第9話 竜殺し
◆アイシャ視点◆
「ふーん、まあまあやるじゃない。」
空を見上げれば、ドラゴンが落ちている。
右翼を斬り落とした張本人であるあの男自身も落下しているが、まあ自分でなんとかするだろう。
あの男は十分過ぎる程に成果を上げた。
あとは、私の番だ。
「力を貸しなさい、アロンダイト。あんたの好物が目の前にいるわよ。」
私の呼びかけに、アロンダイトは柄に埋め込まれた赤い宝石を輝かせ応えた。
アロンダイトは気分屋だ。
それはたぶん、私がまだ竜殺しをなし得ていないから、持ち主として認めてられてないが故にこうなってしまっている。
だから私は、ドラゴンを倒したかった。
アロンダイトの力を全て発揮させることが私の目的を達成する第一歩となるから。
「まずはその——鬱陶しい羽からよねっ!!」
落ちて来たドラゴンの残った左翼を切り落とす。
あの男が使っていた安物の剣とは違う。
アロンダイトの切れ味は流石のもので、素振りをしているのとなんら変わらない感覚で剣を振り抜くことが出来た。
刃こぼれ一つない。
これがアロンダイトの持つ対ドラゴンの力。
派手さはないけど、強力だ。
「さてと、これでただデカいだけのトカゲね。あとは確実にトドメを刺そうか……し……ら……」
アロンダイトの切れ味に、気を引かれ過ぎて戦いの緊張感を忘れていた。
ここは戦場、どんなに強い人間でも一瞬の隙が命取りとなる場所だ。
左翼を斬り落とし気分が良くなっていた私が振り返った時、目にしたのは、口内に炎を溜めたドラゴンの姿だった。
避け…———いや、無理。
今からじゃ間に合わない。
まさか瞬時にブレスに切り替えて来るなんて……しくじった。
回避は間に合わない。
だとすると取れる手段はただ一つ。
一か八か、ブレスを吐く前にドラゴンを殺す。
それが今の私に出来る、生き残る為の唯一の手段。
思いつくと同時に、駆け出していた。
少しでも早く辿り着くことが、生き残ることに繋がるから。
だけど、現実は無常だ。
私が4步目を踏み締めると同時に、視界は炎で埋め尽くされた。
“死”
死の一文字が頭を埋め尽くしたその時、私の腕は自然と剣を振るっていた。
「………これは?」
道が出来ていた。
剣を振るった私の前方に、ドラゴンに辿り着くための一直線の道が。
何かが射線に入った?
いや、違う。
斬ったんだ、炎を。
アロンダイトはただ切れ味がいいだけの剣ではない。
真の能力は所持者が竜を斬った時、その竜の力を奪い取ることが出来るというもの。
私が斬ったドラゴン、名はアズライグ。
ブレスからも分かる通りアズライグは炎を操る炎竜と呼ばれるドラゴンだ。
故にアロンダイトが得た力は、炎を操る力。
炎を放ち、炎を纏い、炎を斬る。
遂にアロンダイトが真価を発揮した。
「やったよ。お父さん。」
この力があれば、きっと仇を討てる。
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