パンが足りない

「ピアスぐらいなら加工してやれるけど、小洒落たやつは無理だぞ」


「私は家の取引先の所にそのうち頼むわ。ロッカも同じ所で頼む?」


「親父が打ってくれている剣に付けてもらうつもりだから大丈夫だ」


ロッカはアクセサリーにするんじゃないのね。


「うちはこれはこのまま持っとく」


「加工しないのか?」


「ペンダントとかしてたら邪魔だろ?」


じゃあなんのために欲しかったんだよ?とは聞かないマーギン。



その後、バネッサは宝石を見ながら酒を飲み、時折笑う。こえーよ。


「つまみを他のにする?酒は他のもあるし、こいつをオレンジジュースとかで割ってもいいけど」


「ジュースと割って旨いのか?」


「まぁ、好き好きだな。ジンジャーエールで割ってもいいぞ」


「ジンジャーエールってなんだ?」


「生姜のソーダだ。オレンジジュースで割るよりスッキリする」


「げっ、じゃあうちはオレンジジュースにする」


「私はそのジンジャーエールっていうのにしようかしら」


「では私もそれにしよう」


ロッカとシスコはジンジャーエール割、俺とバネッサはオレンジジュース割だな。ツマミは炙ったチーズにしよう。


酒を作り、オルターネンにもらったチーズを薄く切って炙る。


「旨ぇっ」


「だろ?でも飲み過ぎんなよ。結構酔うからな」


「こんなの平気だって」


酒のおかわりを自分で作るバネッサ。ちょっと濃いな、薄いなとかいいながらどんどん足して飲んでいく。大丈夫だろうか?


「生姜のジュースって結構美味しいのね」


「ジュースの元を作っとけば、ロッカがいるから飲みたい時に飲めるぞ」


と、シスコにジンジャーエールの元の作り方を教えておく。


「あー、なるほど。元を作って、ロッカに炭酸を出して貰えばいいのね」


「そう。レモンのハチミツ漬けとか、ジャムとかなんでもいいんだよ。まとめて作っとけばすぐに飲める。酒に漬ければレモン風味とかになるしな」


「温度調節の出来る水魔法だけでも良かったじゃないと思ってたけど、炭酸も付けておいてもらってよかったわね」


「家で飲める酒の種類が増えるな。マーギン、このラム酒ってのはどこで売ってる?」


「この国で売ってるかなぁ?これは昔もらった奴なんだよね」


「そうなのか?」


「たまたま魔物討伐した時の支払いというかお礼にもらったんだよ。地元で飲まれている酒だといってね」


「原料は何から出来てる?」


「サトウキビ。砂糖になる元だよ。この国の砂糖って砂糖大根から出来てるだろ?」


「サトウキビは聞いたことがあるがこの辺で育てている所は知らんな」


「南国の植物だからね。もしかしたらタイベに行けばあるかもよ。ラム酒とは違うけど、ライオネルに近い町でミード売ってるからそれでもいいんじゃない?」


「あぁ、ミードか。そう言えばあの町はミードが安かったな。今度タイベに行く時か帰る時に買うか」


「そうだね。よく飲むなら樽で買えばいいよ。俺のバッグに入れてやるから」


「それは助かる」


と、話しているうちにバネッサが酔いつぶれて寝ていた。


「だから飲み過ぎんなって言ったんだよ」


マーギンは寝たバネッサを抱き抱えてソファに寝かせておく。


「いつもは潰れるほど飲まんのだがな」


「この前も酔っ払って寝ただろうが」


「この前も珍しいなとは思っていたのだ。家で飲んでも潰れることはない」


「飲んだ事がない酒だからじゃないか?ジュースで割ると飲みやすくて飲み過ぎるんだよ」


「そうかもしれんが、安心感があるのかもしれん」


「安心感?」


「あぁ、いつもバネッサは寝る時には身を守るように小さくなって寝る。それが今は普通に寝ているだろ?」


「酔い潰れたからじゃないのか?」


「多分、安心して眠ってるんだと思う。あいつは父親が居たとはいえ、孤児みたいな育ちをしているからな。そういう寝方が染み付いているのだろう」


そういえばミスティも出会って何年かの間は小さく丸まって寝ていたな。それがだんだんと大の字になって寝るようになって、テントで邪魔だったな。


「で、ちゃんと連れて帰るんだろうな?」


「ずいぶんと幸せにそうに寝ているからな。このまま朝まで寝かせてやってくれないか?」


え?


「捨てて帰んのかよ?」


「私らが寝るスペースはないだろ?」


「置いていかれたら俺の寝るスペースも無いんだけど?」


「なんなら、添い寝してやってくれてもいいんだぞ」


と、ニヤニヤ笑うロッカ。


「アホか」


「ま、今夜だけ頼む。バネッサのあの幸せそうな顔を邪魔してやるのは気が引ける。あのピアスとやらも相当嬉しかったのだろう」


「俺はどこで寝るんだよ?」


「ここの床はなぜだか温かい。十分寝られるではないか」


床暖にしてあるからな。もうロッカはバネッサを連れて帰る気はサラサラなさそうだ。しょうがない、コタツを出して寝るか。


「わかったよ。明日はどうする?」


「朝に迎えに来る。その後訓練はどうだ?」


「わかった。じゃ預かるけど、バネッサの貞操がどうなっても知らんぞ」


「その時は嫁にもらってやってくれ。祝福する」


マーギンはまたアホかと突っ込むのであった。



ロッカとシスコが帰った後に幸せそうに眠るバネッサを見る。


「安心して寝ているか… ま、たまにはしょうがないな」


マーギンは子供達の様子を見に地下室に行くと、3人ともちっさくなり寄り添って寝ている。暖房も入っているので寒いわけではなさそうだ。


子供達に洗浄魔法をかけてから風呂に入る。


「最後はシスコが入ったんだっけな」


綺麗に片付けられた浴室。シスコの育ちの良さがよくわかる。


風呂から出たマーギンはコタツに入り、明かりを消して寝たのであった。



ー翌朝ー


なんか足が重い…


違和感を感じて起きたマーギン。ふと中をみると、アイリスがコタツの反対側から入ってマーギンの足の上に足を乗せていた。


「重いぞアイリス」


「こうしてると足が楽なんです」


「俺の足がいじいじするから下ろせよ」


と、マーギンは足を震わせてアイリスの足を落とす。


「もうっ」


「もうじゃねーっ。コタツに入るなとは言わんが足を乗せるな」


マーギンが大きな声を出したのでソファに寝ていたバネッサがうーーん、と言いながら目を覚ました。


「あれ、皆帰ったのか?」


「もう、朝だ朝。お前はここに捨てられたんだよ」


「えっ?」


「お陰で俺は床で寝るハメになったろだうが。だから飲み過ぎんなって言ったんだよ」


「うちはマーギンの家に泊まったのか?」


「そこで今まで寝てただろうが」


「なっ、なっ、なんかしたのかっ」


「胸を揉みしだいても起きなかったぞ」


「こ、こ、このスケベやろうっ」


「宿泊代だと思っとけ」


「マーギンっ、腹減ったーーっ って、おっぱいがなんでいるんだよ?」


朝から元気な3スタン達。


「こいつは酔い潰れて今までここで寝てたんだよ。朝飯作ってやるから顔洗ってこい。バネッサもな」



子供達と一緒に胸を抑えながらマーギンを睨み付けて洗面所にいくバネッサ。


さて、パンはぶどうパンにしておいてやったけど足りるだろうか?


いつもは5枚切りにしてんだよなぁ。6枚切りにしたらあいつらが食べたりないかもしれん。米も炊いときゃよかったな。


俺はおかずだけでいいか。


焼けたパンを5枚に切り、軽くトーストしてからバターを乗せておく。おかずはベーコンエッグとスープだ。


顔を洗った皆は食卓に。


「マーギン、気持ち悪いから飯は食えねぇ」


バネッサは二日酔いのようだ。飲み物はハチミツレモンにしてやろう。


「だったらこれ飲んどけ。ほら、お前らはがっついて食うなよ」


「わ、パンに干しブドウ入ってんじゃん」


「お前らが好きそうだからぶどうパンにしといてやったんだ。あわてて食うなよ」


と言ってるのにがっつく3人とアイリス。


「やっぱ食う…」


バネッサも気持ち悪いくせにぶどうパンと聞いて食べたくなったようだ。


「食ってもいいけど、吐くなよ?」


「食いもん吐くとか勿体ないことするわきゃねーだろ」


ガキ共と同じセリフを言うバネッサ。


「マーギンお代わりーっ」


「パンはもうないから、スープ飲め」


「えーっ」


こいつらは育ち盛りだからこれからもっと食うかもしれんな。パン焼き機1つじゃ足らんようになるな。回路は組めるけど物をどうすっかなあ。手でこねて作れなくはないけど、毎日毎日作るのは無理だからパン屋で仕入れておくか。米にしてもいつまでも在庫が持つかわからん。米の在庫をみると精米済が3袋で約90キロ、籾種が1袋分、もち米が30キロか。


「アイリス、タイベでは普通に米は売ってるんだよな?」


「はい、お米屋さんがありますよ」


アイリスの話によるとタイベで食べられている米は玄米っぽいからな。だとすると精米機も作らにゃならん。前に作った精米機はミスティの研究室に置きっぱなしだったんだよな。


「バネッサ、魔道具を作ってる場所を知ってるか?」


「知らねーよ。スケベが気安く話しかけんな」


寝ている間に胸を揉みしだかれたと聞いたバネッサは二日酔いもあって機嫌が悪い。


「マーギンさんは朝ご飯食べないんですか?」


「昨日飲みすぎたせいか、あまり食欲がなくてな。スープだけでいい」


パンが足りなかったとか言うと気にするだろうからな。


そして皆も食べ終わり、魔法でも食器は洗えるが、子供たちに洗わせる。これもこれから必要なことだ。


全部洗って片付けた時にロッカ達がやって来た。


「バネッサ、よく眠れただろう」


「聞いてくれよロッカ、マーギンの野郎、寝ているうちの胸を揉みやがったんだ」


「ほう、良かったではないか」


「なっ、何が良いんだよっ」


「これでお前の嫁ぎ先が決まったようなものだ。マーギンの嫁なら一生食いっぱぐれがないぞ」


「だっ、誰がマーギンの嫁になんかなるかっ」


「あら?あなたみたいな娘が嫁げるなんて奇跡よ。良かったじゃない」


「う、う、うちだってそのうち誰かと結婚出来るかもしんねーじゃねーかよっ」


「例えば?」


「お、オルターネン様とか…」


バネッサがそういうと、ロッカとシスコが大笑いした。


「なっ、何がおかしいんだよっ」


「バネッサなんかと貴族のオルターネン様と結婚なんて天地がひっくり返ってもないわよ」


さらに大笑いするシスコ。


シスコ、それは事実だが、なんか呼ばわりされると傷付くんだぞ。


「シスコ、あんまりバネッサをいじめてやるな。それとマーギンもバネッサをからかうな。本気にするだろうが」


「え?」


「マーギンがそんなことするわけないでしょ?もしする気なら、胸どころじゃすまなくてよ」


「え?マーギン、冗談なのか?」


「今からやってやろうか?」


バキっ


いやらしい手付きをバネッサにしたマーギンはグーでいかれたのであった。


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