そんな倒し方は望んではいない

なんとか夕方に到着したマーギン達。カタリーナもローズに尻を突っつかれていたとはいえ、よく走り続けたな。もしかしたら長距離向きなのかもしれない。


「ロド、大モグラの討伐は本来待ちの作戦になるんだけど、ロッカ達が誘き寄せる方法を見付けてくれてな、今から大モグラの好物である大ミミズを探す。ここの依頼主は村長か?」


「そうだ」 


「ロッカ、この依頼は星の導きが受けたから村長に討伐に来たことを伝えて状況を聞いて来てくれ。俺等はミミズを探しておく」


「わかった」


マーギンは特務隊とロドリゲスに大ミミズを一緒に探させる。


やや湿り気のある土で腐葉土とかが多そうな場所を皆で掘り掘り。


「居たわっ」


初めに見付けたのはカタリーナ。手には大きなミミズがうねうねしている。姫様なのにこういうのは平気のようだ。


「ねっ、ローズ。ほら、大きいわよ。ローズも持ってみてっ」


ナチュラルに大ミミズハラスメントをするカタリーナ。ローズはダメなようでピーマンを見るより嫌そうだ。それに今日は鎧も着ていないので身を守る安心感もない。


「すっ、凄いですね…」


顔を背けるローズ。うむ、この表情は何かそそる物があるから止めずに見ておこう。


ほらっ、ほらっとうねうねする大ミミズをローズに近付けるカタリーナ。はしゃぐ姫様に凄いですねと褒めなければいけない感情と生理的にダメな感情が入り混じるローズの表情。このまま見ているとクッコロさんになるだろうか?いや、それは鎧を着ている時にやって欲しいな。


その様子をニヤニヤした顔で見ているマーギンに気付いたローズ。


「お前は何を笑っているのだっ」


今の感情と表情を見抜かれたと気付いたローズは真っ赤になってマーギンにポカポカする。うむ、幸せである。


ドスッ


うぐっ


尻にピンポイントで剣の鞘の先っちょが刺さったマーギン。


「おっと、すまん。つい大ミミズ探しに夢中になっててな」


近くに居たオルターネンがしゃがんだまま後ろ向きに下がってきたので、腰に差した剣の鞘の先がマーギンを仕留めたのだ。そこは鍛えられない場所。マーギンが悶絶したのは言うまでもない。



マーギンが悶絶から復帰出来ないでいると、ロッカ達が村長を連れてやって来た。


「こんなに大勢で来て下さったのですか」


村長はぞろぞろといる人達を見て驚く。鎧を着た人がいてもまだ騎士とは気付いていないようだ。


「王都では珍しい魔物だから見物も兼ねて来ただけだ。報酬を上乗せしろとは言わんよ」


と、ロドリゲスが答える。


「い、いやそのような意味では… 村に出た魔物はかなり恐ろしいものなのでしょうか… 前に来てくれたハンターさんたちも討伐出来なかったようですし」


「対策さえすればそうでもないらしい。そうだろマーギン?」


「う、うん…」


まだ悶絶中のマーギン。


「あ、あの… そちらの鎧を着た方々は…」


「私達は王国の騎士隊の者だ。これから魔物が増えた時の為に、魔物から国民を守る特務隊が創設された。今はまだ魔物に慣れる為の期間でな、ハンターと共に勉強をさせてもらっているところだ。大勢で押し掛けてすまんな」


オルターネンは偉そうにするわけでもなく、高圧的な態度を取る訳でもなく凛々しい笑顔で村長にそう自己紹介をした。妹をニヤニヤとして眺めていたマーギンの尻に剣の鞘を刺した人とは思えない。


まだ悶絶しているマーギンは出番を失い、ロッカ達が大モグラは必ず討伐するからと村長を安心させていたのであった。



ー穴を見付けた大モグラ討伐隊ー


「出たらうちがやって見せればいいんだな?」


大モグラセンサーを尻に持つ女バネッサが自信満々にやってやんぜと言う。


「いや、まずは特務隊の方々にやってもらおう。違った倒し方があるかもしれん」


と、マーギンが答える。


魔物討伐の正解は一つではないからな。様々なパターンがあった方がロドリゲスも報告がまとめやすいだろう。


そして大ミミズを穴のそばに置いて待つ。


「おっ、来たぞ。ちい隊… オルターネン様、誰から行きますか?」


マーギンは治癒魔法でせっかく治した尻をまたやられては敵わんと、言葉に気を付けた。


「ホープ、お前が行け」


「任せておいて下さい。あっと言う間に討伐して見せますよ」


フラグを立てるのが好きなホープ。それをだんだんと憎めなくなるマーギン。


カチャカチャ


鎧を纏ったまま近づく。


サッ


「あっ…」


今日は月明かりもあるので、大モグラは皆にも視認出来ている。まだまだ遠いのに鎧の音で逃げられてしまった。


「本当にあっと言う間だったな」


「くそっ」


即座にフラグを回収したホープの出番は終わり。バネッサは声を出さずに笑い転げている。器用な事が出来るんだなこいつ。


次に挑戦するサリドンは鎧を脱ぎ、そーっと近付く。なかなかの気配の消し方だ。


そして穴の近くまで行くと、大モグラとサリドンのバトルが始まった。


「おい、大丈夫か?サリドンが攻撃を食らってるぞ」


ロドリゲスがその様子を見てマーギンに聞く。


「今は尻を叩いてサリドンの反応を見てる段階。大モグラがこれなら勝てると判断されたら尻に爪攻撃を受け、食らったら獲物と認識されるんだ」


「ほう、かなりすばしっこいな」


「バネッサを翻弄したぐらいだからね。習性に気付けないと討伐は難しいぞ」


何度も尻を叩かれてはモグラを追うサリドン。そして


ズシャッ


「グッ」


尻に爪攻撃を食らう。これでサリドンは獲物と認識されたのだ。


オルターネンが助太刀に入ろうとしたのを大隊長が止める。


「大隊長?」


「俺が行こう」


鎧を脱いだ大隊長はスススッと音もなくやられているサリドンの元へ。


へぇ、やっぱり大隊長は凄いな。あの身体で音もなく移動出来るんだな。イメージではドドっドドっと熊が走る様な感じかと思っていたわ。


そしてやられているサリドンを持ち上げて攻撃を躱す。


ズボっ


その刹那、大隊長の足が地面に埋まり大モグラに齧られる。


「ふんっ」


プチ


あっ…


大隊長は地面の上から土ごと大モグラを踏み潰した。おそらくわざと噛みつかせて大モグラの位置を把握したのだろう。


サリドンを抱えたままこちらに戻ってくる大隊長。


「うむ、さほど強敵というわけでもないのだな」


いや、あんな攻撃が出来るやつどれぐらいいるんだよ?


サリドンの尻を水で洗い流して触りながら治癒。全然楽しくない。いや、バネッサの時も楽しんでいた訳ではないのだが…


「大隊長、足を治癒しますよ」


「問題ない」


「いや、バイキンとか入ったら化膿しますって」


「もう大丈夫だ」


念の為と言ってマーギンが傷口をみると血が止まっているどころか、もう治り始めている。野生の回復力って凄いな。毛むくじゃらだし…


化膿もしなさそうなのでズボンの裾を下ろして熊足をしまう。


そして皆で大モグラがどうなったか見に行くことに。地面を掘って確認すると大モグラは見てはいけない状態になっていたのだった。


「ロド、参考になった?」


「なるかっ」  


でしょうね。


取り敢えず見つけられた穴はここだけなので飯にすることに。


「大モグラがまだいるかもしれないから飯食ったら穴を探そうか」


「うむ、タイベでは3匹いたからな。まだ居てもおかしくはない」


次のが居たらバネッサにやってもらうのが一番いいんだろうけど、バネッサタイプの奴少ないからな。ロッカにやってもらうのが他の奴の参考になるかもしれん。


大隊長たっての希望で晩飯は焼き肉。俺はもういいかな… 旅の間はずっとこんな飯だったし。


皆に牛、タイベの豚、鶏の王道肉と野菜類を出して勝手に食べてもらう。


「マーギン、花咲きカットってやつを教えてくれよ」


「そうだな。じゃ、それをやってみるか」


まず縦に5ミリ幅くらいで切り込みを入れ、ひっくり返して、同じ幅で斜めに切り込みを入れる。


「ほら、こう切ると肉がこんな風になる」


マーギンは花咲きカットをした肉をにょいんと伸ばしてタジキに見せる。


「すっげぇ」


「慣れたら簡単だ。切り込みが浅いと上手く伸びないし、やり過ぎると肉が切れてしまう。今日は人が多いから失敗してもみんな食ってくれるから思い切ってやれ」


「うん!」 


タジキはあっとか言いながら練習していく。すぐに出来るようになるだろ。


マーギンはもう肉はいいかな、とトマトを刻んで卵と混ぜ、バターを溶かしたフライパンでよっほっとな。食パンを薄切りにしてマヨ塗ってトマトエッグを挟んだ。


「いただきまー… 」


ローズが肉を食ってない。まだ胃が痛いのかもしれん。カタリーナに大ミミズハラスメントも食らったしな。


「ローズ、焼き肉は無理そうか?」


「あ、いや、すまない。ちょっと食欲がな…」


「これ食べる?バターとマヨ使ってるから重いかもしれないけど。それか甘いパンプリンでも作ってやろうか?」


「パープリン?」


そんな頭の悪そうな食い物はない。


「このサンドイッチ食べられるなら食べて」


取り敢えずトマトエッグサンドを渡しておいて、パンプリンを作る。卵1牛乳3で混ぜるだけ。食パンを一口サイズに切ってスキレットに入れてプリン液投入。フレンチトーストとほとんど変わらないなこれ。


蓋をしてゆっくりと熱を入れて、完成したら砂糖をかけて炙る。キャラメリゼというやつだ。


「はい、どうぞ。熱いから気を付けてね」


「甘く香ばしい良い匂いだな。これなら食べられそうだ」


「そりゃよかった」


でも、トマトエッグサンドも食べ終わってるよね?とは言わない。素直に食えた事を喜んでおこう。トマトエッグサンドをもう一度作るのも面倒だな。肉はもういいかと思ってたけど、焼き肉の匂いがしてくると食べたくなる。


マーギンは自分用にタイベの豚バラを串に刺して焼いていく。シンプルに塩のみだ。


「うむ、旨い」


「マーギン、その串肉は豚肉か?」


「そう。タイベの豚肉。王都の豚肉より柔らかいし、脂も甘くて旨いんだよ」


そう言うとジーーっと見るので、一串渡してみる。


「食べれそう?」


「うむ、先程のパープリンを食べたら食欲が湧いてきた」


そしてブタバラ串を美味しそうに食べるローズをニコニコと眺めるマーギンなのであった。

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