タイベ散策

翌日の昼過ぎに水の神ナムを祀る村近くに着いた。


「おー、畑が広がってんな。まだ何にも植えてないみたいだけどなんの畑だ?」


マーギンがそう言うとゴイルは渋い顔をする。


「ここは田んぼだ」


「え?もう水を入れてないとダメな時期なんじゃないのか?領都近辺は水が入ってたぞ」


「雨季に入っていてもおかしくない時期なんだが、こっちにはまだ降ってない。森の水場も枯れていただろ?」


確かにハナコに飲ませる水を俺が出したくらいだからな。


「川とかから水は引けないのか?雨頼りだけだと不安定だろ?」


「川はここより低い土地に流れててな、ここまで水路を引いて来るのが難しいのだ。今までは雨が降るだけで問題なかったしな。今回俺達が戻ったのは雨乞いの儀式をするためなんだ」


そういうことだったのか。


「そんな時にお邪魔して良かったのか?みんな気が立ってるだろ?」


「まぁ、そうだな。しかし美味い飯の礼もしたいし大丈夫だ。それにマーイの雨乞いの舞いは我が妹ながら見事だから是非見て行ってくれ」


「雨乞いの舞いか。ゴイル達も演奏するのか?」


「そうだ。村人が集まって水の神ナムを楽しませるような感じだから祭りみたいになるぞ。明日の夕方から夜に掛けて行われる。俺達は今日は準備をするからマーギンは婆さんに話を聞いてゆっくりしていてくれ」


そう笑ったゴイルにありがとうねと返事をした。


雨が降ってないとはいえ、快晴とは言えない天気。空気も湿っているから雨降りそうだな。


雨が降ってないとはいえ、緑が枯れ果てていることもない。そこまで深刻な水不足ではないのかもしれないとマーギンは安易に考えているのであった。



ハナコを先頭に村に入る。マーイとゴイルが村の人にマーギン達の説明してくれている。


「マーギンっ、うちに全員泊まると狭いから分散しても大丈夫?」


と、マーイが聞いてきた。


「いや、寝るのはテントがあるから大丈夫だ。忙しい時にいきなり来ちゃったから迷惑だろ?俺達もテントで寝る方が気を使わなくて済むしな」


「えーっ、そんな事気にしなくていいのに」


ゴイルも遠慮するなと言ってくれたが本当に気を使うから大丈夫だと断った。多分エアコンもなさそうだからテントの方が快適に寝られるだろう。


「本当に泊まらないの?」


本当にいいのかとマーイが何度も聞くので一応ロッカ達に聞いてみる。


「ロッカ、女性陣だけ泊めてもらうか?」


「いや、我々も大丈夫だ。村の中なら見張りもいらぬし、テントで十分だ」


「だって。マーイ達は明日の準備で忙しいだろ?俺達には気を使ってくれなくていい。こいつらの勉強も兼ねてるからな」


「わかった。ご飯は一緒に食べるでしょ?うちの庭で一緒に食べよ」


「わかった。それは遠慮なく頂く事にする。晩飯までなんか面白い魔物とかいないか探検してくるわ」


「んー、村の近くにはそんなに珍しい魔物はいないと思うんだけどなぁ」


「マーイ達には珍しくなくても、ロッカ達には珍しいかもしれんぞ」


「あー、そっかもね。大丈夫だと思うけど気を付けてね」


ゴイルの言っていた婆さんとの話は儀式が終わってからゆっくりと聞きたいと伝え、マーギン達は村の外に向かったのだった。



「なんか面白そうな奴いんのかよ?」


「どうだろうね、ここにも大モグラがいるかもよ」


そう答えるとバネッサは尻を押さえた。


「ま、冗談はさておき、ロッカ達はヒョウは知ってるか?」


「ヒョウとはどんな魔物だ?」


「ヒョウは動物だ魔物じゃない。と言っても侮るなよ。気配を消すのが上手い。木の上から音もなく襲ってくるからな。もし対峙しても出来るなら追い払うだけにしてくれ」


「人を襲う動物なのだろ?」


「そうなんだけど、こいつの毛皮は綺麗なんだ。それで貴族とかに高く売れるから数が減ってるかもしれない。魔物なら勝手に増えるからバンバン討伐しても問題ないんだけどさ」


「高う売れるんやったらそんなん気にせんと狩ったらええやん。うちらがやらんでも他の奴やらが狩ってまうから一緒のことちゃうん?」


ハンナリーの言うことも理解出来る。


「ま、自己満足だよ。希少動物を狩らなくても儲ける事が出来るだろ?お飾りの為のものを狩るより、困ってる人のためになるものや、素材に価値がある魔物を狩ればいい」


「もっと金になるものを狩る方がええってことなんやな?」


ちょっと違うがそれでもいいだろう。こっち世界の人は種の絶滅とか知ったこっちゃないだろうからな。


「あとな、ヒョウと出会ったら顔を背けずにずっと睨み付けておけよ」


と、カザフ達に伝える。


「逃げる時にもか?」


「そう。奴らは後ろを向いたやつを狙う。目をそらした奴が的になるからな。ま、皆がいるから襲って来ないかもしれんが気を付けておけ」


勝手に離れるなよと注意をして散策開始。カザフ達に魔物や動物の痕跡の見つけ方、木にこの傷があると魔物の縄張りに入ったとか教えていく。実にこの地域は素晴らしく、実地研修として様々なものがある。ロッカ達も知らない事があったみたいでなるほどとか感心していた。マーギンの知識も今と同じようにしてミスティに教えてもらったものだ。



「おっ、なんか甘い匂いがすんぜっ」


と、フワッと漂ってきた甘い香りにバネッサがダッと見に行こうとする。


「パラライズっ」


口で言っても走って行くだろうバネッサをパラライズで止める。


「てっ、てんめぇ… 性懲りもなく…」


「性懲りもないのはお前だ。お前は止まれと言っても走って行くだろうが。みんなと離れんなって言っただろ。この地域にはお前の知らない事がたくさんあるんだぞ。警戒心はこういう時に持て」


マーギンはバネッサがうるせえっとか暴れ出しそうなのでそのままおぶっていく。


「マーギン、この甘い香りは危険なのか?」


ロッカもこの匂いは知らないようだ。


「正体を知っていれば大丈夫だ」


と、甘い匂いのする方向へ進み、赤くて大きな花が咲いている所を発見した。


「ロッカ、この甘い香りはあの花から出ている。迂闊に近寄るなよ、死ぬぞ」


「えっ?」


花に近付いただけで死ぬと言われて驚く。


「あれはバレットフラワー。香り高い甘い蜜を溜め込んでいる。迂闊に近寄るとこうなるということを教えてやる」


マーギンはバネッサをロッカに背負わせ、プロテクションを張りながらバレットフラワーの前に行き花に顔を近付けた瞬間。


ズガガガガッ


バレットフラワーから弾丸のようなものが飛び出し攻撃してくる。少しの間それが続き、弾丸が飛ぶのが収まったのでプロテクションを解除。


「マーギンっ、今のは何だっ」


「この花の種だよ。この甘い香りは動物や魔物も好きでな、蜜と香りで誘き寄せて種を撃ち付ける。体内に種を撃ち込まれた動物は逃げて行き、やがて力尽きる。バレットフラワーは力尽きた獲物を養分として育つんだ。中には死んでないのに発芽して死ぬ程苦しみ凶暴化する魔物もいる。魔物から花が咲いてたら強くて凶暴化した魔物だと思え」


「マーギン、甘くて旨そうな匂いしてんのに怖い花なんだな」


カザフ達は今の話を聞いてマーギンにくっつく。


「もう種は飛んで来ないから蜜を採取するぞ」


「え?」


皆が顔を合わせる。


「先にこの蜜を食いに来た奴は種を撃ち込まれて死ぬだろ?で、こうして残った蜜を他の奴が食べる。蜜を食べた奴はこれが美味いと学習する。で、また咲いているバレットフラワーを見付けたら喜んで食いに行って餌食になるって寸法だ」


「植物って賢いんやな…」


「こいつは植物系の魔物だ。普通の植物と違って栄養を取るのに貪欲なんだろうな」


マーギンがバレットフラワーの蜜を採取すると小瓶一本分ほどあった。みなの手の甲に乗せて舐めさせてみる。


「美味ぇっ!」


皆が絶賛。ハチミツのような甘さとなんとも言えない良い甘い香りがする蜜なのだ。


「なぁマーギン、これ売れへんやろか?」


「俺は防御出来るから簡単に採取出来るけど、かなり危ないんだぞ」

 

ハンナリーはこの蜜が高く売れると踏んだようだ。


「なんかええ仕組み作って栽培したらええやん。あんたそんなん考えるの得意やろ?」


「栽培かぁ… もしかしたらゴイル達の村の収入源になるかもな。よし、他のを探して種集めてみるか」


ということで他のバレットフラワーを探す事に。1輪咲いていたら近くに咲いていることが多い。


カザフとバネッサがフンフンして匂いを探していき、次の花を発見。


「じゃ、種の回収をこうやってみようか」


マーギンはつり鐘のような物を土魔法で作り、その内側に魔狼の肉を張り付けていく。


「マーギン、肉なんて貼り付けてどうすんた?」


カザフ達が不思議そうに聞いてくる。


「コイツラは獲物の肉に種を撃ち込むだろ?こうして肉を貼っておけばそこに食い込むはずだ」


マーギンも種が飛ぶ方向を把握出来ていないので全方向対応のつり鐘タイプにしたのだ。


そしてバレットフラワーのそばまで行き、上から肉貼ったつり鐘を被せる。


シーン…


「どうした?」


ロッカ達は離れた所から声を掛ける。


「いや、もう種が飛んだ後の奴かもしれない。なんにも反応が無いわ」


そういうとハンナリーがテテテとこっちに来た。そしてつり鐘に耳を当てた瞬間、


チュドドドドドッ


「うわあっ」


つり鐘の中で種が飛んだ音がしてハンナリーは尻もちを付いた。


「あんたっ うちを驚かすつもりで嘘付いたやろっ」


「違うわ。どうやら花にもっと近付かないとダメみたいだな」


種が飛ぶのは本当に花に近付いた時のようだ。何を感知してるんだろな?


念の為プロテクションを張りながら花に近付いても種は打ち止めのようだ。つり鐘の中の肉を外すと、ハンナリーに攻撃したのがよく分かる。同じ方向に種が撃ち込まれていた。


「これなら栽培しても収穫が楽に出来るな。面白い発見だよ」


「どういうことなん?」


マーギンは今の状況を話し、つり鐘タイプでなくても良いかもと説明し、次からは正面だけ防御して、花の正面、横、後ろと見付ける度に試した。その結果、近付いた方向にだけ撃ち出されることが確定したのであった。


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