第11話 渡る世間は痴女ばかり
週明け。
ハウスクリーニングが済んだマンション内の別室に道乃丈は移住した。
10畳の1LDK。
家具家電が揃っているのは紗綾の厚意だそうで、ありがたい限りだった。
『――道乃丈くんヘルプ!!』
そんな午前中、道乃丈が家具の配置をイジっているときだった。
「……ヘルプですか?」
夜見から電話が掛かってきたのである。
夜見の声はひっ迫していた。
『部屋に書類忘れちゃってさ! 道乃丈くんまだウチの合い鍵持ってるから入れるでしょっ!? 書類回収して会社まで持ってきてくれないかしら!!』
とのことで。
どうやら忘れ物をしたようである。
潤葉は大学に行ったので届けられないのだろう。
「分かりました。じゃあ書類の特徴を教えてください」
こうして目的の書類を回収した道乃丈は、夜見の会社まで向かうことになった。
電車で向かうことになり、最寄り駅のホームで電車を待ち始める。
先日咲奈と珍宝ランドに行った際は咲奈がタクシーを呼んでくれたので、駅前で待ち合わせたものの電車は利用していない。
紗綾とモールに出掛けた際も、彼女の車で出掛けている。
つまり道乃丈は今がこの世界における初めての駅利用となる。
「……男性専用車両か」
床に待機場所の表記があり、3号車と4号車は男性専用車両になっているらしい。
「この世界だと痴漢じゃなくて痴女が居る、ってことなんだろうか……」
道乃丈は迷う。
男性専用車両に乗るべきか乗らざるべきか。
(まぁ……言うてそういう被害に引っかかる可能性は微々たるモノのはず。それに男性専用車両に乗る=自分は痴女に狙われる可能性のあるイケメンだと思い込んでる自意識過剰の痛いヤツ、が成り立ちそうだし……)
そもそも通勤ラッシュの時間帯は過ぎ去っている。
混んでいない車両でそういう被害に遭うことはないだろう。
そう考え、道乃丈は普通車両に乗り込むことを決めた。
(げ……割と混んでるな)
どこかでイベントでもあるのだろうか、やがて到着した電車の中はごった返していた。
人口比率的に乗客は女性多め。
というか、目の前の車両に関しては女性しか乗っていないように見える。
そこに入り込むことに若干恐れを成した道乃丈だが、意を決して足を踏み入れた。
出入り口付近のつり革に捕まったのと同時に電車が動き出す。
(何事もありませんように……)
そんな風に祈った直後にお尻を撫でる感触が来たもんだから道乃丈は驚いてしまう。
(!? ば、爆速で食い付かれた……)
No.1遺伝子を持つ男性ホルモンが成せるワザだろうか。
しかも尻を撫でる手の感触はひとつではなかった。
(ふ、複数人っ……!?)
さわさわ、さわさわ。
すりすり、すりすり。
どうやら周囲に佇む女性たちがみんなで道乃丈のお尻をお地蔵様の頭みたいに撫でているようだった。
(そ、そうか……この世界の女性は痴女しか居ないのか……(白目))
今更過ぎるそんな感想を抱きながら、今度からは絶対に男性専用車両に乗ろうと胸に誓った道乃丈なのであった。
※
「――ありがとう道乃丈くん! 本当に助かったわ!!」
そして約20分後。
なんとか無事に夜見の会社へと到着し、そのエントランスで待機していた夜見に書類を渡すことが出来た。
「今度から気を付けてくださいよ?」
「もちろんだわ。――あ、ところで、このあと少し時間ある?」
「……ありますけど、何か?」
「もうじきお昼休憩だから。ね?」
(なるほど、ランチを奢ってくれるのかもしれない……)
「……分かりました。じゃあお昼休憩まで待ってます」
「うんっ。じゃあ会社前のカフェで何か飲んでて? もちろん私が出すから」
そんなこんなでカフェで待機し、やがてお昼休憩のために出てきた夜見と一緒に向かった先は――
「――あぁんっ♡ 午後の会議前に英気を養えるの最高過ぎるわ……っ♡」
ラブホ、である。
道乃丈は貪られていた。
(……ランチじゃなかったんかい)
もっとも、夜見にしてみればこれがランチなのだろう。
こうして道乃丈は別の意味で夜見のお腹を満たすことになり、その後貰ったお駄賃でとろろ牛丼を食べてスタミナの回復に努めたのである。
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