王都に戻るまで その1
タイベ→王都の船旅は短く済み、星の導き達の船酔いもいく分かマシだったようだ。
「ライオネルで泊まってから戻るか?」
「そうしてくれ…」
それでもまだ身体がフワフワして気持ち悪そうな星の導き達とガキ共を宿屋で待機をさせる。ハンナリーは一度家に帰り、マーギンはライオネルのハンター組合に向かった。洗脳のような事をした副組合長のトッテムの事が気になっていたのだ。
組合に入るなり、受付嬢が「来たっ!」と大声を出して中に消えていった。もしかしてまだパラライズが解けてないのだろうか?
「マーギンさん、初めまして」
そうニッコリと微笑んで奥から出て来て挨拶したのはトッテム。マーギンさん初めましてだと?違和感のある挨拶だ。
「トッテム、組合長はどうなってる?」
「組合長は私です」
え?
「お前、組合長になったのか?」
「前から組合長ですよ。あ、お渡し出来ていなかった依頼達成報酬がこちらです。お収め下さい」
「え、あぁ、あれ達成になったんだね」
「そうですよ。達成金を受け取らずに出発されるなんて意外と慌てん坊さんですね」
ニコニコと笑いながら達成金を渡すトッテム。
「あ、うん、ありがとうね…」
うん、もう気にしないでおこう。受付嬢が何かを言いたそうだが、聞くと良くない気がする。
マーギンは達成金を受け取り、そそくさと組合を後にしたのだった。
「組合長、マーギンさんはもう怒って無かったですね」
「ん?マーギンさんは来てないぞ」
「え?」
「さ、今受けている新規依頼の内部ランク分けを急ぎなさい。これはハンターの命に関わる重要な仕事なんだからな」
「組合長…?」
「大丈夫、大丈夫。マーギンさんは来ていないんだから… トッテムはツヨイコナンダカラ ダイジョウブ ダイジョウブ… ん?何をぼさっと見ている。早く手分けしてやりなさい」
「は、はひ…」
マーギンは一度宿に戻り、ガキ共を連れて地引網漁師の所へ。
「マーギン、こんな時期に来るとはなんかあったのか?」
「タイベに行ってた帰りなんだよ」
ちょうど
「そうか、お前らも苦労してきたんだな」
孤児がどんな生活をしているか知っている頭は少し目頭が熱くなったようだ。年食うとやっぱり涙脆くなるんだな。
「マーギンが居たから死なずにすんだぜっ。マーギン、ちゃんと強くなって恩返ししてやっからな」
「恩返しとか不要だ。それよりちゃんと強くなって死なないようにしてくれ」
「えーっ、もう腹減って死にそうだぜ」
「うわはっはっは。なかなか面白いガキ共じゃな。どれ、ハンターになるなら食うものは自分で捕れ。次の網を引いて捕った魚を食えばいい」
「えっ?好きなの選んでいいのか?」
「食えるだけ好きなものを選べ」
「やったあっ!マーギン、ここで魚食おうぜっ」
今日も元気いっぱいのガキ共はゴツい獣人の漁師に混じって、引けぇー引けぇーっと網を引いていたのだった。
ー翌日トナーレー
「あれ?王都の門番さん?」
「ハッ、マーギン殿。お久しぶりです」
オルターネンに首を刎ねられてしまうかもしれなかった門番がトナーレのテント設営広場の入口衛兵として立っていた。
「異動になったの?」
「正式異動ではありませんが、しばらくトナーレで衛兵業務をすることになると思われます」
そして行く時にはなかった建物が広場の真ん中に出来ている。
「あれなに?」
「広場の詰所です。広場で問題が起こらないように衛兵が夜間待機する場所であります」
あー、交番みたいなものか。早速手を打ってくれたんだな。
「門番さん達みたいな衛兵が居てくれるなら、トナーレも安全だね」
「ハッ、ありがとうございますっ」
また後でねと顔見知りの衛兵に挨拶をして、毎回来るソーセージとミードの旨い店に。
またもやノーマルソーセージと血のソーセージをどっちゃり頼む。
「おう、お前らまた来てくれたのか。山菜はもうないぞ」
一気に大量の注文をしたから大将自ら大皿を運んで来てくれた。それに行くときに山菜のみ炒め大盛りを頼んだから覚えててくれたらしい。
「ソーセージがメインだから大丈夫。ここのソーセージって仕入れてんの?」
「ばっかやろう、自作に決まってんだろうが」
ほー、
「ならさぁ、俺の持ってる肉でソーセージ作ってくんない?今でも十分旨いんだけどさ、俺の持ってる肉で作ったらもっと旨いと思うんだよねぇ」
「こう言っちゃなんだが、これでもソーセージに使うには上等な肉を使ってんだぞ」
「好みの問題もあると思うんだけど、俺が持ってる肉は脂身とか甘くて旨い肉なんだよ。これで作ったらもっと旨くなるだろうなと思ってたんだよな。ベーコンとハムは自分で作るけどソーセージはケーシングがないと無理だろ?」
「肉を見せてくれ」
「はいよ」
と、タイベの豚肉を見せる。
「これ、ちょっと分けて貰っていいか?今日の代金はまけてやるからよ」
「別にまけてくれなくていいよ。じゃ、バラとロースでいいかな?」
と、1キロサイズの塊を二つ渡した。
「ちょっと味見してくるわ」
と、肉を持って厨房に戻っていった。そしてしばらくしてまたこっちのテーブルに。
「あの肉どれぐらい持ってる?」
「纒めたら2頭分くらいかな?」
「値段はどれくらいだ?」
と大将が聞くので、肉屋で買ってこれぐらいと説明する。
「ずいぶんと安いな。小売価格でそれか…」
「タイベは物価も安かったからね。これも特別な肉じゃなくて普通に流通している肉だしね」
「仕入れる事は可能か?」
「んー、肉だからなぁ… 冷凍して運ぶか特別なマジックバッグを使わないと運べないぞ。肉そのものの値段より運賃の方が高くつくんじゃないかな?」
「そっかぁ、そうだろうなぁ。あんまり高くなるとうちの店では出せないだろうなぁ」
「だろ?だから買えるだけ買って来たんだよ。で、ソーセージにしてくれる?」
「3日程掛かるぞ」
「作ってくれるなら待つぞ」
「店が終わる時間にもう一度来てくれ」
「了解」
どうやら作ってくれるようなので、食い終わった後に広場でテントを張り、マーギンはタジキを連れて戻ってきた。
「お疲れの所悪いね」
「いや、構わん。毎日こんな生活だからな」
店が終わってから仕込みか。やっぱり食べ物屋は大変だな。ダッドもタジキが帰ってからも色々とやってるだろうし、タジキも料理屋するならこの苦労をよく見ておいてくれ。
「で、このガキは?」
「ハンター見習いのタジキだ。将来自分で狩った獲物を料理して出す予定にしている」
「ハンター上がりの飯屋か。坊主、料理をナメんなよ。ハンター仲間から遠征の時に作った飯を褒められて、引退後に飯屋をやる奴が結構いる。大半が昔なじみの仲間が初めに食いに来てくれてそれで終わりだ。借金抱えて鉱山奴隷とかになるぞ」
タジキに現実を教える大将。
「その時は自分で萌えキュンをするから」
タジキよ、魔法は教えてやれるけど、お前の萌えキュンで客を呼べるかは保証してやれないぞ。
そしてなんの事か分からない大将。
「ま、お前の人生だ。好きにやればいい」
「うん、俺は頑張るよ」
「そっか、ならちょっと良いもの食わしてやるか。こういうのもあると知っとけ」
と、大将は業務用のソーセージ充填機に仕込んであったミンチに生クリームと牛乳を加えて練り直してからセットした。
手動の充填機のハンドルをクルクルと回して太いソーセージを作っていく。
「さ、試食するぞ」
「すぐに食べれんの?」
マーギンも初めて見る極太ソーセージ。
「これは作ってすぐに食うやつでな。店では出してねぇ」
大将はそう言ってすぐに茹でて食べ方を教えてくれた。この極太ソーセージは皮は食べないらしい。
「ふわっふわだ。うめぇっ」
「本当だな、ソーセージとは別物だ」
「だろ?晩飯にゃ物足りねえが、朝飯にちょうどいい。が、材料費が高くつくから朝飯に出すには料金が高い。それに朝から営業も無理だしな。個人的に楽しむもんだ」
「こんなに旨いのにもったいないね。料理人は大将一人だけ?」
「従業員もいるぞ。ソーセージの仕込みだけは俺がやらないとな。坊主、肉をミンチにするのやってみるか?」
「うんっ」
タイベの豚肉を業務用のミンサーに入れて、タジキにやらせてみる大将。
「ふぬぬぬぬっ」
「ほれほれ、そんなに時間掛かってると肉の温度が上がって不味くなるぞ」
業務用ミンサーのハンドルを回すのに力が必要なようで、タジキはスムーズに回せない。
「ほれ、時間切れだ。代われ」
大将がタジキに変わってハンドルを回していく。
「すっげぇ、そんなに簡単に回せるんだ」
「大人でもこれをやり続けるのはしんどいからな。料理で食っていこうと思ったらかなり大変だ。本当に料理人になりたいなら覚悟を決めておけ。思ってるよりずっと厳しくて儲からん仕事だ」
タジキが回せなかったハンドルを軽々と回していく大将。毎日これをしているから岩兵衛みたいな肩と腕なんだな。
「なぁ、大将。そのミンサーとか充填機とか魔道具になったら買うか?」
「は?こんな魔導具があるわきゃねーだろ。機械自体が特注品だ。特注品っても、ソーセージを作ってる奴は持ってるだろうけどな」
「今王都でさ、魔道具の開発が進んでるんだよね。需要があるなら作るんじゃないかな?魔導具として必要なのは回転する所だけだから作るのは可能だぞ」
「そうなのか?」
「うん、それにそのうち魔結晶の相場も下がって安くなるんじゃないかと思う」
「魔石じゃなしに魔結晶が安くなる?」
「魔物が増えて強くなっていくからね。魔結晶の数が増えたら安くなると思うぞ」
「あぁ、確かにボアとか増えてるみてぇだな。魔物が増える周期とかに入ったんじゃねーのか?」
「それならいいんだけど、多分強いのが出てくるよ。タイベではその兆候が出てたからね」
本当か?と驚いていたけど、そのうちこれが当たり前になってくるだろう。
「ま、こいつも高かったからな。魔導具で売りに出たとしても買い替えなんて出来んわ」
「そっか。それもそうだよね」
と、返事をしながらも、ハンドル部分だけ改良したらいけそうだなと思っていたのであった。
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