決闘

ー王の私室ー


王妃にゴニョゴニョと作戦を授かったカタリーナは翌日、王の私室に来ていた。


「なんじゃと?マーギンとタイベに行くじゃと?」


「うん。大隊長に鍛えてもらった結果は不合格だったけど、秋までにもっと鍛えるのと、シスコのお店の手伝いするのと、お父様とお母様の許可を貰えたら連れてってくれるんだって。ね、いいでしょ?」


「うぬぬぬ、ならぬ」


「えーーっ、どうしてよっ。マーギンもいるしローズもいるのにっ」


「それでも危険な事には変わりがないじゃろう。そもそもタイベに何をしに行く必要があるのじゃっ。タイベは他の領地と違って、違う民族もいるのじゃぞっ」


「えーっ、マーギンが何をしてるのか見に行くの」


「話を聞くだけで済むじゃろうが」


「見るのと聞くのは違うのよお父様」


「それでもじゃっ」


「もうっ!お父様のわからず屋っ。どうせ私は王になる可能性なんかないんだから、別になんかあったっていいじゃないっ」


パシッ


王は今の言葉に怒ってついビンタをしてしまった。


ぶたれた頬を押さえて、キッと王を睨むカタリーナ。


「す、すまぬ… しかしじゃなっ、お前が王になろうともならぬとも、何かあって良い訳がなかろうがっ」


「分かったわ。お父様」


「おぉ、分かってくれたか」


王は手をあげてしまったことを、しまったと思ったが、カタリーナは分かったと返事をしてホッとした。が…


「決闘よっ」


「は?」


「決闘って言ったのっ。私が勝ったらタイベ行きを認めてもらう。お父様が勝ったら私はタイベに行くのを諦める。どう、これでいいでしょっ」


「お、お前、ワシと決闘など…」


「もちろん真剣なんて使わないわ。木剣で一本勝負よっ」


「カタリーナよ、ワシは歳老いて来たとはいえ、一国の王であるのだぞ。剣の腕がないこともないぐらい知っておろう?それに比べてお前は剣など持った事もないではないか」


「2ヶ月間大隊長に鍛えてもらったもの。カザフには勝てなかったけど、足は結構速くなったの。いつも座っているお父様に負けないわっ」


王は困り果てる。可愛い末娘を木刀とはいえ勝つためには一本取らねばならない。寸止めするとしても当ててしまうかもしれない。もし怪我でもさせたら…


王はお前の教育のせいか?と大隊長をギヌロっと睨む。


そう、大隊長はこの茶番劇に付き合わされているのだ。


「スタームよ、これは貴様の差し金か?」


「い、いえ。滅相もございません」


「では誰が決闘などとカタリーナに教えた?」


「お父様、大隊長は関係ないわっ。勝負の審判をやってもらう為に連れてきたの」


カタリーナは語るに落ちた事に気付いていない。王はカタリーナが初めから決闘をするつもりだったのだと気付いた。


ギヌロっ


王は再度、大隊長を睨む。


「スタームよ、ワシが勝てば諦めさせるのじゃぞ。責任はお前にある」


王は決闘に負けてタイベにいけなくなって、泣きわめくカタリーナを想像して、責任を大隊長に擦り付けた。


「………はい」


大隊長はそう返事をするしかなかった。


外でやると人目を引くので、決闘はこのまま王の私室で行われる事になり、二人に木剣が渡される。


「カタリーナよ、負けてもワシを恨むでないぞ」


「お父様こそ、言葉に二言はないわね?」


「無論。では好きに掛かって来なさい」


王は凛とした姿で木剣を上段に構える。それに対して、カタリーナは木剣を腰に差したままだ。


「どうした?早く構えぬか」


そう王に言われたカタリーナはニッコリ微笑んでスタスタと王に近付く。


王はなぜ木剣を腰に差したまま近付いてくる?と不思議に思った。その瞬間。


「エイっ」


ごすっ


「ふおぉぉぉっ」


王は前のめりになって蹲る。


「勝者カタリーナ姫殿下…」


大隊長は言いたくもない勝利宣言を言ったのだった。


「きゃあーっ、やったやったぁーーっ。私の勝ちーーーっ」


飛び跳ねて喜ぶカタリーナ。ふおぉぉぉと唸りながら悶絶する王。


カタリーナはオルターネンがマーギンにやった攻撃を真似して王に食らわせたのだった。男同士なら加減をするだろうが、その痛さを知らないカタリーナは思いっきり木剣を跳ね上げたのだ。


口から泡を吹く王、飛んで喜ぶ姫。涙目になる大隊長。王の私室はカオスと化していた。



カタリーナが退出後、男性治癒師が呼ばれ、王の大事なところをさすさすしながら治癒していく。お互いとっても嫌そうだ。


「スタームよ、誰がこのような事を教えた?」


ギヌロっと大隊長を睨みながら犯人を探す王。


「マーギンであります」


あっさりとマーギンを売る大隊長。モグラ退治の帰り道、ホープが頑なに説明を拒んだので結局マーギンがカタリーナに軽く説明したのであった。


「で、カタリーナをタイベに行かせて問題ないのだな?誰が同行する?」


「マーギンの予定ではハンナリーという商人志望の少女を連れて行くようです」


「女3人にマーギンが一人か… まるでハーレム旅行じゃの」


「ハーレムなどと… マーギンは姫殿下のことを子供としてしか見て…」


ギヌロっ


「それでもじゃっ。他にも護衛を付けよっ」


「護衛でございますか…」


「特務隊を付けよ」


「えっ?」


「タイベに新たな魔物が出ておるのじゃろ?そのうち王都周辺にもその魔物が出んとも限らん。タイベで討伐に慣れてこい」


「どうしてそれを…」


大隊長はマーギンから聞いていたが、王にはまだ報告をあげていなかった。


「ボルティア家から報告が上がって来ておる。あの領地は先住民との軋轢を呼ぶ可能性があるので領軍を持っておらん。魔物対策に付いてハンター組合と協力体勢を組むことの許可を願い出て来おったわ」


「そ、そうでしたか」


「お前は知っておったな?」


「は、はい。マーギンが戻って来た際に状況を聞きました。王には別件と合わせてご報告を致そうと…」


「カタリーナのタイベ行きにワシが反対すると思って報告を遅らせたのか?」


はい、とも言えない大隊長。


「いえ、マーギンの出した条件の一つ、シスコとハンナリーの店を手伝うというのがございます」


「それは先程カタリーナより聞いた」


「その店の看板がかなり厄介なものでございまして」


「看板が?何が厄介なのじゃ?」


「見事過ぎるのです」


「どんな看板じゃ?」


「ピンク色の宝石のような羽を持つフクロウです。大きさは私より少し大きく、それはそれは立派なフクロウであります」


「そんなフクロウがいるのか?」


「正式にはナナイロフクロウというそうです。通常は木や土、または闇に擬態した色らしいのですが、そのフクロウは何色にも羽の色を変えられるそうで、マーギンは生きたまま捕獲し、宝石を見せてその色に変化させたようです」


「ほう… それを店に飾ると貴族から献上せよとか売れとか揉めるというわけか」


「はい。店の事はマーギンは関わらないようですが、必ずそういった貴族と揉めるでしょう」


「カタリーナをその為に利用しおったか」


「いえ、姫殿下をその店に関わらせたのは社会勉強の一環のようです。かなり厳しい説教もしておりましたので、自分で金を稼ぐという体験をさせるのだと思います」


「で、お前は何が言いたい?」


「姫殿下は庶民街に住居を構えられましたが、セキュリティ上の問題が残ります。一応お忍びということにしてはいても、敵対するものがいるとすればすでに情報を掴んでいることでしょう。住居に衛兵に扮した騎士を置けばお忍びの意味がなくなります。私の提案は住居を店舗に改装し、店舗の警備という名目で第一隊を配置出来ればと考えております」


「ふむ、それでピンクのフクロウが引き起こすであろう問題を未然に防ぐのも兼ねるのじゃな?」


「はい」


「では好きにせよ。タイベ行きは特務隊も付けるのじゃぞ」


「かしこまりました。あと明後日より騎士隊の訓練所で、マーギンが面倒を見ている子供、星の導き、特務隊をタイベ出発まで特訓いたします」


「特務隊はわかるが、ハンターと子供の訓練をなぜ騎士隊の訓練所で行う?」


「恐らく特別な訓練になります。他の目に触れないようにするのと、他の騎士達への刺激です」


「どのような訓練かわかるか?」


「いえ、ただマーギンは本気で訓練をすると思われます」


「分かった。好きにせよ」


「はっ」



ー翌日ー


「マーギンっ ねーっ、マーギンっ」


どんどんどんと朝っぱらからマーギンの家の扉が叩かれる。


「姫様、おはよ。中に入ってー」


トルクがカタリーナとローズを迎え入れる。


「朝っぱらからうるさいぞ」


「聞いてっ、聞いてっ。お父様もお母様もタイベに行って良いって許可くれたのっ」


ハイテンションでそれを伝えに来たカタリーナ。


「そりゃよかったな。なら明日からの訓練にお前も参加しろ」


「えっ?そんなにあっさりなの?えーーーっとか驚かないの?」


カタリーナはてっきり、王が許可しないからこんな条件を出したのだと思っていた。


「別に、王も王妃も許可出したんならしょうがない。その代わり、訓練は過酷だからな。覚悟をしとけよ」


「う、うん…」


「マーギン、私もその訓練に参加して良いのだろうか?」


ローズも訓練に参加したいと言い出した。


「えーっ」


嫌がるマーギン。


「なぜ私にはえーっと言うのだっ」


「ローズは殴りたくないんだよ」


「え?殴られる?私は?」


カタリーナには訓練に参加しろと言ったのにローズには嫌がったマーギン。その理由はローズを殴りたくないから。


「さっき覚悟をしとけと言ったろ?」


「私を殴るの?」


「殴られるのが嫌なら避けろ」


「ローズは?」


「殴りたくない」


「私は?」


「覚悟をしとけ」


「なっ、なっ、何よそれっ」


「いいか、お前は自分から望んで訓練に参加するんだ。返事はハイかイエスで答えろ」


「同じじゃない」


「お前が望んだことだ。俺は大隊長みたいに優しくないからな」


「ローズは?」


「お前に付き合わされるだけだからな。優しくするに決まってるだろ」


「ずるいっ。私にも優しくしてよっ」


「答えはNOだ。その代わりタイベに行くまでに耐えられたら、そこそこ強くなってると思うぞ。いざという時に自分の身を守る力を付けてやるんだ感謝しろよ」


「マーギン、私は自ら望んで訓練に参加するのだっ。優しくなどしていらん」


「泣くような事になっても?」


「誰が泣くかっ」


「分かった。ならローズも参加な。本当に覚悟をしておいてね。絶対に泣くと思うから」


「ふふん、私を甘くみるなよ」


どうやらローズもフラグを立てるのが好きになってきたようだ。


そしてマーギンは訓練の話を終え、朝飯食うか?と二人に聞いて、ふわふわパンケーキにバレットフラワーの蜜を掛けて出したのだった。


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