ぶっ飛ばせ揚げたい焼き!

キュンです

前章(記念すべき第1話)

 「そのカレーうどんを飛ばさずに食べ終わったら帰りに、絶対毒入れてますよ亭の揚げたい焼きをニャンニャンワンワンパオンパオンランドが奢ってやるよ。」


 目の前で味噌ラーメンを食い散らかしている、この愚かな花岡という人間は上から目線で言ってきた。最低な野郎だ、ぶち殺してやる。

「言ったな。男に二言は無いぞ。」

 ジェンダーレスな時代にとんでもない事を言ってしまったと人生で1番でかい後悔が襲ってきた。

「ふたこと?」

 首を90度に曲げて言ってきた。首が90度?首が90度に曲がってる。く、首が90度に曲がってる。かなり怖い。なんだこいつ。

「にごんだよ、口頭でその間違いをするやつはお前以外にいないぞ。」

 ドチャクソにビビりながらも冷静に対応。

「まぁ、ギャグってやつよ笑笑笑」

 "ワラワラワラ"と本当に口で言っている。こいつは人間になりきれてない宇宙人か何かなのか?一人称ニャンニャンワンワンパオンパオンランドだしな。

「わかったよ。全て理解した。カレーうどん飛ばさずに食ってやる。」

 そう言って皿を抑えた瞬間、力を誤って思いっきりぶっ飛ばした。汁を飛ばすどころか皿ごと全て吹き飛ばした。


「ドンガラガッシャーーン!!」

 つい言ってしまった。

「力加減を間違えすぎじゃないか?しかもそんな古い効果音をわざわざ口に出すか?お前は人間になりきれてない宇宙人か何かなのか?」

 クッソ、さっきコイツに思っていた事をそのまま返された。悔しい、本当に悔しい。強くなってやる。いつか強くなってここに帰ってくる。そしてお前を倒す。そう強く決意した。

 服を見ると、真っ茶色になっていた。抹茶色なんかじゃない、真っ茶色だ。今にも大泣きしそうだ。泣きじゃくってやりたい。だがそんなことより認識すべきことがあった。

 三年生5人がこちらを見ている、怖い。高校三年生なんてこの世で1番怖い生物なんだから。

「おい、三年生達が見てきてるぞ。」

 愚かな花岡も気づいて言ってきた。

「お前も気づいたか。どうする、正直言ってめっちゃ怖い。ここ食堂って事忘れてた。マジで怖い。」自分でも反省する。そんなことより三年生が怖い。


「怖がんなよ。」

 ハッとさせられた。恐怖で焦りまくっていた自分に対して、愚かな花岡の言葉は綺麗に自分に刺さった。お前、めちゃくちゃかっこいいじゃねえか。そうだ。さっき強くなると決意した。俺は怖がらないぞ。


「おう。」そう言って熱く目を合わせた。


 すると、三年生達がイスを立ち、こちらへ向かってきた。

 やばいやばいやばいやばいやばいやばい怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。めっちゃ怖い。今にも大泣しそうだ。服茶色いし。

 愚かな花岡は何故か全く焦らない。強すぎるだろ!!三年生よりこいつの方がよっぽど恐ろしい存在なのかもしれない。いや、頼もしい。守ってくれ。結婚してくれ。

 三年生達はテーブルを曲がって、どんどんこちらへ近づいてくる。心臓がバクバクする。どうなってしまうんだ。


 そこで三年生のうちの一人が歩きながら口を開いた。

「山田先生、何してるんですか。」

 俺はハッとさせられた。確かに俺、何してるんだろう。大の大人が、カレーうどんをぶちまけ、服を真っ茶色にした。服からはカレーのいい匂いがする。実家を思い出してきた。

「カレーうどん飛ばしちゃった。」照れながら言う。

「流石に可愛くないっすよ、飛ばしちゃったとかいうレベルじゃないです。」

 真っ茶色服を見ながら言ってくる。

「誰かと思ったら愚かな花岡先生もいるじゃないですか。」

 気づいたように誰かが言った。

「一緒に食べてたんだ、こいつ教師のくせに三年生怖いーとか言ってたんだぞ。」

 愚かな花岡は俺の醜態を暴露した。どんどん俺が無能みたいになっていく。簡単に許されていいことでは無い。死刑。

「山田先生にも怖いものってあったんすね。」1人が言う。

「誰しもあるさ、またひとつ知識が増えたな。」生徒には上から目線で喋る。

「そんなに得した感じは無いすけどね。」

 生意気なクソガキめ。口答えしやがった。調子に乗ったイキリバカ高校生が。死刑。

「まあいいんだ、さっさと食堂を出て歯磨きをして授業の準備をしろ。」

 愚かな花岡は三年生達に俺よりも上から目線で命令した。だが俺の醜態を隠そうとしてくれているような気がして嬉しかった。この気持ちは恋かもしれない。


「山田。ニャンニャンワンワンパオンパオンランドがカレーうどんを飛ばさずに食べ終えたら、揚げたい焼きを奢ってくれるか?」

 食堂を去って行く三年生達を横目に、愚かな花岡は提案してきた。奢るに決まっているだろう、俺はお前に恋をしている。

「勿論だ。揚げたい焼きあげたーい、つって笑笑笑」

 "ワラワラワラ"と言ってみた。俺は宇宙人かなにかなのかもしれない、いやでも一人称がニャンニャンワンワンパオンパオンランドの奴には負けてしまうな。

 愚かな花岡は完全に無視して食券を買いに行った。俺を無視しやがった。前世で世界を救い、世界の覇者になり独裁していたら次の勇者に殺された哀れなこの俺を無視しやがった。


「よし買ってきた。」

 愚かな花岡は満足気にカレーうどんを持ってきた。まさかこいつカレーうどんを食って美味すぎて"トぶ"なんてクソつまらないことをするわけじゃないだろうな。やったらカレーうどんごとお前をぶっ飛ばしてやる。

 そんなことを思っていた矢先、カレーうどんが飛んだ。

 というか浮いた。カレーうどんが、浮いた。2人の思考が停止する。

「ん?」

 2人とも理解出来なかった。カレーうどんが浮いているんだもの 。愚かな花岡がカレうどんを置こうとした時、お盆だけテーブルにつき、皿はカレーうどんを入れたまま宙を漂った。

「浮いた、な。」

「うん、浮いた。」

 一番微妙な感じじゃねえか。

「これさ、飛んだって感じではないよな。飛んでるって言うよりは宙を漂ってるって感じ。」

「ああ。」

「だからさ、揚げたい焼き」

「買うよ。奢るよ。俺の負けだよ。ずりいよこれ。」

 若干面倒くさくなりながら言った。揚げたい焼きよりも目の前で起きていることの方が重要な気がする。一応、科学教師として。

 物理学に反した目の前のこれはなんなのだ?いや、物理学には反してないのか?重力を無視してるだけであって。無視してるなら反してるか。無視しているというよりは重力よりも強い力が働いているということか。つまり電磁気力関係か?そう、例えば──────


「ごめーーん!!超絶スーパーバチクソ強力磁石どんぶりにしちゃってたーー!!」

 答えに辿り着くぞというところで、食堂のおばちゃんが走ってりながら答えを言って来た。超絶スーパーバチクソ強力磁石どんぶりってなんだよ。なんでそんなのがあるんだよ。食堂だろ、ここ。

「すごーい、カレーうどんが浮いてるねー!こんなに綺麗に浮くのは凄いね。まるで魔法みたい!電磁気力の強さを1とした時、重力の強さっていうのは10のマイナス36乗くらいしかないから、質量が大きくても簡単に浮いちゃうんだねー!この宇宙には4つの力がベースとしてある。そのうちの3つの力を伝える粒子は見つかっているんだけど、重力を伝える粒子だけは見つかっていないんだよね。まだまだ宇宙は面白い!わかんない事だらけだね、皆で宇宙を解き明かそう!ピーース!!!」

 物理学ギャルめ。こいつとは熱く語り合えそうだ。そう言えば以前この食堂で、生徒達がツーブロ反対を掲げてテーブルを全て剛鉄に変えるというデモを起こしたんだった。すっかり忘れていた。


「てかアンタ、服真っ茶色じゃない!きったない!!ほら脱ぎなさい!」

 そう言って物理学ギャルは俺の真っ茶色ワイシャツをビリビリに引き裂いた。

「イヤアアアアアアアアアアアア!!!」

 つい乙女のような声を上げてしまった。てか破くな、俺のユニシロワイシャツ。

「ほら」

 そう言って物理学ギャルは新しいワイシャツを渡してきた。やけに重いが着ることにした。


 その結果、俺は浮いた。さっきのカレーうどんと同じく宙を漂った。

「あー!ごめーーん!超絶スーパードチャクソ強力磁石ワイシャツにしちゃってたー!」

 物理学ギャルは頭を掻きながら言って来た。

 だから!!なんでそんな物が食堂にあるんだよ!!!!


「人も浮くんだな。国語教師だから全然わからねえ。」

愚かな花岡は関心して言った。

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