ハンナリーの商機

マーギン達は300cc程の小瓶でバレットフラワーの蜜を12本採取して村に戻った。


「おー、もう準備がこんなに進んだんだ」


村に入ると中央には雨乞いの儀式をすると思われるステージのような物が組まれ、篝火かがりびが広場の周りにたくさん準備されていた。



「お、戻ったか。なんか面白い魔物はいたか?」


準備を終えたゴイルが出迎えてくれる。


「まぁね、これお土産にあげる」


マーギンはバレットフラワーの蜜が入った小瓶を一つ渡した。


「ん?何が入っている?酒か?」


「ここではなんて呼ばれているか知らないけど、バレットフラワーの蜜だよ」


と、バレットフラワーの説明をする。


「アンタラバガの蜜か、種が飛び終わったのを見付けたのか?まだ飛んでないかどうかどうやって見分ける?」


「これは全部種を飛ばしてきた奴だよ。蜜の採取方法は確かめて来たから後で教えるよ。これ、栽培できないかな?」


「魔花を栽培だと?」


「この蜜美味しいだろ。王都で高く売れるんじゃないかと思ってな。上手く栽培出来たらこの村の収入源にならないか?」


「俺達がやるのか?」


「無理なら違う所で頼むけど。他にも栽培して欲しい植物があるんだよね」


もち米と虫除けの花は海賊たちにやってもらう予定だが、防刃服の草は大量に栽培してもわらないとダメなのだ。


「他は何がある?」


「この草なんだけどね、王都にも生えているんだけどタイベの気候の方が向いてるらしいんだよ。この草はこれから大量に必要になるから広い土地で栽培してくれる人を探す予定にしていたんだよね」


マーギンはアイテムボックスから植物学者ゼーミンから預かったススキの様な草を見せる。


「こんなもん栽培しなくても死ぬほど生えてるぞ。今の季節はあまり伸びていないが8月には背丈ぐらいになる。こいつは不味いのか牛や馬も食わないし、根が株になるから取り除くのも厄介な草だ」


「誰も欲しがらない草?」


「厄介な草だと言っただろうが。こいつが群生している土地は耕すのも大変だから放置されている」


それは僥倖。


「この草を刈り取って売ってくれない?」


「これが金になるのか?」


「この草を特殊な加工すると刃物で切れない糸が出来るんだよ。これがその糸なんだ」


と、釣り糸として持ってきた物を見せる。


「この草がこんな糸になるのか」


「そう。で、この糸で防刃服ってのを作る予定にしててね、防刃服の売り先は確保してあるから量産したいんだ。刈り取ってくれたら刈り取ってくれた分買い取るよ」


「刈り取りは夏でいいか?」


「うん」


「なら可能だな」


「大体の量がわかるなら先払いにしてもいいぞ。草を刈り取っても本当に金になるかならんかわからなかったらやる人いないかもしれないし」


「金だけもらって刈り取りしなかったらどうするんだ?」


「それは俺の見る目がなかったということだね」


と答えるとゴイルは笑った。


「了解だ。俺が責任を持って刈り取りを約束しよう」


二人は握手会してうんうんと頷きあったのであった。



その夜の晩ごはんはゴイルの庭先でバーベキュー。こちらからも肉とか食材を提供しようとしたら断られた。水の神ナムを祀る村はここから南東に位置する海岸沿いまで広がっているらしく、海産物のバーベキューだった。


皆で海産物をうまうまと遠慮なく食う。


ガリっ


「なんか硬いもの入ってた。ペッペっ」


と、カザフが貝を食べている時にペッと吐き出した。


ん?


「カザフ、今何を吐き出した。砂か?」


「白い石が入ってやがったぜ」


と、見せてくれたのは小さな真珠のようだ。


「あー、それ結構入ってるのよ。先に教えてなくてごめんね」


と、マーイが謝る。この貝には結構クズ真珠が入っているのはこの村では常識のようだった。


「マーイ、いつもこのクズ真珠どうしてる?」


「こんなの売れないから捨ててるわよ」


「たくさんあるなら売れるぞ」


「えっ?王都の人はこんな真珠欲しいの?」


「マーギン、真珠といってもこんな小さくて歪な物は売れないわよ。子供へのお土産とかならともかく、欲しがる人なんかいないわ」


と、シスコがこんなのゴミよと言う目でマーギンに言う。


「装飾品じゃなくて化粧品に加工するんだよ。多分売れると思うけどな」


マーギンが化粧品にすると言ったら皆の頭の上に?マークが浮かぶ。


「どう加工するの?」


と、マーイが興味を持ったので他のも集めてもらい魔法でパウダーにしていく。勇者パーティ時代に聖女ソフィアがこれを使っていたのだ。真珠をパウダーにするのはミスティがやっており、その後パウダーにする魔法を教えてもらいマーギンがやらされていたのだった。


「こうしてパウダー状にしてオイルとかに混ぜるんだよ。昔の仲間は顔に塗る奴に混ぜてたけどね」


試しにココナッツオイルに混ぜて使ってみることに。


「バネッサ、こっちにこい」


「なんでうちで実験するんだよっ」


「これが使えるかどうかシスコに見てもらわにゃならんだろうが。シスコ、バネッサで試してくれ」


ブツブツ言うバネッサにシスコが真珠パウダー入のココナッツオイルを塗っていく。


「マーギン、もっと明るく照らして」


ライトの魔法で塗り終わったバネッサを照らす。


「あ、これいいわね。肌が綺麗に見えるわ。ほら元の肌より綺麗よ」


効果を試す為に顔半分だけ塗られたバネッサ。


「本当ねっ。こんな簡単に作れちゃうなんて驚きよっ。マーギン、真珠集めとくからパウダーにしてね」


と、マーイもこれが欲しいようだ。


「ゴイル、このクズ真珠も王都に売れよ。ゴミが金になるぞ」


「こんなもんが金になるのか。厄介な草といい、クズ真珠といい俺達の知らないことばかりだな」


「他にも金になるものあると思うぞ。マンゴーとかパイナップルとか南国の果物も売れると思う。腐らないように運ぶ必要があるけどな」


「マンゴーとパイナップルか。うちの村では売るほど作ってないな。売れるいい方法があるなら土の神を祀る村に声掛けてみるぞ」


土の神を祀る村は色々な種類の農作物を作っているらしい。昔から各村で必要な物を物々交換しているとのこと。


「商売になりそうな物がたくさんあるのに、どうして今まで売らなかったんだ?」


「村まで商人が来ることはねぇからな。街に売ることもあるがそんなに金にならん。自然に生えてる奴もあるからな」


なるほど、地産地消で終わりか。


「このハンナが商人になる予定でな、各村で売れそうな物をこいつに任せてもいいか?」


「そっちでやってくれんのか?」


「今聞いた話だと商売のやり方がよくわかんないだろ?こいつなら騙すような事はさせないから生産と途中までの運搬をしてくれりゃいい。売るものはこの村の海辺からタイベの領都まで船で運べばいいんじゃないかな」


「運搬船なんてねぇぞ」


「それもなんとかなる」

 

と、マーギンが答えるとハンナリーはピンと来たようだ。


「マーギン、運搬をあいつらにやらせるつもりなん?」


「そう。それに仕事が増えたら孤児の働き口にもなるだろうからな。お前はそいつ等を雇ってやれ。あいつらは結束力があるから大丈夫だろ」


「えーっ、うちが一人で全部やるんかいな」


そんなん無理やでという顔をするハンナリー。


「王都での販売ルートは確保しといてやる。お前は仕入れと流通を担え。人が増えて次の金が溜まったら王都で販売店構えてもいいしな。何なら俺の店を使ってもいいぞ」


「マーギン、あんなゴミみたいな店で何も売れないわよ」


シスコの奴、俺の魔法書店をゴミみたいな店とか酷い事を言うやつだ。否定出来ないのもなんだけど。まぁ、ここで仕入れた物は売値を高くしないと利益が出ないだろうから、あの店では力不足なのは確かだな。


「うち出来るやろか…」


突然の大きな商機に気遅れするハンナリー。


「大儲けしてお前を馬鹿にした奴らを見返すんだろ?普通にやってたらお前みたいな小娘が他の商会に敵うもんか。なんか新しい物を開発していくのがお前の勝機だ。お前がやらないならシスコの実家に頼む事になるぞ」


「えっ?シスコの実家?」


「そう、こいつの実家は王都の大手商会だ。仕入れから流通、販売のノウハウはばっちりだろうから、この話を持って行ったら受けてくれると思うぞ。なぁ、シスコ」


「そうね、あの父にあれ以上儲けさせるのは癪だから私がやろうかしら?真珠を使った化粧品とバレットフラワーの蜜だけで貴族相手に稼げるわ。ハンターを引退した時の為に商会を立ち上げておくのも悪くはないわね。バネッサも用心棒として雇ってあげても宜しくてよ。月給銅貨30枚くらいで」


銅貨30枚。円に照らし合わせると3千円だ。


「なんでうちがシスコに銅貨30枚で雇われなきゃなんねぇんだよっ」


シスコは冗談のように言ったが、マーギンの読みは当たるだろうなと、少し本気混じりだった。


「あわわわわっ、 う、うちがやる。うちがやるからシスコは手ぇ出さんといてっ」


シスコに儲け話を横取りされると思ったハンナリーはやると答えたのだった。


その後、大まかな打ち合わせをして来年から試験的にやってみようかということになったのであった。

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