第17話 観戦

「ここが珍宮ちんぐう球場か……」


 射禁生活3日目。

 いよいよ我慢も折り返しに突入したこの日のお昼。

 道乃丈は潤葉に忘れ物を届けに来ていた。

 午後からの練習試合で着る試合用ユニフォームを忘れたそうで、先日の夜見へのデリバリーに続いて道乃丈が姉妹の手助けを行っている形だ。


 場所はこの世界における大学野球の聖地・名器珍宮球場。

 祟られそうな名称改変がなされている。

 しかし珍宝ランドもそうだが、この世界は男性数の減少を始めとする男性問題を幾つか抱えているからこそ、珍の字を縁起物や良いジンクスとして捉えている節があるようだ。

 名器珍宮という名前は決しておふざけではないのだろう。


 ともあれ、道乃丈は潤葉に到着したことを連絡。

 すると1分と掛からないうちに、練習用ユニフォーム姿の黒髪ショートポニテ女子が駆け寄ってきた。


「す、すみません道乃丈くんっ、わざわざありがとうございます……!」

「いえ、お気になさらず」

「今日はスカウトが観に来る試合なので、これでなんとか不真面目なところをお披露目せずに済みます……」

「……危なかったですね。ちなみにスカウトってどの球団が来るんですか?」

「えっと、多分12球団全部が来るんじゃないかと」

「すごいですね……希望の球団ってあったりするんですか?」

「それは特にないんですよね。子供の頃によく中継を見ていた分、巨珍に若干馴染みがあるくらいで」

「……巨珍」


 なんのひねりもなさ過ぎて逆に清々しい。


「ともあれ、もうじき試合が始まるので良かったら観ていってください」

「あ、はい……そうします」


 そんなこんなで珍宮球場のスタンドへ――。


「きゃー♡」

「キミどこの子っ?」

「かわいい~♪」


 するとスタンドにはベンチ外の野球部員やチアたちが集まっていた。

 もちろん全員女子。

 そんな女子大生たちの包囲網が道乃丈をあっという間に呑み込んだ。

 もはやサファリパークの中に投げ込まれた生肉状態である。

 その状態はもちろん今の道乃丈にはキツいモノだ。


 特にチアが難敵。

 ノースリーブとミニスカの衣装ゆえに腋やら太ももが丸見えで、とてもえっち。

 そんな女子たちに囲まれてムクムクしない方が無理。

 それでも気持ちを強く持って彼女たちに流されないように過ごし――やがて試合が始まれば、さすがに彼女たちはそっちの応援に意識を向け直していた。


 潤葉は2番ショートで先発出場。

 試合は12対7で潤葉たちの大学が勝利し、潤葉の個人成績は7打席5打数5安打2四球8打点1盗塁、ヒットの内訳はツーベース2本、スリーベース1本、ホームラン2本(ソロ、スリーラン1本ずつ)という結果で大活躍であった。


「潤葉さんすごかったですね」


 試合後、道乃丈は潤葉と合流して帰路に就いていた。

 すでに地元まで戻っている。

 夕暮れの道をマンションに向かって歩いているところだ。


「道乃丈くんの前で無様を晒したくはなかったですから」

「カッコよかったです」

「……そういえば、スタンドで変なことされませんでした?」

「そ、それはなんとか大丈夫でした……」


 試合終わりにチア部の面々から拉致されかけたものの、丁重にお断りして逃げてきた経緯がある。


「あと明日だけ耐えればいいんですよね? おねえと紗綾さんにはキツく言っておきますので、頑張って我慢してくださいね」

「あ、はい……ありがとうございます」

「それと、実はお薬を調達出来ましたので……我慢明けのわたしとのえっちはナマでお願い出来ますか?」

「……っ」


 潤葉だけはまともかと思いきや、そこはやはりムッツリなので色々準備しているらしい。


「な、ナマですか……」

「はい……わたしも道乃丈くんのぴゅっぴゅをじかに受け止めてみたいんです。ダメですか……?」

「だ、ダメじゃないですけど……薬使ってパフォーマンスとかに支障は……?」

「そこはしっかりと考えているので心配しないでください」


 とのことで。

 そういうことなら、男としては断れない。


「……わ、分かりました。じゃあ……そういうことで」

「はい、そういうことで」

 

 こうして潤葉との約束を引っ提げた状態で我慢生活は3日目も無事に終了。

 翌日の4日目はどこにも出掛けず瞑想して過ごした。

 そして――


「――ここが白十字の研究施設か……」


 我慢明けの午前中。

 道乃丈は精液採取のために白十字が保有する郊外の施設を訪れたのである。

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