続、おっさんは話が長い
「何で避けるのよっ」
「理不尽回避だ」
土まみれになったカタリーナに洗浄魔法を掛けておく。
「姫様、お話は終わりましたか?そろそろお眠りになられませんと」
ローズが話が終わったと判断してテントの中から出てきた。ちなみにマーギンのテントである。
「話は終わったからもう寝てこい」
「マーギンは寝ないの?」
「俺のテントをお前に貸しているだろうが」
「一緒に寝ればいいのに」
「そんな事出来るか。それに見張りをせにゃならんだろうが」
「じゃあ、一緒にタイベに行ったらマーギンはいつ寝るの?」
あっ…
これは考えものだな。本当は見張りは別にいらない。が、寝るとなるとローズとカタリーナがセット、俺とハンナリーになるのか?別々のテントで寝るとカタリーナを守るのはローズだけ。真面目なローズは熟睡出来まい。一緒のテントなら熟睡出来るだろうが、今度は俺が寝れないかもしれない。隣でローズの寝息とか…
いや、それよりカタリーナと同じテントで寝るのがまずい。王妃の圧が深海より高くなってしまう。マーギンは圧に押しつぶされてぷちゃっとなる姿を想像する。うーむ、これはテントの改良をせねばならんな。
「お前が条件をクリアしたら考えるから早く寝ろ」
ローズとカタリーナをテントに入らせてマーギンはその前で見張りを兼ねてウンウンと考える。
そこに大隊長がやって来た。
「姫様と何を話していた?」
「秋のタイベ行きの件ですよ」
「不合格ではなかったのか?」
「まぁ、自分の中で決めていた条件はクリアしましたからね。もう一度カザフと競争して勝てたら連れて行きますよ。大隊長頑張って下さいね」
「きっきっきっ貴様という奴はっ」
大隊長激おこ。
「それより、魔物の進化というか強さが想定していたより進みだしてます」
マーギンはタイベでの出来事を話す。
「このモグラもその一端か?」
「おそらく。今までいなかった魔物が出たと言うことはそうなのでしょうね。他国も似たような事になっているかもしれません」
「そうかもしれんな」
「戦争のきっかけになりますかね?」
「まだなんとも言えん」
「いっその事もっと出れば戦争している暇がなくなるんですけどね」
「それもまずいではないか」
と、大隊長は渋い顔をする。
「今回、北の領地で雪熊と白蛇が出たでしょ?」
「あぁ」
「で、タイベでは瘴気を持った肉を持つ魔物がいた。でもここは大モグラ程度なんですよ」
「何が言いたい?」
「地理的に雪国と南国なんですよね。気候に特徴がある地域の方が進み具合が早いのかなぁとか」
「なるほど…」
「北の領地に近い国がノウブシルクでしたっけ?」
「そうだ」
「その国より北に国ってあります?」
「小国はあるかもしれんが、大国はノウブシルクが最北だな」
「ノウブシルクの魔物状況とか探れませんかね?かなり強い魔物が増えてたら、地理的な可能性が高くなります。南西はゴルドバーンですよね?タイベと山を挟んで反対側でしたっけ?」
「そうだな」
「ならばおそらくタイベと似た感じなのかもしれません。年に一度のペースで交易船が来ると聞いてますので、商人から情報を探ってもらえたらと思います。ノウブシルクとは交易あります?」
「北西の辺境伯領の商人が取引していると思うぞ。隣接するノウブシルクの領と時折小競り合いが発生しているようだが、商人は商いをしているようだな」
「辺境伯領は領軍がいるんですよね。王都軍が出る事はあります?」
「いや、応援要請が来たことはなかったはずだ」
「あと、ノウブシルクから南下した大陸の中央というんですかね?そこには何があります?」
「何もないという話しか聞いた事がないな。誰か住んでいるものがいるかもしれんが、国はなかったはずだ」
ローズも何もないと言ってたしな。やはりアリストリアは痕跡も残ってないんだな。そこまで行って調査して戻ってくるのは半年くらい掛かるのかな?何もなければそんなに掛からんとは思うけど。ハンナリーとカタリーナはシスコに譲渡したし、ガキ共をどうするかな。星の導きと特務隊パーティに預けるとしたら、もっと戦力になるようにしてやらんとなぁ。
「話を聞いてるのかっ」
「あっ、あぁ、すいません」
「で、姫様には何の条件を出した?」
「王様と王妃様の許可とシスコとハンナリーがやる店の手伝いです」
「働かせるのか?」
「そういう経験があったほうがいいでしょ」
「まぁそうかもしれんな」
「姫様は接客するの向いてると思いますよ。人を褒めるの上手いし」
「騎士達も姫様の「頑張ってーっ」でやる気を出しおるからな。そうなのかもしれん」
その後、夜が明けるまで大隊長と剣と酒の話をして良く笑いあったのであった。
翌朝、ロッカ達に大モグラだった物を村長に見せて討伐完了の確認をして貰う。
「さ、帰るか」
帰りは走らなくても歩きで十分。マーギンはサリドンにファイヤボールとファイヤバレットを実演して見せながら帰る。バネッサとカザフは競争して先に消えていく。
「タジキ、タイベでロッカに剣を教えてもらってただろ?どんな感じだ?」
「うん、ロッカ姉が言うには、こうぐっとしてダーッてやるといいんだって。俺のはぐっとしてないからダメらしい」
うん、想定通りの教え方だ。自らの感覚を理論的に教えるのは難しいからな。
「ホープ」
「なんだっ」
「お前さぁ、タジキに剣の指導をしてやってくんない?」
「は?なぜ俺が子供に剣を教えねばいけないのだっ。貴様は本当に俺を剣術道場をやればいいと馬鹿にしているのかっ」
「いや、馬鹿にしている訳じゃない。お前の剣は基本なんだよ。剣筋が綺麗だと言っただろ?」
「それは読みやすいと馬鹿にしたじゃないかっ」
「あのなぁ、馬鹿にしてないって言ってるだろ。馬鹿にしている奴にタジキの指導を頼むか。基本をしっかり学んでから自分に合ったスタイルを作っていくのが一番いいんだ。それか基本を極めたらそれが一番強くなるかもしれない」
マーギンは感謝の一万回をさも自分の言葉のように言う。
「なに?」
「剣も体術も魔法も同じだ。基本を知らずに変則的な技を身に付けた奴はそこそこ強い。基本しか知らない奴はそれに負けるからな」
「意味がわからんぞ?」
「基本というのは剣術の核みたいな物だ。そこに色々な剣技が組み込まれていく。魔物は身体の大きさで核、いわゆる魔結晶の大きさが変わる。で、強さは色に出る」
「ん?色だと?」
「そう、例えばこれは魔狼の核なんだけど、色が違うだろ?」
と、マーギンは過去の魔結晶と今の魔結晶をホープに見せる。
「全然違う色だな…」
「そう。これを剣術の核だとすると、大きさは基本だ。魔物だと身体の大きさで変わる。で、色の濃さは剣だと技術で魔物だと強さになる。剣術とかも同じでな、基本を育てないと強くなるのにも限界が出てくる。同じ色の魔結晶持ちならデカい方が強い。小さくて色の濃い魔結晶持ちの魔物より、色が多少薄くても大きな魔結晶持ちの魔物の方が強い。お前の核は大きいと思うが色は薄いって感じだな」
「意味がいまいち…」
「つまりお前は強くなれる土台を持っているということだ。基礎をみっちりやって身に付けて来た努力の成果だな」
「努力の成果…」
「お前と比べて星の導き達は特殊だ。基礎を学ばなくても戦いの中でそれを上回る物を身に付けて強くなった。命を掛けて戦ってきた対価だ。悪い言い方をすれば賭けに勝ち続けた奴らだな。だから得意分野が尖って突き抜けている」
「賭け?」
「そう。庶民が賭ける物は自らの命しかない。負けた奴は死んでる。お前らもその賭けをする事になるが、身分のお陰で手札をたくさん持っている。賭けには有利な立場だと言えるな」
「有利だと?」
「そう。それが当たり前の環境で育ったから気付かない。だから有利な手札を持っていてもぬるい勝負をして負ける。今のお前がそれだ」
「俺には信念が…」
「それは認める。やらされた稽古だけではあそこまでにはならん。だが、お前は外の世界を知らない。小さな世界で強くなったと満足してしまったんだ。お前の信念が何かは知らんが、もう達成出来ると皮算用したんだろうな」
ホープはマーギンの言う小さな世界とは騎士隊のことだと理解した。
「お前は一体…」
「で、恐らくこれからのお前は自分を見失う。オルターネン様は自分というものを確立している人だ。これから多くの実戦を経て手の届かない存在になる。サリドンには俺が魔法を教えるから、今は下に見ているようだがまるで敵わなくなる。そこに加えて星の導き達の尖った能力に付いていけない自分を毎日体感する事になる」
「ウソだ…」
「ウソだといいな。俺もそんな有事みたいな未来は来て欲しくないとは思っている。平時ならお前は小さな世界でプライドを保ったまま幸せに暮らせたのだろうな」
マーギンのホープに対する言葉は辛辣だった。
「お前、人に物を教えた事ないだろ?」
それに答えないホープ。
「人に物を教えるってのは存外難しい。特に人に教えてもらわずに力を身に付けたやつにはな。だが、お前は剣術を習っただろ?そういう奴の方が教え方を知ってるし、教えられてわからなかった事の原因も自分で掴んでいるはずだ。人に教える事で自分も学ぶことや、こうだったなと思い返す事もある。お前は自分を見失ったまま次のステップに進むより、人に教える事によって自分を振り返る方がいいんじゃないか?」
「ホープ、どうだ?」
オルターネンがマーギンの言葉を聞いていたので、答えようとしないホープに声を掛ける。
「自分は特務隊に必要ないのでしょうか…」
「俺は必要ですかと聞かれたら、いらんと答える」
「…………」
「だが、自分を必要としろと言ってくるなら考える」
「えっ?」
「お前はどっちだ?」
ホープはギリッと下唇を噛む。
「………すぐに活躍してみせますよ」
「上等だ。タジキに剣を教えてやれ。マーギン、今後特務隊は星の導き達と行動を共にするが、ガキ共を同行させていいか」
「あぁ、頼むよちい隊長」
ごすっ
オルターネンは剣の持ち手を下げ、鞘の先っちょを跳ね上げてマーギンの大事な所を攻撃したのだった。
「マーギン、置いて行くぞ」
その場で悶絶して丸まるマーギン。
「どこが痛いの?」
と、カタリーナに声を掛けられるのをしっしっと追い払っていたのだった。
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