子供達と星の導き
「よく分かってないのか?」
「だから俺は努力して魔法が使えるようになった訳じゃないって言っただろ?勉強もろくにしてこなかったから知識が薄いんだよ」
「色々と詳しいではないか?」
「自分で体感してきたことと、自分が興味のあったものはね。それと教えてくれる人が良かったから詳しくなっただけだよ」
「免疫というのが悪さをするのか…」
「うん、イメージとしては身体の中に騎士がいると思って。身体は城みたいなイメージで」
「うむ」
「で、悪者が入ってきたら騎士が退治するだろ?その騎士が免疫」
「それはわかりやすいな」
「で、次に来た新顔の余所者が来ても騎士達は客なのか悪者かどうか分からない時もあるんだよ」
「ほう、見抜けなかったわけだな?」
「そうそう、で、そいつが悪いことをして初めて悪者だと分かる。でも見たことの無い戦法で戦ってくるから対処が遅れる」
「ならば次に来た時には騎士達は見抜けてやっつけられるんだな?」
「そう。でも騎士はいつもやってくる悪者に手が一杯で、次にそいつ等が来た時に手が足り無いから傭兵を雇う。その傭兵が獲得免疫ね」
「ふむ、で?」
「その傭兵は城内にいる人に詳しくなかったりするんだよ。だから、本来は悪者ではない人を悪者だと勘違いして斬ったり、悪者が一杯いると勘違いして手当たり次第斬っていく。これが免疫暴走ってやつ。人の身体でそれが起こるとショック死したり、身体のあちこちが傷んだりするんだ」
「その傭兵は解雇できないのか?」
「そこが本当の騎士と傭兵ではない所。解雇には出来ないから城内に残り続ける。徐々に辞めていって減るやつもいる」
「なるほどな」
「治癒魔法を使うと、騎士も増えるし、傭兵も増える事がある。だから使い方が難しいんだよ」
「治癒師はそれを知っておるのか?」
「知らないと思うよ。知っていても対処が出来ない。出来るとすれば様子を見ながら異変が起きないように治癒するしかない。つまり経験が必要なんだ」
「魔法も万能ではないのだな」
「うん、そうだね…」
「マーギンっ、無くなった!」
ヘラルドとオルターネンと話をしている間にチーズフォンデュを食い尽くしたようだ。
「まだ食えるのか?」
「食いだめしとかねーと寒さに耐えられんからな」
もう一度チーズフォンデュの準備をし直すのは非常に面倒臭い。
「唐揚げ食うか?」
「食べるーっ」
ということなので、下準備をしてある唐揚げとポテトを揚げて、大人達もつまみとして食べたのだった。
「ご馳走になったな」
「こちらこそチーズをありがとう」
「マーギン、ペンダントが出来たら連絡をくれ。今のところ魔力暴走と思われる患者はおらんから急がん」
「了解。ちい兄様、剣技会頑張ってね。ローズにも勝てることを祈ってると伝えておいて」
「わかった。次に来る時は結果を伝える」
二人が帰るのを見届けて家に入ると、アイリスを含め3スタンも寝ていた。
マーギンはアイリスをベットに運び、3スタンに毛布を掛けてやる。
俺が寝る場所ねーじゃんかよ…
マーギンは3スタンのこれからの為に、小さな地下室に拡張魔法を掛けて、部屋にしていくのであった。
ーオルターネンとヘラルドー
「マーギンのやつ、人助けに躊躇しておる割に孤児共の面倒を見てやってるようじゃな」
「あれは孤児か?」
「あの身なりを見りゃわかる。しかし、やつらの目は荒んでおらんかった。きっと不遇な境遇にも負けずにまっすぐ育っておるんじゃろ」
「マーギンがそうしたのか?」
「それは分からん。じゃがよう懐いとる所をみると可愛がっているのは確かじゃの。孤児ってのは荒んだ目をしとるか、びくびくしとるか、人生を諦めたような目をしとるやつが多い。あいつらにはそれがなかった。マーギンにも遠慮しとらんかったからいい出会いいだったんじゃろ」
「貧民街には孤児院も炊き出しもあるだろ?」
「そうじゃな。しかし、孤児院は手も金も足りん。任されている奴が私欲に走るやつもおる。炊き出しにしても飢えがマシになるだけで解決策にはなってはおらんのじゃ。その場しのぎというやつじゃな」
「なるほどな」
「それに孤児に一番足らんのは愛情じゃ。それは金でどうこう出来るものではない。あいつらはマーギンに愛情を貰っとるんじゃろうの。親を見るような目でマーギンを見ておったからの」
「マーギンが親か。あの娘も拾って来たみたいだからな」
「ワシには嫁じゃと自己紹介して怒られておったの」
「俺にもだ」
と二人は笑う。
「あの娘も嫁とは言っておったが、マーギンを父親みたいに思うておるのかもしれんの。甘え方が恋人に対してしとるような感じではないわ」
「そうだったな。今日も家に戻る時にマーギンはあいつをおんぶして走ってたぞ」
「そうか、面倒見の良い男じゃて」
「俺もそう思う。子供に対してだけじゃないからな」
二人はマーギンの話をしながら笑いあっていたのであった。
ー朝ー
「起きろ」
「ん?もう春か?」
「何寝ぼけてんだ。さっさと起きろ。飯にすんぞ」
「もう、朝ー?」
「本当だ、外明るくなってる」
暖かい所で寝たので爆睡をしたようだ。いつもは寒くて目が覚めるらしい。
「今日は買い物に行くぞ」
「俺等もか?」
「そうだ。服を買ってやる。後はお前らの持つ武器と防具のサイズも測るからな」
「えっ?マジでっ」
「ハンター見習いになる祝いだ。あと、お前らの部屋を作ってやったから見に来い」
マーギンは3人を連れて地下室へ。
「ここで寝泊まりしろ」
「いいのかっ」
「今年はめちゃくちゃ寒いだろ?多分もっと寒くなる。獲物も取れなくなるだろうしな。それと前に飯食った飯屋があるだろ?そこの手伝いをしろ」
「わかった!」
「マーギンありがとう。大好きー」
やめろ、それされたら照れるんだって。
ロッカ達とは待ち合わせの約束はしていないが来るかもしれないといつもの場所で待っているとやっぱりやって来た。
「マーギンっ、オルターネン様は?」
バネッサは毎日オルターネンがいるとでも思っていたのだろうか?
「休みは昨日だけだ。次はいつ来るか分からん」
「ちぇっーっ、なんだよーっ」
「ロッカ、俺達は今日こいつらの買物をしてくる。その後に親父さんの所で防具のサイズを測ってくるわ」
「そうか、なら別行動になるな。では、8日のフォートナム商会へ行くのはどうする?」
「悪いけどシスコ付き合ってくれるかな?サイズがどうこう言われてもわかんないし」
「しょうがないわねぇ、で、宝石はいつくれるのかしら?」
あ、忘れてた。
「あーーっ、そうだった。マーギン早くどんなのがあるか見せてくれよっ」
「わかったわかった。じゃあ、夜にうちに来てくれ。外で出すのも宜しくないだろ?」
「飯はどうすんだよ?」
「マーギンっ、昨日のチーズを今日も食うのかっ?」
「なんだガキ、チーズってなんだよ?」
「ガキ言うな、おっぱいお化け」
「だっ、だっ、誰がおっぱいオバケだっ」
子供でも見るところは見てんだな。
バネッサは自分をおっぱいオバケ呼ばわりしたカザフを追いかけて捕まえようとするが、カザフはササッと逃げる。
「逃げんなこらっ」
「おっぱいがデカいから動きがにぶいんじゃねーのか?」
「なんだとっ」
素早いバネッサに負けずに逃げ続けるカザフ。素晴らしい、すばしっこいと思ってはいたがこんなに動けるのか。
カザフを見てロッカもほう、と関心をしている。
「お前らいい加減にしろ。予定決まってんだぞ」
バネッサはロッカに捕まり、カザフはマーギンに捕まった。
「放せよロッカ。あのクソガキにギャフンと言わせてやる」
「いい加減にしろ。子供相手に本気になるな」
「そうだそうだ。その兄ちゃんの言う通りだっ」
ゴスッ
ロッカを兄ちゃん呼ばわりしたカザフは脳天チョップを喰らう。
「まー、マーギン。こいつらを宜しく頼む…」
そう言い残してカザフは倒れた。
「ロッカ、子供相手に無茶すんなよ」
「す、すまん。軽く小突いたつもりだったのだが… しっ、しかし人を男呼ばわりしたこいつが悪いのだっ」
「そりゃそうだけどさ」
3スタンに取ってはこんなのが日常なのかタジキも動じず、トルクはシスコをじーっと見ている。
「あら、どうしたの?」
シスコに声をかけられたトルク。
「おねーちゃん 可愛いねー。貴族様?」
キュン
「ちっ、違うわよっ」
お前、一瞬トルクにキュンとしたろ?
「カザフ、起きろ。あのおねーちゃんに謝れ。凄い美人なのに男呼ばわりしたら怒られんの当たり前だろ」
実は死んだふりをしていたカザフ。
「私が美人だと?」
すかさずタジキの言葉に反応したロッカ。
「うん、美人で強そう。めっちゃかっこいい」
「そ、そうか」
とても嬉しそうなロッカ。
「ま、マーギン。こいつらの服はどこに買いにいくのだ?」
「サイズがすぐに変わるだろうから中古服でいいかと思ってる。ハンター見習い登録もするから動ける服と、リッカの食堂の手伝いもさせるからそれ用の服も必要だな」
「ハンター見習いになるのか。なら良い店がある。付いていってやろう」
「私はシスコ、君の名前は?」
「トルク。さっきやられたのはカザフでー、こいつはタジキ」
「そう、お姉さんも一緒に買い物に行こうかな」
「ほんとー?じゃあ一緒に行こう」
トルクはすっとシスコに手を出す。シスコもその手を取り繋いだ。なんか嬉しそうだな。
「けっ、うちは行かねーよ」
「バネッサ、拗ねんなよ。ほら」
マーギンがトルクと同じようにバネッサに手を出してみる。
「誰がマーギンなんかと手をつなぐかっ」
本気で手を出したわけではないが、なんか呼ばわりされて拒否されたら結構傷付く。
「じゃ、私がつなぎましょう」
と、アイリスが手を握ってきた。相手が子供とはいえ、手をつなぐのはなんか照れる。
「バカっ、恥ずかしいからやめろっ」
「えーっ、マーギンさんの手は暖かくってちょうどいいのに」
人をカイロ代わりにすんな。
「手が冷たいならポケットに突っ込んどけ」
「ではバネッサは行かないんだな?」
ロッカが確認する。
「なんでそんなガキ共の買い物に付き合わなきゃなんないんだよっ」
「じゃあバネッサだけ別行動だな」
「やーい、おっぱいだけ仲間はずれーっ」
「なんだとっこのクソガキっ」
「へっへーん ベロベロバー」
プチンっ
「殺すっ」
カザフにキレたバネッサ。逃げるカザフ。二人は勝手に走っていってしまった。
「ロッカ、あいつらどうする?」
「バネッサも行き先はわかるだろ。そっちへ追い込むから問題ない。しかし、あのカザフというやつはたいしたもんだな。バネッサの足に負けてないではないか」
「すばしっこいとは知っていたが、あそこまでとは俺も知らなかったよ。それにあいつら気配を消すのも凄く上手い」
「そうか、ならばハンターとして有望だな」
「少し仕込んだら、ダッドに面倒を見てもらう予定にしてんだよ」
話しながら歩いて服を売っている場所に向かう。店はハンター組合から近いそうだ。
「アイリス、歩きにくい」
「えー、ポケットなら良いって言ったじゃないですか?」
「自分のポケットに突っ込めと言ったんだ。俺のじゃない」
アイリスはマーギンのコートのポケットに手を入れていた。
「マーギン、こいつらを仕込むとは魔法を教えるのか?」
「いや、魔法はまだだな。教えるとしてもハンターの基礎が出来てからの方がいい。初めから魔法に頼ると良くないからな」
「では何をするんだ?」
「旅の心得とかかな。春になったらアイリスの故郷に行くんだよ。それに連れていく。ハンターになるなら違う場所も知っておいたほうがいいだろ」
「アイリスの故郷は南の領地タイベだったか?」
「そう。ライオネルまでは徒歩で行って、そこから船だね」
「馬車は使わないのか?」
「歩いて移動も修行のうちだよ。野宿も経験させるつもりだからね」
「タイベか… 私も行った事がないな」
「王都と食文化も違うみたいだし、気候も違う。ある意味外国に行くような感じになるんじゃないかな」
マーギンは楽しそうに話す。
「ずいぶんと楽しみにしているようだな」
「まぁね、俺にとっちゃ旅行みたいなもんだからな」
「旅行か、いいなそれ」
「なんなら一緒に来る?」
と冗談で誘ってみる。
「そうだな。一緒に行くか」
え?
「王都の仕事とか大丈夫なのかよ?」
「他にもハンターがいるから問題ない。今まで休みなく来たからたまにはいいだろう。タイベにも組合はあるだろうし、向こうで依頼を受けても構わない。気候が違うと魔物も違うだろうから楽しみだ」
てっきり誘っても無理だと言うかと思ったが… まぁ、アイリスを入れて子供達4人を一人で見るより、ロッカ達がいてくれた方が安心だな。
「じゃ、その予定にしておくよ」
「こちらも楽しみにしている」
「シスコとバネッサには確認取らなくていいのか?」
「とうせ来るなと言っても付いて来るだろう」
と、話しているうちに店に到着。バネッサとカザフは店の前でへたり込んでゼーハーしていた。
「お前、ガキのくせになかなかやるじゃんかよ」
「お前もおっぱいのくせに素早いじゃねーかよ。俺に付いて来れるやつなんかいないんだぜ」
「おっぱい言うな。恥ずかしいだろうがっ」
「しょうがねーなぁ、俺はカザフ」
「うちはバネッ…」
「そいつはケツだ」
「ケツ?」
「マーギンてめえっ。余計な事を言うなっ」
「お前ら店の前でヘタリこむなよ。迷惑だろうが。それにこんな寒いのに汗だくになってんなよ。冷えて風邪引くぞ」
「ケツが追いかけるからしょうがねぇだろ」
ゴツっ
「ケツって呼ぶな。うちはバネッサだ」
カザフはロッカチョップを喰らって出来たタンコブの上にさらにゲンコツをくらって悶絶していた。
「早く選べ」
「どれを選んでもいいのか?」
「構わんけど、動きやすいのにしとけよ。あと靴も何足か選べ」
服を買った事がない3人ははしゃぐが選び方がわからないのでシスコに教えてもらっていた。
「アイリス、お前も春にタイベに行くときの服を選んでおけ」
前に買ったのは普段着でハンター用の服ではない。普段着と呼ぶには高かったが。
「私もですか?」
「そうだ。もうすぐ正式登録するだろ?その時用だ」
「マーギン」
「なんだバネッサ」
「うちにも買ってくれよ」
「お前、稼いでんだろうが」
「そりゃそうなんだけどよ…」
バネッサは少し不貞腐れたかのような返事をする。もしかしたらこいつは誰かに何かを買ってもらった事がないのかもしれないな。
「わかったよ。好きに選べ」
「本当かっ」
「その代わり俺の前で着替えろよ」
「このスケベやろうっ」
ガスッ
お前、金欲しさに脱ぐとか言ってたじゃねーかよ。
バネッサは怒りつつも服を選びだした。
「すまんなマーギン」
代わりに謝るロッカ。
「別にいいよ。バネッサは誰かに何かを買ってもらった事がないんだろ?」
「そうだな。あいつはアイリスや子供達を見て羨ましかったんだろう。私達はパーティーメンバーで同等の立場だから甘える事は出来んからな」
「なんとなくわかるよ。それにここの服ならアイリスの成人の儀の時に比べたら安いもんだ」
「ここの服は作りがしっかりしているからそこそこ高いぞ」
「え?」
「中古服の店は違う場所だからな。そこに行くか?」
今さらここはやめて中古服の店に行くとは言いづらい。みんなとても楽しそうに選んでいるのだ。
「いや、ここでいいです」
そして長い時間を掛けて服を選び、お支払いは30万を超えていた。
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