第7話 五丁目について

side狐光咲夜


「美緒っ…!

何をやっているんだ!?」


「まぁまぁ、何があったのか知りませんが、あんみつをご馳走していただけですよ。」


鬼流さんが穏やかに言う。


「…美緒、お前は帰れ。」


「そうですね。

私も少し狐光さんと話があります。」


美緒はトボトボと帰っていった。


「ウチの者にちょっかいをかけるのはやめてもらえますか?」


「心外ですねぇ。

ちょっかいなどかけていませんよ。


それよりも、話があるのです。」


「?

何ですか?」


俺はアイスコーヒーを注文して、そう尋ねた。


「彼女、美緒さんね。

おそらく妖怪の血が入っていますよ。」


「まさか…!?

何の冗談だ?

そんなはず…」


「彼女と最初に会った時、私は彼女の腕を掴みましたが、その時彼女は彼女自身の妖気を発しました。

おそらくあの妖気の大きさから言って、クォーターまたは、1/8というところでしょうか…」


「そんな…

美緒が…


ま…さか…?」


「えぇ、そうです。

あの童話、いいえ、昔話の龍王の姫。

あの時お姫様は人間界に戻りましたが、もしも…

龍王の子供を孕っていたとしたら…?

1/8は、ちょうど美緒さんと同じ年頃という計算になります。」


鬼流さんは言う。


「馬鹿な…

美緒が龍王の子孫?


そんなはずは…」


「なぜ、と言いきれますか?


実際彼女はこのあやかし街に転移してきている。

普通の人間にそんな事が可能でしょうか?」


鬼流さんは畳み掛けるように言った。


「それから…」


「まだあるのかよ…」


俺はゲンナリしてそう答えた。


「五丁目の話ですよ。」


鬼流さんは言った。


五丁目、それは魔境とも呼ばれ、あやかし街から追放された妖怪のいくところだった。


「五丁目がどうかしたのか?」


「五丁目のぬらりひょんがどうも仲間を結集させているようです。

あやかし街に攻め込むつもりかも…

しれませんねぇ?」


鬼流さんは言う。


「待てよ。

あやかし街と五丁目には大きな結界が…


まさか…

結界を破るために美緒を呼び寄せた…?」


「私も同じ考えですよ。

もしも、美緒さんが龍王の直系ならば、結界を破る力を持っているはずです。


まぁ、全ては推測ですが、そう考えると全ての点と点が繋がります。」


鬼流さんは言う。


「分かった…


その話はまだ他言しないでくれ。

俺も美緒が出歩かないように注意しておく。」


俺はいい、鬼流さんは黙って頷いた。


そして、俺は勘定を払い、暗い気持ちで狐光書店へと帰っていった。


「美緒、俺と蝶花は付き合っていない。

騙されたんだよ、お前。」


そう言っておいた。


事実だ。

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