子供達の忠告は聞いておく

「おーいてててっ」


「自業自得ね」


マーギンをゴミを見るような目でみるシスコ。


「なぁ、それより魔道具を作ってる職人とかしらないか?」


「私に聞いてる?」


「ロッカとシスコ両方にだ」


「売ってる所は知ってるけど、職人は知らないわ。なんならフォートナム商会でも魔道具は扱ってるけど?何か買うのかしら?」


「いや、多分俺の欲しい魔道具は売ってない。だから職人に作ってもらいたいんだよね」


「私も魔道具職人は知らぬな。商業組合で聞いてみたらどうだ?」


「商業組合か、なるほどね。今日の訓練はお前らだけでやってくれるか?俺は商業組合にいってくる」


「急いでいるのか?」


「タイベに行くときまでには完成さたい」


「魔道具を持っていくのか?」


「お前ら、タイベまで行く時の飯はどうするつもりにしている?」


「携行食は持っていくつもりだが?夜は村か町に泊まるだろ?」


「そうか、なら飯は各自でと思っていていいんだな?アイリスも補助役でそっち組で」


「構わんぞ」


「なら俺は自分とカザフ達の飯だけ考えておくぞ」


「あぁ。わかった」


「なら、商業組合は今日じゃなくてもいいわ。訓練しに行こう」


ということで森に向かう。外に出るとめっちゃ寒い。少し雪まで積もってやがる。



「雪降ったんだな」


「昨日の帰りにはチラついてたからな。これぐらいで済んで良かったが、今年は雪も多そうだな」


王都は冷え込みはするがあまり雪は降らない。が、今年はどうなるかわからんな。


森に着くともっと雪が積もっていた。


「さっびいぃ」


ちゃんとした服を着ていても震える子供達。しかし、ハンターになるということにも慣れておかねばならない。


「アイリス、お前は着火魔法をもっと遠くまで飛ばす練習をしておけ」


「マーギンさんは何をするんですか?」


「薪を作ってくる。このまま雪が積もると薪の採取は絶望的になるからな」 


薪を扱う店は木を切って、1〜2年寝かせて薪にする。薪を自分で自分調達する人は枯れた木を拾ってくるのだ。


大将の話にあった薪が足りなくなっているということは業者もストックが無いのだろう。自分で拾いにくる人も雪が積もると乾いた薪を確保するのは絶望的だ。貧民街の住民とか凍死者が出るかもしれん。


「マーギン、俺達はなにするんだよ?」


「俺が薪を作るから、それを集めてくれ」


「どうやって作るんだ?」


「薪を作る魔法ってのがあるんだよ。木が薪になるから、それをマジックバッグに詰めていってくれ」


「オッケー、楽勝だぜ」


マーギンは魔道具のチェーンソーで木と木が込み入った所を間伐するように切り出した。


「そっちに倒すから俺の所に来い」


子供達がこっちに来たのを確認して木を倒す。


めきめきめきっ ずっずーん


倒れた木に魔法を掛けると一瞬で薪になる。


「すっげぇぇ」


「ほら、雪で濡れない間に集めてくれ。ここにバッグを置いとくからどんどん入れろ」


「こんなもんに入んのかよ?」


「入るから入れろ。俺は次の木を倒してくる。さっさとやらんとどんどん次の薪が溜まっていくぞ」


「わ、わかった」


こうして、マーギンは何本も倒しては薪にしていく。昼飯を挟んで門が閉まる時間近くまでやり続けた。


「疲れたっー」


「よし、走って帰るぞ」


今日はギリギリの時間ではないので、アイリスも走らせる。


「身分証」


門に到着すると身分証の提示を求められた。あれ?バアム家の客人扱いの話はどこへ?まぁ、いいか。


マーギンが金を払おうとすると、マーギンさんは大丈夫ですと言われる。


「この子たちの分か?」


「はい」


「お前ら身分証って持ってるか?」


「そんなのあるわきゃねーだろ?俺たちゃ孤児だぜ」


「門番さん、孤児の身分証ってどうやって手に入れるんだ?」


「市民なら成人の儀でもらえる成人の証が身分証になります。それまではありません。もしくはハンター登録するかです」


なるほど。


「ハンター登録まだだから、今日は入国料を払うよ」


と、3人分お支払い。



「マーギン、ハンターで稼げるようになったらちゃんと返すぜ」


「そうか、楽しみにしてるわ」


そんなもんいらんと言いかけたが、ちゃんと返すと言って来た事が微笑ましい。人としてそういう事は大事だからな。



「シスコ、明日朝にお前らの家に行くからフォートナム商会への付き添い頼むな」


「わかったわ」


「マーギン、なんか食って帰るか?」


「俺はちょっと寄りたい所があるから今日は遠慮するわ」


「そうか、じゃあまた明日な」


と星の導き達と別れた。



「マーギンどこに行くんだ?」


「孤児院に行く」


「げっ、なにしに行くんだよっ」


この3人は孤児院から逃げ出したから顔を出したくないようだ。


「嫌なら家で待ってろ」


「い、嫌じゃねーけどよぉ」


別に嫌なら来なくていいのに結局付いてきた。



ー孤児院ー


「すいませーん」


「はい、このような時間になんでしょう?」


対応してくれたのは年配の女性。


「孤児院って薪は足りてますか?」


「い、いえっ、この冬はまったく足りておりません。このままでは子供達が冬を越せるかどうか…」


だろうな、孤児院の扉が開いたら冷気が漂ってる。外より寒いんじゃなかろうか?


「あら?あなた達もしかして…」


「し、シスター。久しぶり…」


「まぁまぁまぁまぁっ、あなた達生きてたのねっ。良かったわっ。急にいなくなって心配で心配でっ」


逃げ出した時より大きくなったカザフ達を抱きしめるシスター。


「ご、ごめんなさい。でも俺等は悪いことせずにちゃんと生きてたぜっ。それにもうすぐハンター見習いになるんだっ」


「そうなの、そうなの、立派になってくれてよかったわ。今はどこにいるの?」


「この人の所で世話になることになった。ハンター見習いの間も働ける所を紹介してくれたから3人ともそこで手伝いするんだ」


「そうなの、本当によかったわ。あの、あなたはどちらの?」


「まぁ、俺の事は気にしないで下さい。で、薪が足りないならお渡ししようと思って来たんですけど、薪置き場はどこですか?」


「まあっ、助かります。ではこちらにお願いします」


と、孤児院の裏の小屋に案内される。


「全然ないじゃですか」


「え、えぇ… 本当に」


「よし、お前ら。薪を出すからここに全部積んでいけ」


「オッケー」


マーギンはマジックバッグの中からドサドサドサっと薪を出していく。


「こっ、こんなにたくさんっ」


「炭置き場はありますか?」


「炭も頂けるのですか?」


「かなり硬い炭なので火がつきにくいと思います。いつも使ってる炭に混ぜて使って下さい」


「えっ、えぇ…」


そして炭置き場もほぼ空っぽ。これ、かなりヤバがったんじゃないのか?


炭置き場も満タンにしておく。ノーマル炭も必要だなこれ。シスターに炭の違いを説明する。


「こんなにたくさん宜しいのですか?」


「あと、肉と野菜もおいていきますから子供達に食べさせてやって下さい。パンはここでも作りますか?」


「えっ、ええ、はい」


マーギンは手持ちの普通の肉と野菜、小麦粉、塩を倉庫に出した。



「あと何か必要なものはありますか?」


「これだけあればこの冬は大丈夫です。ありがとうございます、ありがとうございます」


「マーギンっ、全部詰まったぁ」


「おう、ご苦労」


「マーギンさん、火をつけて帰りましょうか?暖炉の火もついてないですし」


「そうだな。じゃ、頼む」


孤児院の中の暖炉に薪を組んで、周りにも予備をたくさんおいておく。部屋の片隅で粗末な服を着た子供たちが隠れるようにじーっと見ているが近寄ってはこない。


ごうぅぅぅぅっ


アイリスはバーナーで薪を炙る。それを見てヒッと驚く子供たち。


「もういいぞ。後は少し風を送ってやるから」


火がついた薪に風をそっと送り込み、薪が燃えだしたら強めに送る。


炎が大きくなったのでもういいだろう。



「さ、次に行くぞ」


何度も頭を下げてお礼をいうシスターに手を振って出発。


「どこに行くんだ?」


「貧民街に広場があるだろ?あそこに薪を置いといてやろうかと思ってな」


「それ、止めといた方がいいぜ。薪がなけりゃ崩れた家とかを崩して持ってくるから。これだけ薪が足りないって時にそんなの置いたら奪いあいになるぞ」


「広場で燃やすだろ?」


「甘いね。薪を持てるだけ持って売りにいくに決まってんだろ?それで酒に替えて終わり。下手したら薪の奪いあいで死人が出るぞ」


「マジか?」


「マジ。貧民街以外で盗みを働いたらとっ捕まるけど、貧民街の中で悪いことしても衛兵も知らん顔だ。俺達が取ったネズミを焼いてたら蹴られて取られたりもする。あいつらそんな奴しかいねぇんだよ」


カザフの言う事はもっともかもしれん。ここは忠告を聞いておこう。


「わかった。なら貧民街に行くのは止めてリッカの食堂で食って帰るか」


「さんせーっ」


で、皆は肉料理をもりもり食べた。


「ダメだ、口から肉が出る…」


お前ら学習しろよ。


ぽこたん腹をさすって動けない4人。アイリスも俺と二人ならここまで食わないけど、カザフ達といるとつられて食うのだろうか?


「マーギンも他の人の注文ならたくさん頼むのね」


「こいつらこれから育ち盛りだからな。たくさん食わさないと大きくならんだろ?」


「ふーん、マーギンはお代わりいいの?」


「いやもう大丈夫。こいつら見てるだけで腹いっぱいになった」


お支払いをして子供らを引きずるようにして帰っていくマーギンをリッカは見送る。


「もう、親子よね、親子」


「だね、マーギンの歳ならあれぐらいの子供が居てもおかしくないんだ。アイリスはあんたと同じ歳だけど、まだ子供みたいに見えるしね」


「その点、私はちょっと成長して来たわよ」


「本当だね、下着買い直さないと。あんた成人するんだから、これからは自分で買うんだよ」


「えーーっ」


「これから何度も買い直すハメになるんだから、頑張って手伝う事増やしてお金貯めとくんだね」


「お手伝い増やすって後はなにすればいいのよっ」


「それは自分で考えておくんだね。あの子らが手伝いに来たら、仕事減るだろうから給料も減る覚悟をしときな」


「なっ、なっ、何よそれっ。マーギンがあの子らの給料はお小遣い程度で良いって言ってたじゃないっ」


「あんたの給料から3人分のお小遣いが減るんだよ?1人1万Gとして、月に3万かしらねぇ」


「嘘っ…」


「給料をなんやかんやおやつ買ったりして使っちまうからだよ。これからは節約していくんだよ。そうしないと家賃も取るからね」


「ゲッ」


「大人になるってことはそういうことさ。良いことばっかりじゃないんだよ」

 


リッカは早く大人になりたいと思っていたが、成人すると責任というものがのしかかって来ることをちゃんと理解していなかったのであった。


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