廃坑近くの村
マーギン達はワー族がいなくなった後、夜明けまで休憩して鉱山へと向かう。
「マーギン、やはりお前はあれほど剣も使えたのだな。あの技はどうやって習得したのだ?」
ロッカはマーギンがかなり剣を使えるだろうとは思っていたが、あれほどとは思わなかったのだ。
「あれはそう大した技じゃないぞ。それに本来は対人用の技だ」
「対人用?」
「そう、賊とかじゃなく、暗殺者とかに囲まれた時の技って感じかな」
「お前は暗殺者に狙われるような事があったのか?」
「どうだろうね?その時の為に剣の師匠が教えておいてくれただけだよ。賊とかは一斉に掛かってくるけど、殺しのプロはそうじゃない。そもそも目の前に現れる事もないんだけど、最終手段として姿を現す。そんな時はお互いの手の読み合いになるから、先の先の先とか読まないとダメなんだ。まぁ、ロッカ達が暗殺者と対峙することはないだろうけど、賢い魔物相手には覚えておいた方がいい技だ」
「お前は一体今までどんな生活をしてきたのだ?」
ハンターに取って過去の詮索はマナー違反だと理解しているロッカがあえて聞いてきた。
「ん?魔物討伐をする凄腕剣士の補助役だ。俺は魔法使いだけど、攻撃手段は色々とあった方がいいだろ?それに剣はロマンでもあるからな。剣そのものも好きだし、剣士の技を見るのも好きなんだよ。で、自分でもやってみたくなって教えて貰ってたんだけどね、才能がないって言われて途中で稽古は終わったんだ。だから中途半端な事しか出来んよ」
「しかし、ラプトゥルを倒した時の剣技は見事だったではないか」
「んー、仲間だった剣士なら、あんな小技を使わなくても一振りで3匹共瞬殺出来るからな。師匠もそうだけど、俺にはそんな真似は出来んから工夫が必要なんだ」
「一振りでだと?」
「そう。そりゃあもう、スッパーーンて感じだな。ラプトゥルぐらいなら目を瞑って片手で殺れるんじゃないか」
「お前が使ったその剣の持ち主か?」
「そう。何本か預かったまま返せてないんだよね。あれはそいつの一番お気に入りの剣だったから勝手に使うの悪いなぁとは思ったんだけど、剣でやるの久々だったから預かっている中で一番良い剣を使わせて貰った。ロッカに参考にしてもらう為にやむを得ずってやつだ。勝手に使ったのも黙ってりゃわからんだろ」
と、マーギンは笑った。
マーギンが使った剣を間近で見たのはロッカだけ。見ただけでわかる高価で気品のある剣の持ち主とは一体…
「ま、俺の過去の事はどうでもいい。気にするのはお前らのこれからだ。昨日みたいに見たことがない奴も出てくるし、知ってる魔物も強くなる。今までと同じだと思っていると死に繋がるからな。充分注意してハンター稼業をしてくれ」
「昔の仲間にうちみたいな奴もいたのかよ?」
と、バネッサが会話に入って来た。
「いたぞ。本当にバネッサとよく似たタイプの奴だ。何考えてんのかよく分からんかったが、イタズラとかよくしてきやがった。あんまり他のパーティメンバーには絡まないくせに俺には悪質なイタズラをしてきやがるんだよ」
「そ、そいつの事が好きだったのかよ…?」
「は?そんな訳あるか。飯食ってる最中に後ろから暗器を投げてくるようなやつだぞ。さすがに刺さるようには投げて来なかったけど、後頭部にカンッて当てて痛がる俺を見て大笑いするような奴だ。お陰でプロテクション張るのが上達はしたけどな」
「そ、そっか… なら…」
バネッサはライオネルの宿でマーギンが寝ぼけて自分をそいつと間違えたミスティという奴の事が気になって名前を言葉に出し掛けた。
「なら、なんだよ?」
「別にいい。お前の過去なんてどうでもいいっての」
「なら聞くなよ」
「マーギン、俺達の中で剣士に向いてるのって誰だと思う?」
と、次にカザフが聞いてくる。
「誰だろうなぁ?お前らまだ身体が小さくて成長途中だろ?」
「でもよぉ、なにかを覚えるのって早い方がいいんじゃねーのかよ?」
「まぁそれはあるな。カザフは剣士になりたいのか?」
「まだよく分かんねぇけどさ。ほらトルクは弓に適正あんだろ?で、タジキか俺が剣士になるのがいいと思うんだよな」
「そうだな。今までお前らを見てきた感じだとカザフは斥候だな。バネッサと同じような感じだ。ショートソード使いが向いてるんじゃないかと思う」
「なら俺が剣士か?」
と、タジキ。
「んー、なんとなくタジキはパワータイプになるんじゃないかと思ってる。剣なら大剣とかな。もしくは盾持ちだ。カザフが真っ先に突っ込んで行ってトルクがフォロー、タジキがトルクに敵を寄せ付けないようにするか…」
「するかの続きは?」
「盾を持って敵に突っ込んでいき、突進を止めるとかだな。タジキが大盾を持って突っ込んで行き、カザフがその後に付いて行って、タジキが向こうの攻撃を止めたら、横や上から飛び出して攻撃するとかだ。盾持ちをやるとタジキは攻撃手段が無くなる。3人パーティでそのうち一人の攻撃手段がなくなるとしんどいからな。他に仲間が加わるなら有りな戦法だ」
「他に仲間なんて出来るかな?」
「どうだろうな?お前らが正式登録する頃には似たような歳の奴は物足りなさすぎてお荷物になるかもな」
「えっ?それは俺達がめっちゃ強くなるってことか?」
「それはお前ら次第だ。今のうちにしっかり鍛えとけ。魔法と魔物の習性は教えてやれるけど他は俺に期待するな。弓も得意じゃないし、剣も中途半端だ。大剣は扱った事がない」
「えーっ」
「カザフはバネッサ、トルクはシスコ、タジキは大将が教えてくれるといいんだけどな」
「俺はロッカ姉に剣を教えて貰ったらダメなのか?」
「それでもいいけどな。ロッカは独学だろ?独学で覚えた奴は人に教えるの下手だったりするぞ。まぁ、大将もそうかもしれんが」
「ロッカ姉、そうなのか?」
「私も人に教えた経験がないからな。鉱山探索が終わったらやってみるか?」
「うんっ」
「なら、手頃な木を探して木刀を作っておけ」
ロッカはこの旅の間に稽古を付けてやるつもりのようだ。上手く行くといいな。
それから、森の中で薬草類の採取をしたり、小鳥やウサギを弓で狩ったりしながら鉱山へと向かった。
「おっ、多分あそこが廃坑だな」
恐らく吸血被害が出たという村らしきものが見える。そこから鉱山への道が続いていた。
「どうする?村に寄らずに廃坑へ向かうか、それとも村で情報収集するか?」
マーギンはロッカに尋ねる。
「そうだな。廃坑の情報もワー族から聞いた事しかないから村に寄るか。テントを張るのも村の中の方が安全だろう」
ということで、廃坑近くの村に寄ることにしたのだった。
「こんにちはー」
マーギン達は村の中の人に声を掛ける。
「なんだお前らは?」
「俺達は王都でハンターをしているものだ。廃坑にバンパイアがいるって噂をきいて興味本位で来てみたんだ。余所者が邪魔なら出ていくけど、問題ないなら話を聞かせてくれないか?」
街から離れた村は余所者に対して警戒心が強い所が多い。旅人やハンターを装った賊とかがいるからだ。
「お前らが王都のハンター?」
大人の男が一人、後は女子供の団体。賊ではなさそうだが、ハンターにも見えない。
「そう。バンパイアの事を領都の組合で聞いたんだよ」
「えっ?依頼を受けてくれたのかっ」
「いや。話を聞いただけ。依頼はバンパイア討伐だったからね。本当にバンパイアがいないと依頼達成もクソもないだろ?」
「ちょっ、ちょっとここで待っててくれ。バンパイアを見た奴を連れてくる。お前ら、バンパイアが居たら討伐出来るのか?」
「んー、どうだろうね?俺達もバンパイアを見たことがないからなんとも言えんよ。吸血コウモリぐらいならなんとかしてやれるけど?」
「わ、わかった。取り敢えず連れてくるからそこで待っててくれ」
と、村の中ではなく、入口付近で待たされる事になったのであった。
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