ホラーのショートショート集
優たろう
第1話 廃校で一番怖い物を探す話
これは僕が中学生の時に体験した話――
夏休みも中間を過ぎたころ、同級生4人で昔、廃校になった高校に行こうという話になった。夕方、校門の前に集合して、あらかじめ見つけておいた鍵のかかっていない窓から中に入った。
夏の5時なんてまだまだ日が高くて、薄く赤が混じった光に照らされた廊下を歩く。まっすぐの廊下に、規則正しく扉が並んでいる。
明るくて怖くなかったので、一人ずつに別れて、1時間後に”ここで見つけた1番怖い物”を持ち寄ろうという話になった。
時間はあっという間に過ぎた。
1時間後、職員室だった場所でそれぞれ持ってきた1番怖い物を並べた。タケミは理科準備室から骨格標本を持ってきた。マサミは音楽室から眼に画鋲の刺さったベートーベンの絵を持ってきた。サチエは家庭科室から包丁1本を、イチコは校長室から初代校長の写真を持ってきた。そして、マサオは給湯室からマグカップを持ってきた。
タケミが聞いた。
「マグカップなんて全然怖くないだろ?」
「ここって、10年以上前に廃校になって今は使ってないんだろ? なのに、ほら」
マサオがおそるおそるマグカップの向きを変える。
「マグカップについてる口紅、全然乾いていないだろ?」
そこには真っ赤な口紅の跡が、今付いたばかりのように鮮やかに光っていた。
結局、マグカップの口紅はマサオの自作自演ということにされ、優勝はタケミが持ってきた骨格標本に決まった。
各自、自分の持ってきた物品を返すときには日が沈みかかっていた。
「嘘じゃないんだけどな」
マサオを呟きながら例のマグカップを流し台に置く。手を放す瞬間、指先が口紅に触れる。
「なんか、血みたいだな」
指先をズボンで拭って、出口にむかう。1歩……2歩……
「――? ドア閉めたっけ?」
扉に右手をかける。
開かない。鍵??
「おい、誰か!」
返事がない。
もう一度、力を込める。開かない。
奥から声が聞こえる。
「……一緒に行こう ……さびしいよ ……一緒に行こう ……」
「ちょっと、誰か! 誰か!!」
直後、手探りで鍵のツマミを見つけ、給湯室を飛び出した。
校舎を出た時には、同級生たちの姿は無かった。
あとから知ったことだが、あの肝試しの2日前に旅行先でサチエは包丁で刺されて亡くなっていたとのことだった。思い返せば、給湯室で聞いた声はサチエのものだったような気がするが、今となっては確認できない。僕以外の3人は、あの日から行方不明になっている。
※この作品はフィクションです。
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