難攻不落と言われていたダンジョンを千年かけて踏破しました

六山葵

プロローグ

第1話

剣は折れ、片足を失った。

目の前で余裕の表情を見せる巨大な竜。


まったくついていない……。


こんな化け物が出ると知っていたらこの迷宮ダンジョンに入ることはなかったのに……。


仲間はとうに失った。

この足じゃ逃げ切ることもできないし、戦おうにも武器がない。


竜はその巨大な首を持ち上げて、口元に火をためる。


逃がしてくれるつもりはないらしい。


「まったく……クソゲーだぜ」


迫りくる炎を前に俺は呟いた。




広大な土地に加え、人口も多く世界的に見ても豊かな国「トルネリア王国」。


その広大な大地で迷宮ダンジョンと呼ばれる建物が最初に発見されたのは数千年も前のことだ。


それ以来トルネリア王国では数多くのダンジョンが発見されてきた。

新たなダンジョンはいつの間にか生まれ、一度生まれたダンジョンが消えることはない。


内部には多くの魔物。強大なボス。

ダンジョンが国に及ぼす危険は計り知れない。しかし、与える恩恵も大きかった。


魔石。古の財宝。強力な武器。

ダンジョン内で入手できるそれらのものは国に大きな富をもたらした。


以来、トルネリア王国ではその富を求めてダンジョンに挑む者、「探索者」が増え続けている。


トルネリア王国の西。脅威度の低いダンジョンがいくつか集まるその土地に「ギービナ」という町があった。


探索者になりたいと考える者がまず最初に訪れる町である。


その町に作られた探索者向けの組合「探索者ギルド」で少女が一人肩を落としていた。


「また置いていかれてしまいました……。新しい仲間を探さなくては……」


水色の髪をショートカットにした彼女はひどく落ち込んでいる。

彼女の名前はリリア。駆け出しの探索者である。


彼女が落ち込んだいる理由はただ一つ。一緒にダンジョン攻略をしようとギルドの仲介で知り合い組んでいたパーティーに置いて行かれてしまったのである。


それは事実上の「追放」であることを彼女はもう知っていた。


なぜならば組んだパーティーに置いて行かれるのはもうこれで三度目。

いままでの二つのパーティーも今回と同様にある日突然待ち合わせの場所に現れなくなってしまったのである。


リリアはもう一度だけ大きくため息をつくと探索者ギルドの受付に重い足を引きずっていった。


「あの……探索者パーティーの仲介をお願いしたいのですが……」


リリアがそう言うと受付をしていた女性の表情が一瞬固まる。

この女性にこの頼みをするのももう三度目。内心では「またか」と気まずい思いをしているのだろう。


それを顔に出さないようにしているのは彼女のプロ根性の現れなのだろうが、一瞬の間が台無しにしてしまっている。


二人の間に気まずい空気が流れそうになるのを受付嬢が阻止する。


「今お調べしますね!」


と営業スマイルを浮かべてギルドの奥に引っ込んでいく。


しかし、数分待ったのちに再び現れた彼女は申し訳なさそうにしていた。


「現在メンバーを募集しているパーティーはなくて……。リリアさんの入っていた『夜闇のカラス」は昨日のうちにこの町を離れてしまったようです」


受付嬢は本当に申し訳なさそうにそう言った。

本来、パーティーの加入・脱退の際はギルドに申請する決まりになっている。


ダンジョンに誰が入っているのか、誰が帰ってきていないのかを明確にするためだ。

リリアがギルドに「無断」でおいて行かれたことに責任を感じているのだろう。


とはいえリリアにはギルドを責めるつもりはなかった。

どんな理由だったにしろおいて行かれた自分に原因があるのだろうし、ギルドのせいではない。


それに、他人のせいにして足を止めているほど暇でもないのだ。

パーティーメンバーにおいて行かれたからといって不憫に思った誰かが今日の宿泊費を出してくれるわけではない。


駆け出しのリリアに貯金などないし、このままでは泊まるところどころか今日は一食も食べられない。


リリアは受付の横に張られた依頼書の方へ向かう。


ダンジョンで宝が見つかり、それを自分のものにできるのは「ダンジョンが新たに見つかった場合」のみ。


ギービナ周辺にあるのは古くからあるダンジョンばかりでその内部にもう宝はほとんど残されていない言われている。


獲れるのはダンジョン内の魔物の身体の一部、いわゆる「素材」と魔力が溜まり結晶化した「魔石」だけである。


その魔石もこのあたりのダンジョンでは質が悪く小さいため、数十個集めてようやくパン一つ変えるのかどうかという換金率だった。


そんなわけで探索者ギルドにはダンジョン内の素材や魔石を集めて持ってきてほしいという町の住人たちの頼みごと、「依頼書」が貼られている。


まとまった個数を個人の依頼で集めてくるかわりに、普通に換金するよりも少し上乗せした額を報酬で得られる。


「依頼書」は駆け出し探索者の生命線のようなものだった。


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