように見える。


ブンッ


ガッ


ホープが死角から攻撃したというのに、それを受けるオルターネン。追撃が来ない間に後ろに飛び、今度は足場を蹴って左に移動してダッシュ斬り。


「クッ」


オルターネンはそれも受けるが防戦を強いられる展開だ。その後も右左と目の前から消えるように飛んでは攻撃していくホープ。右左と交互に移動していたのに慣れたオルターネンにホープは右右右とダッシュし、オルターネンの背後を取った。


「それまで。ホープの勝ちだね」


「クソッ」


最近、オルターネンからクソッという言葉をよく聞く。


「か、勝てた…」


オルターネンに勝てたことが信じられないホープ。


「ホープ、敵が複数だとお前は死亡だな」


足場があるとはいえ、急激な方向転換を繰り返した事により、ホープの足はダメージを受ける。マーギンに死亡だなと言われた理由が今わかった。


「あ、足に力が…」


ホープの膝がガクガクして、立っているのがやっとの事に気が付く。


マーギンはホープの足に治癒魔法を掛けてやる。


「足場を使って急激な方向転換をすると足にダメージが残る。ダッシュを繰り返しすることで筋肉で膝をカバー出来るようになっていくんだけど、今ので膝が震えるのはまだ鍛え方が足らないってことだ。前方向にダッシュする分には問題なさそうだけどな」


「そうか、今ずっとダッシュを繰り返しているのはその訓練か」


「そう。ちい兄様の意識を変えて貰うのに後にやるつもりだった訓練をしてもらったけど、ホープの身体の準備が完了してないからまだお預けだね」


「マーギン、俺にお前がやったことが出来るようになるのか?」


オルターネンはホープの動きに合わせて足場を出したり消したりするのが相当難しいと気付いたようだ。


「それはちい兄様次第。地味な訓練が後々生きて来るのを理解してくれないと無理だよ。サポート役は敵味方の動きをよく見て先を読む必要があるんだよ」


「お前はホープの動きを全て読んでいたのか?」


「読むというより予測だね。重心の動きとか足の動きを見ていると次になにをするのかわかるよ」


「そんなわずかな事で予測出来るのか?」


「そう。ちい兄様も剣の立ち合いとかで相手の予備動作とか見てるだろ?それと同じ」


「なるほどな」


「じゃ、まずは自由自在に塊を出せるようになること。それをどんどんスピードアップさせて行くのがちい兄様の訓練だね。ホープは足にダメージが残ってるから、カザフ達の剣の指導を頼む」


こうして、それぞれが次のステップに進むために、個別訓練に取り組んだのであった。



「よし、最初の一ヶ月が終わったので明日明後日は訓練休みにするから各自自由行動ね。柔軟だけはやっといてくれ」


「マーギン、明日明後日休みなら焼肉やろうぜ」


とカザフ達が言ってくる。


「ちい兄様、宿舎の中庭とかで焼肉やっても大丈夫かな?」


「多分問題ないとは思うが、大隊長に許可取った方がいいぞ」


と、パチンとウインクされた。俺が女なら失神ものだな。


マーギンはオルターネンから焼肉をするなら大隊長を誘えとの合図なんだろうなと理解したので自ら本部へ出向く。


本部の中に入るのを誰も止めなくなってるのもなんだかなぁ…


コンコン


「入れ」


あー、ちゃんといるわ。


「マーギン、入ります」


「マーギンか?どうした。問題発生か?」


「いえ、許可をもらいに来ました」


「なんの許可だ?」


「明日、宿舎の中庭で焼肉してもいいですかね?」


「焼肉だと?誰を呼ぶのだ?」


「大隊長?」


と、とぼけた顔で言ってみる。


「よし、許可しよう」


公私混同も甚だしいよな。まぁ、許可くれたからいいか。


戻って、焼肉の許可が取れた事を伝え、希望者を募ると全員参加するらしい。


「じゃ、明日の夜にやるから食べたい物は自分で準備すること」


皆がえーっと言うが、食材ぐらい買いに行け。


「お前らの分は買ってきてやるからな。どうせ食堂手伝うんだろ?」


「おうっ、肉頼むぜっ」



ー翌日ー


マーギンは商業組合へと向かい、窓口担当のミハエルと特許登録がどうなったか確認をした。


「マーギンさん、やはり、赤いガラスも新型ライトの魔道具も先に登録されていて、申請却下になりました」


「食い付いたか」


「はい」


「じゃあ、異議申し立てをするけど、ここで申請したら貴族街の商業組合で不受理になるかな?」


「おそらく」


「なら直接貴族街の商業組合に申請して来るわ。担当者が誰か分かる?」


「組合長に聞いて来ます」


と、聞きに言ってくれたら組合長と一緒に戻って来た。


「お前だけだと受付してくれないだろうから、一緒に行ってやる」


「大丈夫?下手したら巻き添えになるよ」


「もう十分巻き添えになっているっ」


そりゃそうか。


ということで、組合長のジムケインと一緒に貴族街の商業組合へ。



「私は庶民街の商業組合の組合長をしているジムケインだ。ナーゲル組合長にお会いしたい」


「約束はあるのか?」


窓口担当の人が、ジムケインに偉そうに約束は?と抜かす。


「急用なので、約束は取り付けていない」


「じゃ、約束を取り付けてから来い」


「クッ…」


なんだコイツ?


「お前の名前なに?」


ジムケインに対する態度があまりにも横柄なのでムカついたマーギン。


「はぁ?貴様はなんだ?」


「ん?俺はマーギン。お前は?」


「貴様、庶民のくせに何を偉そうな態度を取ってるのだっ」


「お前こそ何様だよ?俺等が納めた税金で食ってるんだろうが?名前ぐらい名乗れよ」


「貴様っ 庶民のくせに貴族に逆らうのかっ」


と、脅してくるのでマーギンの声のトーンが下がる。


「お前、俺の敵か?」


「何を言ってるんだ貴様っ」


「いいから答えろよ。お前は俺の敵かと聞いてるんだ」


マーギンは威圧を放って窓口の男に凄む。


カタカタ


震える窓口の男。


「マーギンっ。やめろっ。問題を起こすなっ」


ジムケインはまずいと思ったのか、マーギンを諌める。


「組合長の顔を立てて引いてやる。早く名前を言え」


マーギンは威圧を止めて窓口の男に名前を聞く。


「ガ、ガブリエルだ」


「そうか。ならガブリエル、よく聞けよ。こっちは重要な話をしに来ている。それをお前の判断で断ったという事でいいな?」


「な、何を…」


「後で問題になったら全責任がお前にのしかかる。それでもいいんだな?」


「全責任…」


「そう。これから何が起こってもお前の責任だ。こっちはそれでもいいぞ。責任の所在がはっきりしたからな」


「な、何の話をするつもりだっ」


「聞きたいなら聞かせてやろうか?聞かずに組合長に取り次げばお前の責任はなくなるぞ。聞けば巻き添えを食う事になるけど、どうしてもと言うなら今から話す。実はな…」


「待てっ」


マーギンの策にハマるガブリエル。


「何を待つんだ?」


「組合長に取り次ぐ」


「あっそ。ならお願いね。組合長に言っといて。来なかったらお前の責任にするからなと」


こうしてガブリエル君は慌てて奥に走って行ったのだった。今のやり取りで貴族街の商業組合は騒然としている。マーギンはやから扱いになっているのだ。


「お前、やっぱりロドリゲスと同類だな」


マーギンはジムケインに嫌な顔でそう言われたのだった。



なんて人聞きの悪い…


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