だから違うのだ
「なぁ、魚はないん?」
「もう結構食っただろ?」
「そやけど食べたいねん」
魚をねだるハンナリーにこれでも焼いておけとイカを渡す。
「それ持ってシスコの所に行け。ババァに話した事をちゃんと伝えろ。王都の店はお前だけでやるんじゃないからな」
「分かった。化粧品の売り先確保したことを伝えてくるわ」
なんかスキップして行ったけど、褒めてもらえるとでも思っているのだろうか?
そして、ほんでな、ほんでなと嬉しそうにシスコに話すハンナリー。シスコは始めは笑顔だったがだんだん笑顔の質が変わっていっているように見える。
「でな、クズ真珠を安うで買えるようにしたって言うたら凄いなぁって…」
ビタンッ
うわっ、痛そう…
化粧品の中身とそれを安価で仕入れられる事を話したハンナリーはイカビンタを食らった。しかも網の上に乗せたやつで。想定していたよりひでぇ…
「なっ、何すんねんなっ」
いきなりイカビンタを食らったハンナリーが涙目になりながらシスコに叫ぶ。
それを石化するような視線で見るシスコ。あいつに闇属性があったらハンナリーは招き猫みたいになっていただろう。
そして無言でハンナリーの首根っこを掴んでこっちに来る。ヤバいっ
「マーギン…」
また石化されそうなマーギン。
「俺は無実だ。俺がいない時に喋りやがったんだよっ」
「ハンナを連れて行ったのはあなたよね」
「連れて行ってない。付いて来たんだ」
「マーギン」
「それ以上俺を責めるなら全てノータッチにするからなっ」
マーギンは初手で切り札を使う。魔カイコをこれからどうして増やして育てるかはマーギンしか知らないのだ。
しばし時が止まり、シスコの頭の中でカチカチチーンと計算が終わったようだ。
「ハンナリー、王都に戻ったら私の部屋に泊まりなさい」
「え?」
「自由行動禁止」
「えっ?」
「何か文句あるのかしら?私が商売というものをきっちり教えてあげる」
「う、うち大丈夫やねんけど…」
「次はイカじゃすまないわよ」
ビクッ
「は、はひ」
そしてまた首根っこを掴まれて元の場所に連れて行かれたのであった。口は災いの元とはこのことだなと、どの口が言うマーギン。
もう、ここを離れよう。何に巻き込まれるか分かったもんじゃない。
「バネッサ、モグラが他にいないか探しにいくぞ」
「次はうちがやってやんからな」
「まだ居たらな」
「マーギン、俺達も連れてってくれよ。これだけ月明かりがあるなら見えるから」
カザフ達も付いて来たいようだから連れていく。こいつらは気配を消すのも上手いからいいか。
5人で気配を消して捜索開始。
「ほう…」
大隊長はガキ共に感心する。
「大隊長、何を感心されたのですか?」
「ホープ、お前はわからんか?」
「何がでしょう?」
「サリドン、お前はわかるか?」
「足音がしませんね。私も結構自信があったのですが…」
「足音だけではない。気配の消し方が抜群に上手い。あの歳であんな事が出来るのか」
マーギンが本気で気配を消すと目の前に居ても存在が虚ろに感じる。恐らく隠密より気配を消す能力は上だろう。バネッサはネコ科の獣が気配や足音を消すのに似ている。が、あのガキ共はなんだろうか?例えるなら影か?それとも植物だろうか?気配を消すというよりその場に同化するような感じに思える。
「オルターネン、お前はあそこまで気配を消せるか?」
「いえ、無理ですね。あの子供達もバネッサも生きて行くのに必要な能力として身に付けたのでしょうね。大隊長も気配を消すのが上手いですよね」
「そうだな。俺は騎士になる前にハンターもどきの事をしていたからな。その時に隠れないと死ぬという経験を何度もした。お前らはそういう経験がないだろ?」
「ありません」
「騎士には不要な能力ではあるが、特務隊には必要な能力だ。それに気配絶ちを覚えると対人戦でも役に立つ」
「そうなのですか?」
ホープはそんなのが必要なのか?と訝しがる。
「まぁ、体感せぬとわからんか。ロッカ、ホープを魔物と見立てて見つからぬように倒す事は可能か?」
「魔物に見つかる前に攻撃をする時はそのようにしております」
「ではホープにそれをやってくれ。体感したほうが分かりやすい」
二人は剣を持たずに、構えから攻撃までの動作をすることに。
「では参ります」
ロッカはそう言った後に気配を消してホープに斬り付けるように動いた。
「うっ…」
ロッカがスッと動いてホープの懐に入った所で終わり。
「どうだホープ」
「いつ動いたのかわかりませんでした…」
「そういう事だ。星の導き達は気配を消すのが上手い。バネッサ、ロッカ、シスコの順番だな。あと要注意なのはアイリスだ」
「アイリスって、あの姫様と一緒に口から肉が出そうになっている小娘ですか?」
「そうだ。近くにいてもあいつは問題ないと空気のように思うだろ?」
「は、はい」
「あいつが一番残虐だ。第一隊隊長だった奴を焼き殺そうとしたからな」
「その話本当なんですか?」
「信じられんのは無理もない。だがあいつはマーギンが娘のように過保護にしている奴だからな。他に何が使えるか分からんぞ。お前も舐めて偉そうにしていたら骨も残らんかもな」
と、大隊長が笑ったので、モグラ討伐で無様な姿を見せたのでからかわれたのだと理解した。まったくフラグを立てるのが好きで仕方がないらしい。
ー大モグラを探すマーギン達ー
「マーギン、あれか?」
カザフが指を差す。
「おっ、そうだ。よく見つけたな」
「へへっ、ネズミを見つけるのと変わんねぇぜ」
「もしかしたらさっき大隊長が踏み潰した奴の穴かもしれんけどな。一応ミミズ置いとくか」
「なら俺が置いて来るぜっ」
と、カザフがタッと走って行く。
そしてミミズをポイポイと穴の周り置くといきなり出てきた。ヤバい、モグラはカザフが子供だと思っていきなり餌と認識したかもしれん。
「よっ」
カザフはマーギンがやってみせた踵で蹴り上げる手法をいきなりやった。
「ターッ」
ブン
残念、空振りだ。ナイフだともっと踏み込まないと無理だから仕方がない。
「パラライズっ」
落ちて穴に逃げたモグラがもう一度顔を出した時にマーギンはパラライズを掛けた。
「カザフ、上出来だ。ナイフじゃなしに短剣だったら殺れてたな」
「くっそー、届いたと思ったのによっ」
「しかし、いきなりだったのによく反応出来たな」
「あぁ、穴から音がしていたからすぐにわかったぜ」
「音?」
「土のカラって音がすんだろ?」
「バネッサ、お前モグラに襲われた時に音が聞こえたか?」
「いや、聞こえてねぇ。聞こうと思って集中してりゃ聞こえるかもしんねぇけど」
確かに。俺もモグラが土の中を移動する音なんか聞いた事がない。もしかしてモスキート音みたいなものだろうか?若い耳にしか聞こえない音…
やっぱり老化してんだろうか俺…
不老の事を呪いと呼んでいるくせに、自分が老けたのかと思うと複雑になるマーギンの心境。
「バネッサ、カザフと一緒にみんなを呼んで来てくれ。あのモグラ退治をロッカにやってもらう」
「うちがやるんじゃねーのかよ」
「お前がやると凄すぎて他の奴らの参考にならん」
「そっ、そんなら仕方がねーな」
チョロッサ発動。実に扱いやすくてよい。
そしてカザフと競争しながら皆を呼びに行ったのであった。
「ロド、恐らくロッカの倒し方がオーソドックスになる。これを参考にしてくれ」
ロッカもマーギンが踵で蹴り上げたのを見ていたから同じ事が出来るはず。
ロッカが近くまで行ったのでパラライズ解除。下手したら逃げるかもと思っていたがモグラはパラライズを食らった事に対して逆上したようだ。いきなり攻撃モードでロッカの後ろから飛び出した。
「ふんっ」
ぷちゃっ
あ…
大モグラはロッカの踵蹴り上げでぷちゃっとなって絶命した。見てはいけない物を空中で見てしまった。月明かり程度なのでカタリーナにはあまり見えていないのが幸いだ。
「す、すまん。皆にも分かりやすいように高く蹴ろうとしただけなのだ…」
「マーギン、蹴って破裂させる事が出来る奴はそうそうおらんぞ。誰の参考にするつもりなんだ?」
ロドの言うことはもっともだ。
「マッスルパワーかな…」
「あいつらは牢屋の中でまだ壊れてるわっ」
…
……
………
ダイジョウブダイジョウブ…
次に餌になってもらう時にはこれで治療しよう。
マーギンは牢屋を生け簀のように想像したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます