ハアム家のことを話しておく
「マーギン起きろ」
気絶していて何も飲まず食わずのマーギンを大将が起こした。
「ほれ、今日の請求だ」
紙に書かれた請求は120万G
「高ぇじゃねぇかよ」
「うるせぇ、どれだけ皆が飲んだと思ってやがんだ。酒樽全部なくなったんだぞ」
周りを見渡すと、店内は散らかり放題。客は全員帰ったようだが、女将さん、リッカ、アイリスまで飲み潰れて寝ていた。
「リッカとアイリスにも飲ませたのかよ?もうすぐ成人の儀とはいえ未成年だぞ」
「知らねぇよ。俺が料理作りに追われてる間にいつの間にか飲んでやがったんだ」
「なら大将も飲んでねぇのか?」
「飯作り続けてたんだから当たり前だろ。ほれ賄だ。酒はいつもの安い奴しか残ってねぇぞ」
「俺はそれが好きだから十分だよ」
マーギンは大将と二人で賄を食べながらいつもの安酒を飲む。
「はい、大将。今日の支払い」
マーギンはドンドンっと金貨の入った革袋を出す。
「多いぞ。200万もあるじゃねーかよ」
「残りはリッカの成人の祝になんか買ってやってくれ」
「そんなのはお前が自分で買ってやれ」
「そんな事をしたら変に期待を持たせんじゃねーかよ。それに何を買ってやったらいいかわからんしな」
「何でもいいんだよ。お前から貰ったということが嬉しいはずだからよ」
そういうもんか…
「なら、俺からのプレゼントは別に考えるよ。残りは取っといてくれ。棚ぼたで900万も稼いだから金は十分ある」
「いいのか?」
「この店は利益ほとんどないだろ?リッカが成人したら金かかるぞ。嫁入り用に蓄えとか必要なんじゃねーのか?」
「馬鹿野郎。これでもハンターで稼いでた蓄えがあるわっ」
「はははっ、そうだったな。ま、でも残りは取っといてくれ。俺には過ぎた金だ」
「お前、本当に金に執着せんのだな」
「まぁ、それなりの物が食えて、安酒でも飲めれば十分だからな。この金はアイリスのハンター資格で手に入ったものだからアイリスに全部やると言ったら断りやがったんだ」
「何で稼いだ?」
「この時期に雪の花の採取依頼が出てたんだ。通常は1本1万らしいんだけど、10万の値が付いててね。手持ちがあったから100本納品した」
「流行り病が出てんのか?」
「いや、熱が下がらない貴族か金持ちの子供がいるんだとよ。解熱剤だけじゃ病気は治らんから延命処置みたいなもんだろ」
「そうか… 子供がなぁ… 可哀想なこった…」
「庶民の子供なら延命処置も出来ずに死んでいく。可哀想だとは思うけどどうにもしてやれないよ」
「そうだな… リッカも幼い頃はよく熱を出してやがったんだ。何度もやべぇと思ったがなんとか持ちこたえてくれて… それがもう成人するとは」
ぐすっ ぐすっ
「何泣いてんだよっ」
「だってよぉ、生まれた時からよく熱をだしやがってよぉ、3歳ぐらいの時に高熱で倒れちまってよぉ、原因がわかんなくてよぉ、本当に死んじまうんじゃねーかと思って心配で心配で」
当時の事を思い出して泣きじゃくる大将。
「良かったじゃねーかよ。今は無事に大きくなったんだから」
「お、おお、これもお守りのお陰だ」
「お守り?」
「リッカが高熱で倒れた時にたまたま王都に来た旅人がお守りをくれやがったんだ。金を持ってないから代金をこれで支払わせてくれって」
「それで?」
「藁にもすがる思いでそのお守りをリッカに持たせたら本当に落ち着きやがってな、徐々に熱も下がって治ったんだ」
「そのお守りってまだある?」
「いや、リッカが10歳になるまで熱が出るたびに持たせてたら最後は壊れちまったんだ」
まさか…
マーギンはリッカを鑑定してみる。
名前:リッカ
魔力値:883
げ、めっちゃ魔力値が高いじゃねーかよ。ということはリッカが高熱を出したのはやはり魔力暴走か。
「大将、リッカは成人したらハンターをやらせるのか?」
「馬鹿いえ、ハンターなんぞ危ない仕事をさせるかよ。リッカもここにくるクズハンターもどきみたいなのを見てきてるからハンターには絶対ならないって言ってやがるわ」
ならリッカの魔力値が高いことは黙っておいた方がいいな。それより食堂で役立てる方がいいだろう。
「大将って涙脆かったんだな。知らなかったぜ」
「歳食ったら誰でもこうなるんてっんだ」
「大将っていくつだ?」
「今年、41か42とかそんなもんだと思うぞ」
「自分が衰えてきたなと気が付いたのはいくつぐらいの時?」
「俺が衰えてるだとっ?」
「違う、全盛期の自分と比べてだよ」
「全盛期と比べてか…、現役を引退したのが25〜6歳の時だから多分その時が体力は全盛期だったんじゃねーかな。その後引退したからかどうかはわからんが昔と違うなと気付いたのは30歳超えたあたりじゃねーか?」
衰え始めたのが30歳か。俺が石化から解けたのが約3年前。石化されたのが26歳だっけか?なら俺は実質30歳前ぐらいだな。自分では衰えを感じないから、これからなのか、それとも…
「マーギン、お前はいくつになる?22〜3歳か?」
「俺はいくつなんだろうね?少なくとも1000歳は超えてると思うぞ」
「違う、実質年齢だ」
「いくつなんだろうね?多分26〜30歳前だとは思うけど」
「は?本当か?随分と若く見えんな」
「俺の生まれた所の人は皆が若く見えんだよ。見た目と年齢が合わないみたいだぞ」
「そうなのか。世界は広いな」
「だね」
「話は変わるけどよ、貴族街に何しに行ったんだ?」
「この大陸がどんな形をしているか見たかったんだ。庶民街の図書館にはそれが解る地図がなくてさ」
「で、何がわかった?」
「んー、なんとも言えない。でもちょっと調べに行きたい所は出来た」
「昔、お前がいた国の場所か?」
鋭い大将。
「まぁね、今は何も無いらしいけど、一度見ておこうかと思ってね」
「そうか… お前、この国を出るつもりか?」
大将は何かに気付いたのだろうか?
「近い内にそうなるかもしれない。俺が魔法を使える事が貴族にバレてというか話さざるをえなくなってね」
「あの貴族にか?」
「そう。地図を見たいと言ったから他国のスパイと疑われたみたいなんだ。ローズは騎士で兄さんも騎士でね。黙ったままならあの家に迷惑をかけそうだったからある程度話した。一応俺が攻撃魔法を使える事とかの報告は来年の3月前までは上に報告しないようにはしてもらっている。先に
「どんな風に話した?」
「他国で国に仕えていた魔法使いと言ってある。ここに来たのは失敗をやらかして仲間に転移魔法で飛ばされたらしく、その時の影響で記憶が曖昧と伝えた。だから地図を見たかったのは自分の国の近くの大陸かどうかを知りたかったからだと説明をしたんだ」
「嘘はつかなかったんだな?」
「稀に嘘を見抜く力を持った人がいるからね。本当は転移魔法じゃなくて石化で未来に飛ばされたって感じなんだけど、嘘にはなっていないと思う」
「そうか… しかし、そこまで話したなら色々とバレていくのは時間の問題だな」
「だろうね。だからこの国を出る準備はしていくよ。アイリスは春までに力のあるパーティーから誘いを受けられるようになるまで育てる。あと気掛かりなのは俺に懐いている孤児たちなんだよね」
「あの3ガキか」
「そう。将来ハンターになるつもりらしいから大将が面倒見てやってくんない?」
「俺がか?」
「そう、成人するまで雇って合間に鍛えてやって欲しいんだよ。住む所は俺の家を隠れ家みたいに改造しておくから」
「改造?」
「そう。留守の家の床下に勝手に住み着いているていをとらないと、他の貧民街のやつらが良い場所を奪おうとするだろ?」
「そうだな。子供を押しのけて自分の事しか考えないやつらが多いからな。しかし、あの店は借家だろ?」
「今のあの店の持ち主はババァなんだよ。アイツらが食えるようになるまでの家賃は先払いにするから問題ないと思う」
「そうか、分かった。アイツらの面倒はここで見る」
「ありがとうね」
「マーギン」
大将は真剣な顔をする。
「たまには帰って来いよ」
「気が早ぇよ。まだ出ていくと決まった訳じゃないんだから」
「そうか、そうだな。お前がいなくなったら洗い物が大変だ」
それだけが理由かよ、と笑ってマーギンは店を片付け、溜まった洗い物をしてからアイリスをおぶって帰るのであった。
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