第14話 我慢の始まり

「――はじめまして。特S遺伝子をお持ちのみっくん様。私は白十字財団会長の磯辺マリアンヌと申します」


 この日の午前。

 道乃丈の部屋には来客があった。

 荘厳な白い法衣のような衣服を纏う銀髪碧眼の少女だ。

 身長は150もあるか怪しい小柄な子。

 その隣には献精バスの黒髪ショトカお姉さんこと咲奈の姿もある。今日はナースウェアだ。


「えっと……」


 室内のソファーで彼女たちと向かい合っている道乃丈は、


「……あなたが白十字の会長さん、ですか?」


 と訊き返していた。


「ええ、会長の磯辺マリアンヌと申します。唯一の特S遺伝子として認定されたみっくん様にお会い致したく、こうして訪れた所存です」


 マリアンヌは繰り返しそう言った。

 ともすれば小学生にも見えないこともないので、会長だというのがイマイチ信じられない。


「にゅふふ、会長はれっきとしたオトナだよん♪ 見た目は洋ロリだけどね」


 道乃丈の疑念を見透かしたように、咲奈が補足する。


「なんなら実年齢はロリどころか――」

「――咲奈、殺しますよ?」


 マリアンヌが静かにそう言った。

 咲奈は凍り付いた表情で「……うぃっす」と黙り始める。

 世の中には知らない方がいいこともあるのだろう。


「こほん、ともあれみっくん様」

「は、はい」

「本日はお会いしたかったこととは別に、お願いもあって訪れました」

「……お願いですか?」

「はい。実は万全な精子を採取させていただきたいのです」

「万全な精子……?」

「先日咲奈のもとで献精いただいた精子は、みっくん様が朝にヌいたかえっちしたのかは分かりませんが、とにかく量的には万全とは言えないモノでした。万全の場合どれほどの量になるのか、その場合の精子の数や働きはどうか、など色々と更に調べてみたいと思っておりまして」

「はあ」

「ですので、万全な精子を採取させていただきたいのですが、よろしいでしょうか? もちろん報酬はお支払い致しますので」


 とのことで。

 道乃丈はひとまず素朴な疑問を呟く。


「……協力するのはやぶさかじゃないですけど、万全な精子って具体的にはどういう状態を指すんですか?」

「4日間、射精を禁じてください」


 マリアンヌがそう言ってきた。


「精子はおよそ4日間で満タンになると言われています。それ以降は精子が作られても体内に吸収されてしまい、量は増えません」

「……4日間の我慢ですか」


 最近は1日複数回出すことが当たり前になっている道乃丈にとって、それは過酷と言える条件かもしれない。


「いかがでしょう? もちろん無理強いは出来ませんが」

「……でも協力した方が世のためになったりするんですよね?」

「それはもう盛大に」


 その上で報酬も貰えるなら、引き受けない手はない、と道乃丈は思った。


「分かりました……じゃあ引き受けます」

「ありがとうございます。ちなみに本日は射精なさりましたか?」

「あ、えっと……しました」


 今朝、出勤通学前の夜見、潤葉、紗綾に押し掛けられ、搾られている。


「そうですか。でしたらその時点から96時間、計測していただいても大丈夫ですか?」

「あ、はい、大丈夫です」

「ありがとうございます。ではそういう感じでよろしくお願い致します。――咲奈、行きますよ」


 そう言ってマリアンヌがソファーから立ち上がった。

 どうやらもうおいとまするようである。

 立場的に暇ではないのだろう。


「時にみっくん様」


 咲奈が先に退室した一方で、マリアンヌがちょいちょいと手招きしていたので歩み寄る。


「なんですか?」

「率直に言ってタイプですので、我慢と採取が終わったら私とイイコトをしましょう」


 澄ました表情でそんなことを言われ、やっぱりこの世界の女性はそういう感じなんだなと再認識する。


「よろしいですか?」

「は、はい……大丈夫です」


 白十字の会長との繋がりをみすみす手放すのは勿体ない。

 そう考えて承諾し、ともあれこうして、我慢タイムが始まることになったのである。

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