タイベ旅行の最終日
王都に戻る船は客船に乗る事になった。貨物船より客船の方が早く出航するからだ。
出航までは3日あるのでロッカ達とはそれまで別行動にした。俺は食材漁りをしたいのだ。女性陣が来るときっとまだ買うのかよ?とか言われて面倒臭い事になるのが容易に想像出来る。
飯屋に入ると領都にもカレーがあったのでデカイ寸胴を買って、グリーンカレーを作っておいてもらうことにした。王都に戻ってから自分で楽しもう。
「マーギン、まだ買うのか?」
飯食ってからも肉屋に寄っては豚肉を買い占めて行くのをタジキが不思議がる。
「王都よりこっちの豚肉の方が安くて旨いだろ。ベーコンとかも在庫ほとんどないからまた作っておかないと」
「鶏肉もいっぱい買ってるじゃん」
「王都に売ってない部位とかあるしな。ナンコツとか美味いだろ?」
「骨より肉の方が旨いぞ」
「肉ばっかりだと飽きるだろ」
「ん?あんたら王都の人間か?」
タジキと会話をしていると店のおっちゃんから声を掛けられる。
「そうだよ」
「王都にゃこういうの売ってないのか」
「俺がよく行く店にはね。探せば売ってる店もあるかもしれないけどな」
「そうか。ならこいつは知ってるか?」
と、ドサッと出して来たのはモミジ。つまりニワトリの足先だ。
「これどうやって食べんの?」
「煮るだけだぞ。ツマミやおやつにちょうどいい」
「旨い?」
「ぷるぷるしたのが好きならな。いるなら持ってけ」
「売り物だろこれ?」
「たくさん買ってくれたからオマケってやつだ」
というので遠慮なく貰っておいた。名残のタイベビールと共に楽しもうではないか。
「晩飯を海の近くで食うか?」
「うんっ」
岩場に移動して、亀の手狩りをしてみる。
「こんなの食えるのか?」
「出汁にもなるし食えるぞ」
そろそろ晩飯の準備を始める。亀の手とモミジを別々に茹でて、茹で汁は出汁に。亀の手出汁はカザフが捕まえた小魚も投入して味噌汁に。モミジ出汁は鶏つくねを入れてつくねスープだ。
他は焼き鳥に。買ってきたタイベビールをキンキンに冷やして楽しむ。
「モミジってぷるんぷるんだな」
「焼いたら香ばしくなると思うぞ。こんな感じなら揚げてもいいかもな」
「今度食べる時は揚げて食べようぜ」
「そうだな。大将も好きそうだしな」
買い物のオマケを大将の土産にするつもりのマーギン。
「亀の手旨えっ」
「ちまちま食べるの面倒だけど、味は旨いな。味噌汁も旨いわ」
「つくねスープも美味しいよ」
「トルク、そこにおにぎり焼いて入れてみろ」
と、おにぎりを焼かせてつくねスープに投入。
「あっ、すっごく美味しい」
「だろ?トルクが好きそうだと思ったんだ」
カザフとタジキもそれを見ておにぎりを焼き出す。もうつくねスープないぞ。
こうしてタイベの最後の日を男だけで過ごしたのだった。
ー出航前日のロッカ達の部屋ー
アイリスとハンナはマーギン達が戻って来たと言って向こうの部屋におやつをねだりに行ったので今部屋にいるのはロッカ、シスコ、バネッサだけである。
「バネッサ、船の中で拗ねるなよ?」
ロッカは明日からの船旅で、また拗ねられたら敵わないのでバネッサにストレートに言っておく。
「悪かったよ」
と、バネッサは素直に謝った。
「随分と素直に謝るのだな?ではついでに踏み込んで聞くがお前はマーギンの事をどう思っているのだ?惚れたのか?」
「そんなんじゃねーよ。まぁ、嫌いじゃねーけどよ。なんて言うか…うちもよくわかんねぇ」
バネッサは誤魔化したのではなく、本当に分からないのだ。
「そういうのを惚れたって言うんじゃないかしら?突っかかっては拗ねて、近付いて、逃げてとか。普通男の人にそんな事をするのは惚れた人がするものなのよ」
シスコ参入。
「だからちげーって。ほらなんて言うんだろ、なんか悔しかったんだよ」
「悔しい?」×2
「あぁ。うちはうちをゴミのように見たり、扱った奴を見返したくてハンターになった。強くなったら嫌な事をしてくる奴に仕返しも出来るし金も稼げる。で、結構稼げるようになって好きなものが食えるようになった」
「そうね」
「うちは強くなった自信があったんだよ。剣や弓じゃロッカとシスコに敵わねぇかもしれねぇけど、スピードじゃ誰にも負けねぇってな」
「それがなぜ悔しいに繋がるのだ?」
「マーギンは強ぇだろ?」
「そうだな」
「うちはマーギンの強さは魔法使いだからだと思ってた。だから敵わねぇのは当然だってな」
「まぁな」
「でもよ、マーギンはうちよりも速ぇ。魔物の知識も半端ねぇ。だから悔しかったんだよ」
「そうだったのか」
「でもな、黒ワニの討伐を見た時に、あぁ、こいつは生きて来たというか、生きている世界が違う奴なんだと理解した。それにラプトゥルの討伐した時の剣の腕、うちがコテンパンにやられた大モグラ討伐なんかうちの短剣を使って蟻を踏み潰すより簡単にやりやがった。もう悔しいとか通り越しちまったよ…」
「ナナイロフクロウもそうだな。あの魔鳥は本当は相当強い魔物だろう」
「あのフクロウはマーギンがパラライズを掛けて下に落とすまでうちは気付けてなかった。うちはマーギンがいなかったら最低でも2回死んでる。それと、強さだけじゃねぇ。うちらが気付いてないシスコの事までお見通しだ。きっとロッカが魔鉄を欲しがった理由もわかってんじゃねーのか?」
「もしかしたらそうかもしれん」
「それにな、マーギンがうちにだけセクハラしてくる理由ってなんだと思う?」
「胸が大きいからじゃないのか?」
「それが理由ならシャツを脱いだり、胸が透けた時に慌てんのかよ?」
「マーギンは本気ではセクハラしてないとお前は感じてるのか?」
「あぁ。多分マーギンだけはうちを女扱いしてくれてんだ」
「女扱い?お前は十分男好きのする身体をしているではないか」
「そんな言い方すんなっ。でもよ、うちを今まで女扱いした奴いたか?」
ロッカとシスコは出会ってからの事を思い返す。
「ないな」「ないわね」
「うちの胸が出て来たのは成人してからしばらくしてからだ。それまではヒョロガリの汚い孤児みたいだったからな」
二人は否定しない。
「うちは何か言われたらすぐに反発しちまう。手も出る」
それも否定しない。
「お前は自分を守る為にそうなったのだろ。お前の境遇を考えるとそれは仕方がないのではないか」
「うちが怒鳴ったり、手を出した奴はロッカとシスコ以外は離れていく。そして近付こうとしなくなる。そんなつもりじゃなかったのにということもある…」
バネッサは目を伏せてそう言った。
「それで?」
「マーギンはそれを許してくれるっていうか楽しんでくれてんじゃねーのかなって。つい意地を張っちまって引っ込みが付かなくなっちまった時も手を出してくれる」
「あなたはその手をシャッて引っ掻くけどね」
いらぬ突っ込みをするシスコ。
「うっせぇなっ。でもマーギンはそれでも手を出し続けてくれんだよ。それがあいつのセクハラなんだ」
「そうね、あなたが皆の輪に戻りやすいようにしてくれてるのよ」
「シスコは気付いてたのかよ?」
「当たり前でしょ。本気でセクハラしてくるような奴なら一緒にいないわよ」
「なんだよっ、分かってなかったのうちだけかよ」
ロッカはそうだったのかと言いかけた言葉を飲み込んだ。
「で、マーギンに惚れたのかしら?」
「マーギンの事は好きなのは好きだ。命を張って助けてくれたりもしたし、うちの事も可愛いって言ってくれたしよ」
えっ?と驚く二人。
「ちっ、違っ、口説かれたわけじゃねえよっ。なんかある度にお前は自分を大切にしろとか、可愛いんだから気を付けろとか言われんだよ」
あぁ、親目線の可愛いかと二人は理解した。
「それとな…」
「それと?」
バネッサはミスティの名前を口に出しかけてやめる。
「言い掛けたなら言いなさいよ。気になるじゃない」
「多分マーギンの心の中には他の女がいる」
「好きな人がいるってことかしら?」
「多分な…」
二人はローズを思い浮かべた。そしてバネッサが今の気持ちが恋心に変わっても勝ち目はないと悟る。
「じゃ、オルターネン様にアタックしてみれば?私と勝負になるけど」
シスコはマーギンより無理めなオルターネンを目指すように仕向けてみる。「だって面白いじゃない」が発動したのだ。
「はぁ?なんで勝負になるんだよっ」
「あら?私には可能性があると思うわよ。平民だけど、それなりの家柄だし。その点あなたは…」
「なんだとてめぇぇっ」
ーマーギン達の部屋ー
「なんや、またバネッサが暴れてんで」
「全くあいつは… なんか食ったら落ち着くだろ。これを持っていってくれ」
マーギンは鶏の足先、モミジを唐揚げにして甘醤油タレに絡めた物をハンナリーに渡す。
「これ食って寝ろと言ってきてくれ。それと寝不足だとまた船酔いするぞってな」
ついでにアイリスもハンナリーと一緒に部屋に帰らせ、明日に備えて早めに寝たのであった。
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