商業組合

ー商業組合前ー


げ、職人らしき人が20人ぐらい集まってる…


「おーっ、マーギン。ちゃんと来たか」


その中からガラス工房のリヒトが大きな声でマーギンの名前を呼び手を振る。


「何この人数?」


強面の職人達からこいつがマーギンかとか言われている。何も出来なかったら吊るし上げを食らうんじゃなかろうか?


「イードンとの契約で揉めた奴らの知り合いだ」


「これだけいるなら自分たちで交渉しなよ。異国人で無関係な俺がするよりいいと思うぞ」


「なぁに、心配すんなって。お前の後には職人が付いてる」


だからなぜ俺の後ろに職人がいるのだ?


「よっ、マーギン。ずいぶんと集まってんな」


「あ、ロドリゲス」


「俺の事はロドでいい」


愛称呼びさせるのか。まさか親近感を持たせて何かに巻き込むつもりじゃないだろうな?


「マーギン、誰だこいつは?」


「ハンター組合の組合長。ややこしくなりそうなら手伝ってくれるんだって」


「そういうこった。問題なかったら口を出すつもりはねぇから、俺の事は気にしないでくれ」


「お前、ハンター組合の偉いさんと知り合いだったのか?」


「世話になってる食堂の大将と仲間だったらしくてね、で、なんかたまたま付いて来てくれる事になったんだよ」


「そ、そうか。俺はリヒトってんだ。宜しくな」


「ロドリゲスだ」


あとはハルトランとも挨拶をしてから商業組合にぞろぞろと中に入ると受付がびくっとする。


「な、なんのご用件でしょうか?」


「あのさ、イードンと職人の契約の事で聞きたい事があるんだよ。ハルトラン、イードンの仕事を頼みに来た人は誰?」


「ミハエルという男じゃ」


「だって、ミハエルさんはいる?」


「は、はい。お待ち下さい。呼んで来ます」


と、呼びに行ってくれて、やって来たのは俺をハルトランに紹介してくれた人だった。


「皆さん、どうされましたか?」


「ミハエルさんに聞きたいことがあってね、ハルトラン工房にイードンの仕事を紹介したでしょ?」


「ええ、はい。あっ、あなたは魔法書店の…」


「マーギンです」


お互いに改めてどうもどうもと頭を下げる。


「て、何かありました?」


「イードンの商品に依頼主からクレームが付いたみたいでさ、その責任をハルトランに押し付けたんだよ。で、違約金を払えってなっててね」


「えっ?」


「俺が見た所はハルトラン工房の仕事はちゃんと出来てる。だから違約金云々の話は違うと思うんだよね。で、契約書も向こうがハルトランのサインをしたみたいだし、控えもないんだよ。組合が間に入って調停してくれないかな?」


「契約書の控えを渡されてないんですか?」


「そう。で、今回は職人たちがたくさん来てるだろ?」


「ええ、はい」


「この人達の仲間の職人も同じようにイードンに違約金を求められて、払えないから働いて返すようになってるみたいでさ、これも合わせて調査をお願い出来ない?」


「いや、あの… 組合はそのような権限は…」


「組合もハルトラン工房に無理を言って仕事を斡旋した責任があると思うんだよね。ミハエルさんはたくさん職人がいる中でハルトラン工房に仕事を斡旋した理由はあるの?」


「それは上から個人でやってる腕の良い職人を紹介…」


「なんですかこの騒ぎは?」


マーギンがミハエルと話をしている間も後から職人達がそうだそうだっ!とか大声を上げてマーギンを応援していたので受付嬢が誰かを呼んで来たようだ。


「あっ、主任。実は…」


ミハエルはマーギンが話した事を主任と呼んだ人に説明をする。


「お前がマーギンか?」


「そうですけど。あなたは?」


「私は商業組合の主任をしているハリイだ。ミハエルから話は聞いたが商業組合は関係ない」


「は?」


「契約はイードンと職人の間で交わされたもの。落ち度があるとすれば契約を交わした職人の問題であって組合は関係ない」


「それはそうなんだけどさ、個人で工房やってる職人って契約とか疎いんだよね。そういう人を助けるのも組合の仕事じゃないの?」


「そもそもお前は職人か?なぜ異国人がこの国の制度に口を出すのだ」


まったくもってごもっとなご意見である。


「今回はたまたま仕事をお願いしにいったら理不尽に責任をなすりつけられたのを知ってしまってね。その1件だけならそういう事もあるのかなとは思うど、そうじゃないんだよ。他にもいくつも似たような事例があって…」


「だから組合は関係ないと言っているだろうが。不利な契約でも合意したなら守るべきなのだ。あとからグチャグチャ言う方がおかしいっ」


まったく取り合おうとはしない主任。マーギンもイラッとし始めた所にロドリゲスがやって来た。


「マーギン、そいつの言うとおりだ。今日はもう帰るぞ」


「な、何言ってんだよ。このままじゃ…」


「いいから帰るぞ」


と、ロドリゲスは目で何かを訴えている。職人達は何勝手な事を言ってやがんだてめぇっとロドリゲスを責める。


「わかった。一度帰ろう」


「おいっ、マーギンっ」


「リヒト、取り敢えず出よう。他の人にも迷惑掛けてるし、このままだと職人の方が悪く見られちゃうよ」


「しかしだな…」


「お願い、リヒト」


マーギンが真剣にそう言った事で皆は渋々商業組合を出たのであった。




外に出て組合から離れた所でロドリゲスがマーギンに話しかける。


「マーギン、問題のあった職人達はリストにしてあるんだな?」


「あるよ。これがリスト」


ロドリゲスはそのリストを眺めたあと、


「後は任せとけ。それと仕事の受け入れ方法を考えとけ」


「受け入れ方法?」


「イードンから職人が戻って来ても今後イードンからの仕事は誰も受けねえだろ?」


「そりゃあね」


「で、売る店が無くなったら職人の仕事もなくなるんじゃねーのか?仕事の新規開拓とか誰がやるんだ?」


「他の魔道具を扱ってる店とかあるじゃん」


「他の魔道具店の取引先工房はだいたい決まってんだろ?あぶれた職人の仕事まで回ってくるのか?」


「それはわかんないけど…」


「だからその打ち合わせをしとけ。職人が戻って来たくても戻って仕事がなければイードンに居続けるしかねぇだろうが。一度自分の工房を離れたら元に戻すのが大変なことぐらいわかるだろ」


「それはそうだけど、俺がやることか?」


「ここまで絡んだんだ。最後まで責任を持て」


「絡みたくて絡んだわけじゃ…」


「あと組合になにか要望はあるのか?」


こいつも話を聞きやしねぇ…


「魔道具や回路の特許制度の制定とかかな」


それはなんだ?と聞くので説明する。


「わかった。じゃ、お前らはもう帰れ」


とロドリゲスに解散させられてしまった。


「リヒト、この前の食堂に行ってそこで話そう」


マーギンはモヤモヤと怒りが収まらない職人達を引き連れてこの前の食堂に行ったのであった。




ー商業組合ー


「よぉ、ねーちゃん」


ロドリゲスは受付カウンターに肘をつきながら受付嬢に絡むように話しかける。


「ね、ねーちゃん…?」


「俺はロドリゲスってもんだけどよ、ジムケインを呼んでくれ」


「ジムケイン… 組合長の事ですか?」


「そう、すぐに来いと言ってくれ」


「あ、あのどちらのロドリゲスさんでしょうか…」


「俺の名前を出しゃわかる。早く行け」


ロドリゲスは自分の部下のように商業組合の受付嬢にさっさと行けと命令した。



「く、組合長。ややこしい人が来てます」


受付嬢に思いっきりヤカラ扱いされているロドリゲス。


「は?そんなもの受付で対応しろ。わざわざ言いに来るな」


「ロドリゲスって方が組合長を呼べと…」


「なんだとっ…」


険しかった顔がさらに歪むように険しくなる組合長。


そして、ドタドタっと足音を立てて下に降りて行った。



「よぉ、ジムケインちゃん。久しぶりだなぁ」


「貴様っ、何をしにきたっ」


「おー、おー、つれないねぇ。いい話をもって来てやったんだ。お前の部屋で飲みながら話そうや」


「私の部屋に酒など置いてないっ」


「なら、俺のとっておきをご馳走してやろう。ほら部屋に案内しろ」


ロドリゲスはジムケインに肩を組んで上へ上がろうとする。


「やめろっ。馴れ馴れしいぞっ」


(俺の話を聞いたほうがいいぞ。このままだとお前は失脚する)


ロドリゲスはジムケインに耳打ちをした。


「なにっ?」


「ま、俺が嫌いなら追い返せ。どうする?」


ロドリゲスは肩を組んだままニヤニヤとジムケインの顔を見る。


「ちっ、こっちだ」


「ジムケインちゃん、素直じゃねぇなぁ。皆の前だからって照れんなよ。俺とお前の仲じゃねぇかよ」


「うるさいっ、さっさと来い」


「皆の前だと偉そうにしてんのな。12歳までおねしょ…」


「早く来いっ」


ロドリゲスとジムケインは幼馴染であったが、ジムケインはロドリゲスが嫌いで仕方がなかった。昔の弱みに付け込んでいつも嫌な事を押し付けてくるからだ。


職員達は組合長が怪しげな眼帯の男に脅されているのではとざわざわしていたのであった。



「で、なんの用件だ?」


「ほら、お前も飲めよ」

 

ロドリゲスは先に口を付けたポケットウイスキーをジムケインに差し出した。


「いらんっ。さっさと用件を話せ」


「お前ん所の主任、ハリイだっけか」


「それがどうした?」


「調査しろよ」


「は?何が言いたい」


「お前ん所には隠密みたいな調査員がいるだろ?」


「なぜ知っている…」


隠密的な調査員の事は極秘事項である。


「どうして知ってるかは置いといて、イードン魔道具店とハリイって奴を調べろ」


「なぜだ」


「うちが調べて公になったらお前の首が飛ぶだろ?内部調査で内々に処理する時間をやるっていってんだ。ほらよっ」


「なんだこのリストは?」


「後は自分で調べろ。一週間待ってやる。それを過ぎたらうちのを動かすからな」


「なんの為に動いている?」


「ちょいと訳ありでな。近々まずいことが発生する。その時に力を借りないとダメな奴がいてな。そいつへの貸しを作っとかなきゃならんのだよ」


「ちっ…」


「それとこれはお前への貸しだからな」


「要求はなんだ?」


「お前、特許って知ってるか?」


「なんだそれは?」


「魔道具や回路を開発した奴の保護だとよ。新しい物を作ってもパクられたら商売にならんだろ?開発した物を組合で登録して、同じものを使いたい場合は開発したやつに金を払うシステムだってよ。詳しくはマーギンって奴に聞け。ミハエルって奴を窓口にすりゃいいんじゃねーか」


「それで貸し借り無しなんだな?」


「ま、いいけどよ。ボサッと仕事してっとまた貸しが増える事になんぜ」


「うるさいっ」


ロドリゲスは口を付けたポケットウィスキーをポンとジムケインに投げて部屋を出たのであった。



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