ロッカに手本を見せる
「なんだこいつは…」
近くに現れた魔物はマーギンと同じぐらいの背丈があり、恐ろしげなトカゲが立ち上がったような奴だった。
「ちっ、もう来やがった」
ロッカを今から木の上に登らせるのはまずい。間に合わないのが確定だ。
「ロッカ、お前の周りにプロテクションを張る。そこにこいつがぶつかっても声を出すな。動いたり大声をあげたりすると活性が上がる」
「こいつはなんなのだっ?」
「ラプトゥル。かなり賢い魔物だ。今俺達を餌に出来るかどうか確認している最中だ。今後の為にロッカに出来る戦い方でやるからよく見ておいてくれ。プロテクション」
マーギンはロッカをプロテクションで囲んだ。
(マーベリック、悪いがお前の剣を勝手に借りるわ)
マーギンはそう心の中で呟いてアイテムボックスから勇者マーベリックから預かっていたうちの中で一番良い剣を出して手に取った。
聖剣を使わない時に使っていた勇者マーベリックの剣は白と金で装飾された見た目にも豪奢な剣。性能も申し分ない代物だ。
マーギンはその剣を構え、
「よぉ、ラプトゥル、久しぶりだな。今逃げるなら見逃してやってもいいぞ」
と、マーギンは威圧を放ちながらラプトゥルに話しかけた。
ー過去のシャーラムー
「は?倒すだけじゃねーのかよっ」
「コヤツは南国にしかおらぬじゃ。聴覚、嗅覚、視覚のどれに一番反応するのか調べておかねばならん。調べるには生け捕りにするしかなかろう」
「なら、パラライズか睡眠魔法を掛けろよ」
マーギンはミスティとシャーラムで米の開発をしながら飯の為の狩りとミスティのオタク魂の為の魔物探索を行っていた。
「魔物共よっ!我の前にひれ伏せっ パラライズっ!」
ミスティにもマーギンの厨二病が感染ったのか、二人でいる時にはこんなセリフを吐く。マーベリック達がいる時はほとんど喋りもしないが。
マーギン達の周りを取り囲んでいた5匹のラプトゥルがドサドサドサっと倒れていく。
「ミスティ、残すのは一匹だけでいいんだよな?1匹残して後は殺るぞ」
「いや、実験は複数回した方が信頼性が高くなる。しばらく痺れて動けんじゃろうからまだ殺すな」
痺れているラプトゥルが何に一番反応するか確かめていくミスティ。
「ふむ、視力、聴力、嗅覚ともによく反応するな。特に視力が良いようじゃ。もしかしたら感覚器官も持ってるやもしれん」
「そんなのがわかるのか?テキトーに言ってんじゃないだろうな?それに感覚器官ってなんだ?」
「人には無いものじゃ。魚は水の流れを感知したり、サメは獲物が発する微弱な信号を受信したりしていると思われる」
「あぁ、ロレンチーニ器官って奴だな」
「なんじゃそれは?」
「サメの鼻先にそういうのがあるんだって。テレビでやってたわ。だからサメに襲われた時に鼻先を叩くと逃げるとかやってたぞ」
「まことかっ?」
「俺が調べた訳じゃないから本当かどうかは知らないよ。でもテレビでやってたから本当じゃない?」
「うぬぬぬ。貴様の居た世界はやはり色々と調査をするような研究者が多かったのだな」
「かもね。お前みたいな奴がたくさん居たってことだよ」
「私みたいな奴とはなんじゃ?」
「変態だよ、変態。良くもまぁ、そんなデカイトカゲの生臭そうな顔を素手でいじくれるもんだ」
研究者を変態呼ばわりするマーギン。
「誰が変態じゃーーーっ! それに触らんと分からん事もあるじゃろうが」
「そりゃそうかもしれんけど、素手で触ってたら… 危ないっ!」
マーギンはミスティの手を引っ張って抱き寄せた。
「なっ、何をするのじゃっ は、は、離さんかっ」
「ファイアバレットっっ!」
え?
ぼひゅっ ぼひゅっ ぼひゅっ
痺れて動けないと思っていたラプトゥルがミスティがこちらを向いて怒鳴っている時に静かに頭を持ち上げ口を開けたのだ。
「キュルルルーっ」
「げ、ファイアバレットが全く効いてねぇ。ヤバいぞこいつ」
キュルルルーっ
キュルルルーっキュルルルーっ
そして他のラプトゥルも立ち上がり、マーギン達を襲って来た。
「パララズが効いてはおらぬのか?」
「みたいだな。あれ、掛かったフリしてやがったんじゃないのか?」
「なんと賢い魔物じゃ。想像してたより賢いではないかっ」
嬉々として叫ぶミスティ。何を喜んでいるのだお前は?この状況はヤバいだろうが。
「炎耐性も高いぞ。ファイアバレットが効かん。ミスティが餌になって隙を作ってくれ」
「なぜ私が食われなければならんのじゃっ」
ラプトゥルはキュルル、キュルルと他の仲間と何か意思疎通をするかのように鳴いている。背中に隠したミスティに冗談のような会話をしているマーギンが威圧を放っているので、どうやって襲うか作戦を決めているようだ。
「キュルルルーっ」
突然目の前のラプトゥルが大きな口を開けてマーギンに噛みつこうとする。前にいるラプトゥルとは5m程の距離があったのに一瞬で詰められたのだ
「エアカッターっ!」
マーギンは首を伸ばして襲い掛かって来たラプトゥルに下から斬り上げるように風の刃を放った。
ブンッ
その風の刃を首を引っ込めて避けたラプトゥル。その代わりに横から違うラプトゥルが襲い掛かってきた。
「ちっ、連携にフェイント織り交ぜるとか本当に魔物かよっ」
横から襲って来たラプトゥルの顔がマーギンの目の前に来た時、
「おりゃぁぁぁっ」
マーギンはラプトゥルの顔を避けると、空振りするかのように目の前にラプトゥルの首が来る。その首を抱き抱えるように掴んで首投げを食らわせた。
「スタンっ」
バチィィ
首を掴んで投げると同時に電撃魔法を食らわせる。
「プロテクションっ」
ミスティをプロテクションで包んでから、残りのラプトゥルに突っ込んでいき、強めの電撃魔法を食らわせていったのだった。
「ダメだ… もう立てん…」
瞬時ではなく、ラプトゥルを倒し尽くすまでミスティに全方向のプロテクションを張り続けたマーギン。その上、強烈な電撃魔法を何度も使った事で魔力が切れたのだった。
「マーギン、お前…」
ヘタリこんだマーギンにどこかやられたのかと心配したミスティが悲痛な顔をして近付く。
「大丈夫だ。俺はやられてねぇし」
魔力切れで立てないだけだと理解したミスティはホっとする。
「何をやってるか貴様はぁぁぁっ。全部のラプトゥルが死んどるではないかっ。一匹ぐらい生かしておかんかっ」
「なんだとてめぇえっっ。俺が殺らなきゃお前は死んでたんだからなっ」
マーギンが無事だと解ってホっとしたミスティは泣きかけた顔を誤魔化すのにマーギンを挑発して怒らせるような事を言ったのだった。
ータイベでラプトゥルと対峙するマーギンー
「ちっ、ミスティのやろう。今思い出してもムカつくわ」
そんなミスティの心境を知らないマーギンはラプトゥルと睨み合いながらぶつぶつと昔の出来事を思い出してミスティへの文句を言う。
そしてあの時と同じようにキュルル キュルルとラプトゥルが鳴き始める。
「逃げないなら掛かって来いよ。ロッカが見てるから手加減はしてやらんぞ」
そう言った刹那、目の前のラプトゥルがガッと首を伸ばして襲い掛かって来た。
その距離の詰め方とスピードを見たロッカは「うっ」と声をあげる。
マーギンは正面から襲い掛かって来たラプトゥルに右斜め上から斬り付けるように剣を振り下ろしたかと思ったら、途中で軌道を変え、右横に突きを放った。
「キュェェッ」
正面のラプトゥルは振り下ろして来た剣を躱すかのように首を引っ込めた時に横から違うラプトゥルが襲ってきたのを突きで一撃で仕留め、その剣を抜いて正面のラプトゥルに飛び込み身体を回転させながら首を斬り落とし、その回転の勢いで後ろからも襲ってきたラプトゥルを下から斬り上げて仕留めた。
ラプトゥル3匹討伐完了。
「プロテクション解除。ロッカ、ちゃんと見てたか?」
「み、見てたぞ…」
マーギンが木の上に向かって終わったぞと言うと皆も降りてくる。音もなく飛び降りて来たのはバネッサとハンナリー、次にガキ共がそれに続いた。シスコがよいしょっと降りた後にアイリスがマーギン目掛けて飛び降りて来た。それを受け止めるマーギン。
ぽすっ
「ちゃんと一人で降りてこい。怪我するだろうが」
「大丈夫ですよ」
それはお前のセリフではない。受け止めるこっちが危険なのだ。
「マーギン、なんだよこいつは?」
倒れているラプトゥルを見ているバネッサ。
「こいつはラプトゥル。かなり賢い魔物だ。3〜5匹くらいの群れで狩りをする。初見で囲まれたらかなりヤバいな。対処方法を知っていればそこまで警戒する必要はないけどな」
「マーギン、さっき見せた剣技を私にもやれと言うのか?」
「そう。ロッカなら出来る」
「いや、魔物に突っ込む度胸はなんとかなるだろうが、袈裟斬りから軌道を変え、横に突きを放つとか相当難しいぞ」
なぜ
「とっさに軌道を変えるのは難しいけど、初めから変えるつもりでやればそう難しくはない」
「マーギンはあの魔物の攻撃を読んでいたのか?」
「読んでいたというよりも、知っていたということだな。初撃は正面の奴が襲って来たろ?」
「あぁ、予備動作なしにあの距離を一瞬で詰められたから驚いたぞ」
「ロッカなら初撃の対処どうしてた?」
「バックステップを踏んで避けただろうな」
「バックステップをしたら後ろの奴がお前を襲う。避けずに攻撃したら横の奴が襲う。で、ビビって動けなかったらそのまま正面の奴が襲ってくる。相手が3匹ならこのパターンだ。4匹なら飛んで上から来るし、5匹ならわざと音を出したり派手な動きをする奴がいる」
「魔狼みてぇだな」
「魔狼より賢いぞ。やられたフリをしたり、魔法に掛かったフリもする。それにフェイントを織り交ぜて連携してくるからな。戦いが長引けば疲れた所を狙われる。キュルルって鳴いてるのもラプトゥルの言葉なのかもしれん」
「へぇーー、お前、本当に色んな魔物をしってんだな。もし次にうち等だけで出くわしたらロッカ一人にやらせるのか?」
「いや、お前とアイリスがいればもっと倒しやすい」
「どうやんだ?」
「それはな…」
と、バネッサに星の導きとして対応する方法を説明しようと仕掛けた時に、そいつ等が現れたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます